スパークプラグの種類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/17 10:16 UTC 版)
エンジンの設計に応じてプラグホールの径や深さは一様ではないため、点火プラグのネジ部には径と長さに複数の種類がある。長さについてはネジリーチと呼ばれ、適切なものを選択しない場合はエンジンの不調や破損を招く恐れがある。 プライベーター(英語版)による小排気量エンジンのチューニングや、車両改造の余地が極めて限定されたレギュレーションの自動車競技などにおいては、シリンダーヘッドの燃焼室を改造することなく圧縮比を大きく変化させる目的で、意図的にネジリーチが異なる点火プラグを選択したり、ガスケットの枚数や厚さを変化させてピストン上端ギリギリの位置に突き出し量を調整する手法が行われる場合もあるが、一般的にはネジリーチが長すぎる場合は、接地電極が過熱したりネジ部に堆積物が溜まるだけでなく、ピストンとプラグの先端が衝突してエンジンやプラグ破損を招く可能性がある。なお、ネジ山の露出に伴う接地電極の過熱が極度に進行した場合、点火プラグがグロープラグとして機能してしまい、過早着火(プレイグニッション)によるエンジンブローを招く危険性が高く、露出したネジ山にカーボンが堆積して焼結した場合、プラグレンチで取り外すことが極めて困難になるとされる。逆に、ネジリーチが短すぎる場合はプラグホールのネジ部に堆積物が溜まる場合があり、後々正規のネジリーチのプラグの装着が困難となる危険性がある。 同じネジリーチでも、燃焼室内への電極の突き出し量が大きいものもあり、ハウジングが長く突き出している場合や電極だけが長く突き出している場合がある。電極が燃焼室内に突き出すことにより、放電で生成された火炎の中心核がよりピストン側に近づくため、燃焼効率が向上する傾向があり、燃焼行程の際にはより多くの熱を吸収してカーボンの付着を防ぎ、吸気行程では混合気により素早く冷却される事から、通常のプラグと比較して同じ熱価でもより広いヒートレンジ特性を獲得できるとされている。 これとは逆に、ピストントップと燃焼室とのクリアランスが狭過ぎて標準型プラグの電極突き出し量さえも許容できない一部のレーシングカー用エンジンでは、中心電極と接地電極がハウジングの奥深くに引っ込んだ形状のプラグが採用されることもあったが、火炎の中心核が燃焼室壁面よりさらに内側に生成される事から、燃焼効率は突き出し型と比較して悪い傾向があるとされる。この形状のプラグは米国ではリトラクト型と呼ばれ、パッケージにはRの字が大書されていた事から、レーシング用と誤認されて標準型や突き出し型指定のエンジンに装着され、却ってエンジンの不調を招く事例がよく見られたともされる。 標準的なプラグにおける接地電極は断面が長方形で、ハウジングから伸びた1本の接地電極が中心電極の頭頂面と平行に配置される形状を持ち、平行電極プラグとも呼ばれる。これに加えて、中心電極だけでなく接地電極の先端に細い白金チップを付けたり、電極にV字型の溝を付けて電極外縁に近い部分で放電が起こるようにして着火性を改善した製品がある。平行電極プラグよりも短い複数の接地電極を設けて中心電極の側面との間で放電させ、耐久性を向上して接地電極の過熱を抑制する製品もある。 ハウジングから突出した形状の接地電極を持たず、極めて短い碍子脚部の表面に沿って放電させる沿面放電プラグと呼ばれる種類があり、絶縁部に堆積した汚損を焼き切る機能を持つ。振動の激しい船外機や、F1などのレース用として利用されているが、燃焼室壁面からの熱伝導の影響のみを受け、燃焼に伴う火炎からの過熱の影響もほとんど受けないことから、熱価が極端に高い特徴を持つ。沿面放電プラグは点火装置の放電特性も極めて高い出力が要求されるため、CDIなど強力な点火装置を持つ車両に装着するのが望ましいとされる。 これらの他には、碍子端部を長くして部分的に沿面放電させながら熱価を低くしたセミ沿面タイプや、碍子脚部の汚損時にのみ沿面放電して堆積物を焼き切るよう通常の接地電極と沿面放電用の接地電極を組み合わせたハイブリッドタイプ、汚損時にガスポケットの底部に設けられた補助火花ギャップで放電するタイプ、中心電極を取り囲むように複数の接地電極を設けることで、汚損時に中心電極周辺のエアギャップで放電可能な間欠放電タイプも製品化されている。これらも主に点火装置の性能が十分ではない古いオートバイで特に大きな効果が期待できるとされる反面、CDIなど十分に強力な点火装置を備えた車両ではあまり効果が期待できないともされる。 高回転型の二輪車用やレース用には、接地電極を短くして耐震性向上させて電極の温度上昇を抑えた斜方電極プラグが用いられる場合がある。また、ヴァンケル型ロータリーエンジンでは爆発回数が多く、プラグが燃焼ガスに曝される時間が長いため、特殊な形状の接地電極を持つ専用品が用いられる。
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