燃焼行程
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/06 05:53 UTC 版)
拡散燃焼ディーゼル機関は噴霧燃焼における液滴の拡散燃焼である。燃焼室内の圧縮加熱した空気に液体燃料を噴射すると、複数の微細な液滴が蒸発しながら、個別に表面の拡散域が燃えやすくなり、自己発火と拡散燃焼を繰り返し、隣の液滴に燃え拡がる。近年、液滴間の燃え拡がりの主要因は着火に伴うマランゴニ対流による蒸発ガスの噴出で、着火を伝播すると分かった。そして重力下では高圧になるほど、自然対流により、マランゴニ対流が阻害され、燃え拡がり速度が低下する。その他、高圧になるほど熱拡散率と物質拡散係数も減少するため、燃え拡がり速度に限界がある。 拡散燃焼は一気に着火、燃焼しないので、火花点火・均一予混合燃焼で起こる点火プラグを起点に広がる火炎面の伝播はない。適切な着火遅れは拡散、混合域の拡大により、良好な拡散燃焼をもたらし、燃焼室の隅には空気だけが止まっているので圧縮比が高くても異常燃焼によるノッキングは発生しない。ただし低温始動時や着火性の悪い燃料では長い着火遅れから一気に予混合的に燃焼するディーゼルノックが発生する。 軽油ディーゼルが確実に低温始動するため圧縮比を16-18程度にしてきた。この高圧縮比では暖機後の高負荷時に大量の燃料噴射が行われると、燃焼室が大幅に発火点を超えているため、燃料が著しく不均一で濃い領域において、気化する前の液滴まで早期に発火し低酸素状態で不完全燃焼して大量のスス状PMが発生していた。PMは発がん性のある大気汚染物質となる。本来は十分に拡散して気化しかけている液滴の表面から内部に向かって完全燃焼したい。さらに完全燃焼する条件でも空気余剰の燃焼ガスが高温、高圧となるため、余った酸素と窒素が結合し窒素酸化物(NOx)も大量発生する。 従来は「圧縮着火」の条件を優先し、「拡散燃焼」にとっては高圧すぎて、過早着火による不完全燃焼により排気ガスが汚く、効率も低下していた。高圧縮の問題を低減しつつ、上死点で点火したときの十分な膨張比を考えると、自動車用軽油ディーゼルの圧縮比は14台が良いとされている。この圧縮比で燃料が自己発火できる手段として燃料噴射の高圧化と多段噴射が必要になる。高圧燃料噴射で油滴を微細化して気化しやすくし、多段燃料噴射によって空気を含んだ拡散領域を拡大し、高温になりすぎない雰囲気で完全燃焼をさせる。低温始動には#予熱機構を拡充する。 このような不均一な拡散燃焼とは均一混合気が燃焼室全体に広がる前に発火しているに等しいので原理的にシリンダー容積を使い切ることが難しく、容積あたりの出力が低い。高圧縮であることから燃焼速度が遅く、高回転で運転できない。 PCCI(予混合圧縮着火)1995年にはディーゼル機関の低負荷領域でPCCI(Premixed Charged Compression Ignition、〔不均一〕予混合圧縮着火)が実用化される。これは吸気過程で燃料を噴射し不均一な予混合気を生成した後に一気に圧縮着火させるもので、制御されたノッキングと言えるものである。予混合燃焼なのでPMが発生しないうえに、EGRと併用して低負荷時の燃焼温度を低下し、ディーゼルノックとNOxを低減しながら、希薄燃焼による燃費を向上する手段とされている。 ただしPCCIは高負荷時には激しいディーゼルノックを発生させるため使用できない。高負荷時の有害排気低減には圧縮比14台で、きれいな拡散燃焼を実現することが必要になる。
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