『言海』から第二次世界大戦まで
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「国語辞典」の記事における「『言海』から第二次世界大戦まで」の解説
近代国語辞典の始まりは『言海』であると一般に認められている。もっとも、その前段があった。 文部省編輯寮では『語彙』という辞書の編集が進められた。ところが、1871年に「あ」の部が成立した後、1884年に「え」の部まで出たところで頓挫した。大槻文彦は、その原因を議論にのみ日を費やしたせいだとする。 1885年には近藤真琴編『ことばのその』、1888年〜1889年には高橋五郎編『和漢雅俗いろは辞典』、1888年には物集高見編『ことばのはやし』、1888年には高橋五郎編『漢英対照いろは辞典』が刊行されている。 『言海』は、『語彙』の失敗に鑑みて、文部省の命により大槻文彦のほぼ独力によって編集が進められた。成稿の後、資金不足のため、しばらく文部省内に保管されたままだったが、1889年から1891年に私費で刊行された(当初は全4冊)。本文約1000ページに3万9000語を収録する初の本格的な小型国語辞典である。語釈もきわめて詳しく記された。後に吉川弘文館などから1冊本として刊行されるようになった。その後も印刷を重ね、1949年に第1000刷を迎えた。 大槻はこの辞書にほとんど全精力を注いだ。編纂中、幼い娘、そして妻を相次いで病気で亡くし、その悲嘆のうちに本書を刊行したと『言海』末尾の「ことばのうみ の おくがき」で述べた。 『言海』以降の主な辞書を以下に示す。 言海 大槻文彦による自費出版(1889年〜1891年)大槻文彦 日本大辞書 日本大辞書発行所(1892年〜1893年)山田美妙、中型口語体。アクセントのついた辞書。 日本大辞林 宮内省(1894年)物集高見 帝国大辞典 三省堂(1896年)藤井乙男・草野清民 日本新辞林 三省堂(1897年)林甕臣・棚橋一郎 ことばの泉 大倉書店(1898年〜1899年)落合直文初刊は和装5冊。1899年洋装1冊。収録語は約13万語で、古語・俗語・方言のほか固有名詞といった百科的なものに及び、出典・語源を挙げる。落合没後1908年に嗣子・落合直幸らが『大増訂日本大辞典ことばのいづみ補遺』1冊を刊行。 辞林 三省堂(1907年)金沢庄三郎同時代の言葉を多く取り入れたことが特徴。1911年改訂。『広辞林』『小辞林』『辞海』『明解国語辞典』など後に三省堂が刊行する諸辞典の祖に当たる。 大日本国語辞典 冨山房・金港堂(1915年〜1919年)松井簡治・上田万年約20万語の本格的な辞書。『世界大百科事典』の該当項目は「規模が大きく編纂方針も整備され、のちの国語辞書の一つの範となった」と評し、『日本辞書辞典』は「最初の、近代的大型国語辞典」とする。松井はこの辞典のために、後に静嘉堂文庫に収蔵されることになる多数の資料を集め、語釈の筆を執るに当たって「一日三十三語」という目標を立てて実行したという。のちの『日本国語大辞典』につながる存在。初版は全4巻。1928年〜1929年修正版全4巻。1939年〜1941年修訂版全5巻。1952年修訂新装版全1巻。 言泉 大倉書店(1921年〜1929年)落合直文(著)、芳賀矢一改修『ことばの泉』を芳賀矢一が増補改訂したもの。復刻版に『日本大辞典 言泉』全6巻(日本図書センター、1981年)がある。 広辞林 三省堂(1925年、1983年第6版)金沢庄三郎『辞林』を引き継ぐ。1934年の新訂版は敗戦後の1950年代まで版を重ねた当時の代表的な存在。1958年の新版、1973年の第5版と改訂が続き、1983年の第6版が最終版。第5版・第6版の版次は『辞林』を初版としたもの。 小辞林 三省堂(1928年)金沢庄三郎『広辞林』の小型版。非常に普及し、1956年ごろまで版を重ねた。1957年『新小辞林』に引き継がれる。 大言海 冨山房(1932年〜1935年)大槻文彦『言海』の増補改訂版。語源の記述が独特で、用例が豊富になっている。大槻没後に協力者・近親者らにより刊行に至る。敗戦前の大規模な国語辞典として『大日本国語辞典』と並び称される。 辞苑 博文館(1935年)新村出先行の『大日本国語辞典』『広辞林』『言泉』を引き写していると指摘されている。『広辞苑』は『辞苑』の改訂作業から発展したもの。 大辞典 平凡社(1934年〜1936年)石川貞吉ほか約72万項目と収録語数が最大の国語辞典。全26巻。1974年縮刷版2巻、拡大鏡付き。『大日本国語辞典』『大言海』と併せて三大国語辞典と呼ばれ、収録語には固有名詞や方言なども含む。
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