入場券 日本の鉄道駅の入場券

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入場券

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/04 09:46 UTC 版)

日本の鉄道駅の入場券

マルス端末で発行した入場券
硬券入場券
軟券入場券

鉄道においては、見送りなど、乗車船以外の目的で駅の改札内に入場する際に発行される。一般には、最低運賃と同額の場合が多い。しかし、最低運賃が異なる複数の会社・路線が同一改札内で利用できる駅(共同使用駅)には低い方の運賃に設定される場合や、各社の異なる料金で発行され、それぞれの収入として扱われながら効力が同一[注釈 2]という例がある。

なお、会社や駅によっては制限時間を設けているところもあり、その旨を説明する目的などから、券売機での発売をせず窓口でのみ入場券を発行する駅も地方の小規模駅を中心に存在する。かつては東急電鉄(旧・東京急行電鉄時代)、名古屋鉄道近畿日本鉄道京阪電気鉄道の全駅では、窓口でのみの発売であった。入場券自体を発売していない事業者(ほとんどの地下鉄西日本鉄道など)もあるが、便宜的に最低運賃の乗車券を入場券として利用させる場合もある[3]。過去に北海道地方では、最低運賃の乗車券と入場券が併記されている兼用の券も存在した。

中間改札口を有する駅で、それぞれの駅を管轄する事業者が異なる場合は、原則としてそれぞれの事業者が発行する入場券が必要である。ただし国鉄時代からの慣例として、新幹線在来線を管轄するJR旅客会社が異なる駅(東京駅など)は、いずれかの事業者が発行する入場券で新幹線・在来線とも入場できる。在来線が第三セクター鉄道に移管された駅では新幹線・在来線それぞれの入場券が必要である[注釈 3]

日本で初めて入場券販売を行ったのは、1897年明治30年)の山陽鉄道(後の山陽本線を敷設した私鉄)であったとされる。 また、1926年(大正15年)4月25日には、上野駅東京駅自動券売機による入場券(10銭)の発売が始められた[7]

素材により「硬券入場券」や「軟券入場券」と分けられる。改札の自動化が進んだ現在でも、一部の鉄道事業者では硬券入場券が窓口で販売されている。とりわけ硬券(厚紙を用いた券)によるものは記念品として発行されることが多く、鉄道ファンのみならず旅行客などにも珍重されている。変わった需要としては、年月日が数字並びの時(例:平成12年3月4日)に、特に硬券入場券が記念で多く買われる例がある。一方、新駅開業などで記念入場券も発行されており、切符の一分野でもあることから収集家も存在する。

JRにおいては、みどりの窓口でも入場券を発券している。「軟券」に部類されるが、超耐久感熱紙のため、硬券が廃止された現在でいつでも手に入る入場券としては券売機券よりも保存性に優れており、観光記念に購入する者もいる。ただし、感熱紙のため、いくら耐久性が高いとはいえ、用紙製造メーカーが品質保証しているのは7年間であり、保存状態によってはさらに短くなる。

一部の駅では定期券に類似した「定期入場券」も発行されている。これは表口と裏口を自由に行き来する通路を持たない駅で、頻繁に通り抜けする人を対象に発行されるものである[注釈 4]

駅構内への入場には「乗車船の目的」と「乗車船以外の目的」の二つに分けられる。前者は乗車券類、後者は入場券が必要となる。JRの旅客営業規則第294条には「次の各号に掲げる者が、乗車船以外の目的で乗降場に入場しようとする場合は、入場券を購入し、これを所持しなければならない。(後略)」と規定されている[注釈 5]

したがって、定期乗車券を入場券代わりに使用することはできない。定期乗車券は乗車券の一種であり、乗車券は乗車券類に含まれるため、「乗車船の目的」に限り使用でき、「乗車船以外の目的」(送迎等の入場目的)には使用できないからである。同規則第147条第6項には「乗車券類は、乗車船以外の目的で乗降場に入出する場合には、使用することができない。」という規定があり、他の多くの鉄道事業者においても同様の規定がある。

SuicaなどのICカード式乗車券についてもあくまで乗車券類であることから、原則として入場券代わりに使用することはできない。ただし、JR東日本では2021年3月13日から交通系ICカードを入場券と同等に扱うサービス「タッチでエキナカ」を開始した[8]

入場券に係る料金(入場料金)は、駅構内の秩序や安全に対する対価とされており、異常時の入場制限などへの配慮のため、また、車船内への立入禁止は、出発時のドア付近の混雑や誤乗防止のためとされている。なお古いタイプの券売機では乗車券と入場券の購入ボタンの区別が付きにくく、入場券を乗車券と間違えて購入して目的地までそのまま乗車してしまうケースも見受けられた。 厳密に規定を適用すると入場した駅から改めて運賃相当額を支払う必要がある。

経理面では、乗車券・定期乗車券・入場券のいずれも、鉄道会社の経常収入(売上高)のうちの「鉄道事業営業収益」に当たり、乗車券や定期乗車券は「旅客運輸収入」として、それぞれ「定期外運賃・料金」と「定期運賃・料金」に分類されるが、入場料金は「運輸雑収」のうちの「旅客雑収」として、乗車券払戻手数料金、携帯品一時預り料金、手回品料金等と同じく「旅客に係る諸料金」に分類される[9]

また、近くに踏切や通路がない、「開かずの踏切」となっているといった事情から、通行者の便宜を図るため「構内通行券」などと称した券を発行して駅改札内を通行させている場合もある。これは実質的な無料の入場券と言える。例えば北陸新幹線開業直後、高架化完成前の富山駅で在来線(あいの風とやま鉄道管理)を対象に実施された例がある[10]。現在でも神戸電鉄志染駅で発行されており、駅改札内の踏切を無料で通行できる。同様の理由で自由通路が存在しないために駅南北間の通行に支障を来している高尾駅(JR東日本管理)や春日部駅などでは高齢者身体障害者などに対して、入場券購入費用の補助制度を設けている地方自治体もある[11][12]

記念入場券

駅の開業などを記念して記念入場券が発売されることがある[13]

「縁起物」としての入場券

鉄道の駅の中には、特に駅名の字面で縁起の良さを感じさせるものがあり、これらの駅では縁起物として入場券を発行しているところがある。この効果を狙って、命名を行った駅もある。無人駅も多く、この場合は近隣の有人駅で発売されている。

駅名に因むもの

人物に因むもの

なお、乗車券における例については「縁起物乗車券」の欄を参照。

トイレや駅ナカ施設の利用時

公衆トイレが駅の改札内にしかない地区は珍しくない。『東京新聞』が首都圏の鉄道各社に取材したところ、トイレを使いたい場合の対応は以下の通りであった[14]

入場券を購入してもらう。
JR東日本、東武鉄道京成電鉄京王電鉄京浜急行電鉄
原則的に入場券が必要だが、やむを得ないと駅係員が判断すれば入場券なしで利用を認めることもある。
西武鉄道東急電鉄相模鉄道
自動改札機を通れる無料の「入場証」を渡す。
小田急電鉄(2016年3月開始)
入場券がなく、利用者を改札に近いトイレに案内する。
東京メトロ東京都交通局

このほか大都市圏の主要駅では「駅ナカ」と呼ばれる改札内の飲食・商業施設が増えている[注釈 6]。ほとんどの事業者では、改札内に立ち入るだけで入場券は必要となるが、小田急電鉄では商業施設やコインロッカーの利用が証明できれば入場料を払い戻している[15][16]近鉄大和西大寺駅では、券売機での購入時に入場券と割引券が発券され、店舗で割引券を提示すると入場券代金分の割引と、場合によっては差額分の返金が受けられる[17]。またJR西日本新大阪駅では、入場後に入場券を構内の書店に呈示して割引券を受取り、500円以上の買い物をすると入場券分の代金が値引きされる[18]

なお、入場券には不正乗車防止のため多くの場合、時間制限(JR北海道・JR東日本・JR東海・JR西日本の全駅およびJR九州小倉駅博多駅の場合は発売から2時間。関西私鉄の一部でもほぼ同様の制度あり)があり、超過した場合は再度入場料金が加算される。


注釈

  1. ^ かつては主催者がこの半券を税務調査のために取っておく必要があり、主にクラシックコンサートの主催者がこれを行なっていた。半券そのものに入場券の値段が書いてあることから、それを枚数と掛け合わせることによって当日のコンサートの収益がわかる仕組みだったため、合理性を求める上では必要不可欠なものであった。
  2. ^ 改札分離前の和歌山市駅の場合、窓口では業務を受託していた南海電気鉄道の様式ながらJR西日本の料金で発売された一方、自動券売機では南海電気鉄道により同社の料金で発売され、それぞれの収入として扱われていた。
  3. ^ 2021年時点、新幹線がJR旅客鉄道会社の管轄、在来線が第三セクター鉄道会社の管轄である駅において、新幹線・在来線それぞれの改札内を直接接続する連絡改札口が設置されている駅は存在しない。例えば、八戸駅にはかつて連絡改札口が設置されていたが[4]、在来線の青い森鉄道移管に伴い閉鎖されている[5]。例外的に在来線がJR西日本管轄である金沢駅IRいしかわ鉄道も入場券を発売しているが、この入場券で新幹線改札内には入ることはできない[6]
  4. ^ 改札内店舗の従業員が購入し利用することも見られたが、近年では自社の従業員証での入場を認めることが多い。
  5. ^ JR四国では、例年10月の鉄道の日前後に開催される多度津工場の一般公開イベントで、来場者のアクセスとして多度津駅から工場内に直通するシャトル列車を運行しているが、多度津駅からの乗車の場合は多度津駅の入場券での乗車を便宜的に認めている(多度津工場は多度津駅の構内とみなす。多度津以外の駅からの利用の場合は多度津駅発着の乗車券で乗車可能)。
  6. ^ かつて、JR東海の名古屋駅では改札内の飲食店のみの利用客が非常に多く、入場券専用の自動券売機が設置されていたことがあった。
  7. ^ #記念入場券」「#「縁起物」としての入場券」で述べたようにコレクション用の入場券としては発売することがある。

出典

  1. ^ 入山料、あなたは払いますか? 登山のコスト、誰が負担すれば:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2022年10月7日). 2023年5月2日閲覧。
  2. ^ “クラシックコンサートのチケット、“半券”はなんのためにある?意外に重要な役割が…”. Business Journal. (2020年8月8日). https://biz-journal.jp/2020/08/post_172928.html 2020年8月10日閲覧。 
  3. ^ 市営地下鉄に、見送りなどで入場したい場合にはどうすればいいですか”. 横浜市. 2016年8月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年7月5日閲覧。
  4. ^ 八戸駅構内図”. 東日本旅客鉄道 (2008年6月). 2008年6月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年9月18日閲覧。
  5. ^ 八戸駅構内図”. 東日本旅客鉄道 (2010年12月). 2011年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年9月18日閲覧。
  6. ^ きっぷの取扱い・購入方法”. IRいしかわ鉄道. 2020年6月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年7月6日閲覧。 - 「入場券」の節参照。
  7. ^ 「東京・上野両駅に入場券の自動券売機登場」『東京朝日新聞』1925年4月25日夕刊(大正ニュース事典編纂委員会 『大正ニュース事典第7巻 大正14年-大正15年』本編p.479 毎日コミュニケーションズ刊 1994年)
  8. ^ IC入場サービス「タッチでエキナカ」の開始について』(PDF)(プレスリリース)東日本旅客鉄道、2021年1月19日https://www.jreast.co.jp/press/2020/20210119_ho02.pdf2021年1月19日閲覧 
  9. ^ 「鉄道事業会計規則」(昭和62年2月20日運輸省令第7号)第5条別表第一
  10. ^ 日本の議論「北口に出られない!」混雑、不便、人手不足・北陸新幹線で難題次々”. 産経新聞社. p. 2 (2015年4月19日). 2021年9月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年9月20日閲覧。
  11. ^ JR高尾駅構内の通行費用を補助”. 八王子市公式ホームページ (2022年4月1日). 2022年8月31日閲覧。
  12. ^ 春日部駅構内通行費用支援事業”. 春日部市公式ホームページ (2022年4月21日). 2022年8月31日閲覧。
  13. ^ 京都駅開業140周年記念イベント開催(記念入場券の販売など)JR西日本ニュースリリース(2017年1月26日)2022年8月24日閲覧
  14. ^ 改札出た後、駅内のトイレ借りられる?JRなど「入場券購入を」首都圏の各社調査:駅係員判断で認める■「入場証」無料配布『東京新聞』朝刊2022年8月11日6面(2022年8月24日閲覧)
  15. ^ 町田駅改札内のフードコンビニ「フー&ハート」にて「FC町田ゼルビア」応援キャンペーンを開催 小田急電鉄ニュースリリース(2016年4月27日)2022年8月24日閲覧
  16. ^ 変わる駅の「入場券」 小田急は全駅で返金制度も導入 背景に何が 乗りものニュース(2018年3月12日)2022年8月24日閲覧
  17. ^ タイムズプレイス大和西大寺「Times Placeサービス券付」の入場券ご利用方法 - ウェイバックマシン(2018年8月29日アーカイブ分)
  18. ^ 入場券でお越しのお客様へ エキマルシェ新大阪(2022年8月24日閲覧)
  19. ^ Southwark Station platform ticket cut to 20p for Waterloo East passengers
  20. ^ 駅集中管理システム・電車のご利用案内”. 名古屋鉄道. 2021年6月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年9月23日閲覧。
  21. ^ 例:よこはまコスモワールドの入場料






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