PHYとは? わかりやすく解説

物理層

(PHY から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/26 08:40 UTC 版)

物理層(ぶつりそう、: physical layer)は、OSI参照モデルにおける第一層。機器間の接続において、ケーブルや電磁波などの伝送媒体上で電気信号光信号の形でデータを送受するための方法や手順が規定される。

物理層では上位層が要求する仕様を満たすような物理現象があることを前提としている。実装可能な物理層の仕様は利用する物理現象により制約され、その制約を超えた通信を行うことはできない。

概要

物理層は、NICネットワークスイッチなどの機器において、データを生の物理量の形式で伝送媒体に送受する処理を受け持つ。TCP/IPではリンク層に相当し、代表的な実装にイーサネットがある。物理層レベルの処理を行う機器としてモデムDSU・ONUがあり、LAN間接続ではリピータリピータハブがある。

物理層の主な機能・役割には以下のものがある。

物理現象に適した伝送媒体の利用
電気通信のために銅線などの導体が、光通信のために光ファイバが、無線通信のために自由空間上の電磁波などが利用される。異なる伝送媒体をサポートするために挿抜可能なトランシーバモジュールを利用できる機器もある。
伝送媒体に適したデータ送受[1]
一般に伝送路符号を用いてデータを適切なタイミングの電気信号パターンに変換し、この符号形式でビットまたはシンボルごとに送受する。電気信号は搬送波赤外光変調した形で光通信や無線通信を実現できる。信号の送受には伝送路の数に応じてシリアル通信パラレル通信の方式がある。
機器間の接続互換性の保証
伝送媒体はケーブルコネクタアンテナなどから構成され、その機械的仕様として最大距離長・コネクタ形状・ピン配置などが、電気的仕様として信号強度インピーダンス・信号周波数伝送速度などが共通化されている[2][3]イーサネットでは異なる複数の伝送速度のプロトコルを機器間で事前共有するオートネゴシエーション機能がある[4]
複数の機器による伝送媒体の共有
回線共有の接続形態はポイントツーポイントマルチポイントポイント・ツー・マルチポイント通信があり、より広範にはネットワークトポロジにおいてバス型・スター型などと分類される。複数の端末からの同時アクセスを実現するために回線切替で処理したり、エコー除去WDMなどで多重化したりする。特に機器間の双方向通信では送受切替する方式を半二重通信、送受同時処理するものを全二重通信と呼ぶ。方式によってはCSMA/CDCSMA/CAのように第二層にあたるデータリンク層で処理する場合もある。
通信の信頼性と伝送効率の向上
イコライザフィルタクロック・データ・リカバリなどの信号処理や、さらなる信頼性向上のために誤り検出訂正などを適用することもある[5]

副層

ITU-T G.9960では、物理層をさらに階層構造に分けて、以下のような副層(サブレイヤ)を設けている[6]

副層 送信側(下方向)の動作 受信側(上方向)の動作
PCS (Physical Coding Sublayer, 符号化層) 上層のMII信号を符号化して下層のPMAに引き渡す 下層のPMAの読み取り値から元データを復号する、半二重動作時に衝突検出する
PMA (Physical Medium Attachment, 媒体接続部) 上層のPCSの符号を電気信号として下層のPMDやMDIに出力する 下層のMDIやPMDの電気信号をクロック検出・数値変換して上層のPCSに引き渡す
PMD (Physical Medium Dependent, 媒体依存部) 上層のPMAからの電気信号を別の物理信号(光など)として出力する 物理信号(光など)を検出し電気信号に変換する
ITU-T G.hn(ホームネットワーク)で提案されたプロトコルスタック

これらの実装は各種通信規格によって異なる。以下では例としてイーサネットの物理層規格について記述する。

LANケーブル規格

LANケーブル規格では多くの場合、PCS・PMAの2層と、さらにその下層にオートネゴシエーション処理層が設けられる[7]

  • 1000BASE-TのPCSでは、GMII経由で入ってきた8ビットデータを五進数4桁(PAM5シンボル4個)に変換してPMAに引き渡す[8]
  • 2.5G/5G/10GBASE-TのPCSでは、XGMII経由で入ってきた64ビットデータ50個分を、十六進数1024桁(PAM16シンボル1024個)に変換してPMAに引き渡す[9]
  • 10メガビットイーサネットでは、PCSに相当するマンチェスタ符号処理部をPLS (Physical Signaling)と呼んでいた[10]
  • PMAでは、上記シンボルを電気信号として適切な電圧レベルで4対並列に入出力する。また、EEEのタイミング制御なども行う[11]
  • オートネゴシエーション処理層では、接続時に対応通信速度などを情報交換する信号を送受し、一致が見られたときのみ以降の主信号をPMAに引き渡す[12]

光ファイバ規格

光ファイバ規格では、PCS・PMA・PMDの3層が設けられる[13][14]

  • PCSでは、8b/10b変換や64b/66b変換などが行われ、さらに1000BASE-Xではここでオートネゴシエーションの処理も行う。
  • 10GBASE-WではPMA-PCS間にWIS層があり、ここでSONET/SDH用の処理としてスクランブルが行われる[15]
  • 25Gbps以上の通信ではPMA-PCS間にFEC層がある場合があり、ここで誤り訂正が行われる[14]
  • PMAでは、PCSから来た変換データをシリアル電気信号としてPMDに出力したり、PMDから来たシリアル電気信号を読み取ってPCSに引き渡したりする(SerDes)[16]
  • PMDでは、主にSFPなどの光トランシーバとして実装され、ファイバ上の光信号と基板上の電気信号を相互変換する。

PHY

RTL8201イーサネットPHYチップ

物理層の機能を実装するために必要な回路やデバイス部品のことを特にPHY (ファイ、physical layerの略)と呼ぶ。第二層にあたるMAC (データリンク層デバイス) はPHYを介して伝送媒体に接続する。

イーサネットPHY

Micrel KS8721CL - 3.3V単一電源10/100BASE-TX/FX MII物理層トランシーバ

イーサネット機器の物理層の実装としてコンポーネント部品としたPHYは、MACへの物理的なアナログ接続を目的とする。通常、MII チップと組み合わせて用いるか、上位層の機能を引き受けるマイクロコントローラと接続する。イーサネットPHYは通常、PCSPMAの両方の機能を含む[17]

より具体的には、イーサネットPHYは、イーサネットフレームのハードウェア送受信機能を実装するチップであり、イーサネット物理層(アナログ部分)とデータリンク層のパケット処理(デジタル部分)とを仲介する[18]MACアドレスの処理はデータリンク層の受け持ちであるため、通常PHYでは処理しない。同様に、Wake-on-LAN機能やブートROM英語版機能はネットワークカード (NIC) に実装されているが、PHYとMACで機能的に1つのチップに統合することも、別々のチップに分けることもできる。

主な製品に以下のものがある。

その他のPHY

無線LANWi-Fi
PHYは、トランシーバとデジタルベースバンド部から構成される。トランシーバはRF(無線)、信号合成、アナログ部からなる。デジタルベースバンド部は、デジタルシグナルプロセッサ (DSP) および伝送路符号化を含む通信アルゴリズム処理を行う。これらのPHY部分は、System-on-a-chip (SOC) 実装においてMAC層と統合されることが一般的である。
USB
PHYチップは、ホストや組み込みシステムのほとんどのUSBコントローラに統合されており、インターフェースのデジタル部分と変調部分の間の橋渡しをする。
IrDA
IrDAの仕様には、データ転送の物理層に関するIrPHY仕様がある。
シリアルATA (SATA)
VIA Technologies VT6421などのシリアルATAコントローラはPHYを使用する。

主な物理層の実装

電気通信ネットワーク

小規模な電気インタフェイス

光通信ネットワーク

無線通信

出典

  1. ^ Shekhar, Amar (2016年4月7日). “Physical Layer Of OSI Model: Working Functionalities and Protocols” (英語). Fossbytes. 2019年2月15日閲覧。
  2. ^ Bayliss, Colin R.; Bayliss, Colin; Hardy, Brian (2012-02-14) (英語). Transmission and Distribution Electrical Engineering. Elsevier. ISBN 9780080969121. https://books.google.com/books?id=cLwO-Hh6_VEC&q=The+physical+layer+Providing+a+standardized+interface+to+a+physical+transmission+medium,+including++Mechanical+specification+of+electrical+connectors+and+cables,+for+example+maximum+cable+length+Electrical+specification+of+transmission+line+signal+level+and+impedance+Radio+interface,+including+electromagnetic+spectrum+frequency+allocation+and+specification+of+signal+strength,+analog+bandwidth,+etc.+Specifications+for+IR+over+optical+fiber+or+a+wireless+IR+communication+link 
  3. ^ CCNA Certification/Physical Layer - Wikibooks, open books for an open world”. en.wikibooks.org. 2019年2月15日閲覧。
  4. ^ Forouzan, Behrouz A.; Fegan, Sophia Chung (2007) (英語). Data Communications and Networking. Huga Media. ISBN 9780072967753. https://books.google.com/books?id=bwUNZvJbEeQC&q=The+physical+layer+is+also+concerned+with:++Bit+rate+Point-to-point,+multipoint+or+point-to-multipoint+line+configuration+Physical+network+topology,+for+example+bus,+ring,+mesh+or+star+network+Serial+or+parallel+communication+Simplex,+half+duplex+or+full+duplex+transmission+mode+Autonegotiation 
  5. ^ Bertsekas, Dimitri; Gallager, Robert (1992). Data Networks. Prentice Hall. p. 61. ISBN 0-13-200916-1. https://archive.org/details/isbn_9780132009164 
  6. ^ ITU-T G.9960: Unified high-speed wire-line based home networking transceivers - Foundation. (2009-10). p. 24. https://www.itu.int/rec/dologin_pub.asp?lang=s&id=T-REC-G.9960-200910-T!!PDF-E&type=items 
  7. ^ IEEE 802.3-2022, Figure 21-1, 28-2, 40-1, 55-1, 113-1, 126-1
  8. ^ IEEE 802.3-2022, Figure 21-1, 40-1, 55-1, 113-1, 126-1
  9. ^ 55.3.2.2 PCS Transmit function
  10. ^ IEEE 802.3-2022, Clause 6. Physical Signaling (PLS) service specifications
  11. ^ Clause 40.4 Physical Medium Attachment (PMA) sublayer, Clause 55.4 Physical Medium Attachment (PMA) sublayer
  12. ^ Clause 28.1 Overview
  13. ^ Figure 36-1, 44-1
  14. ^ a b Figure 80-1, 105-1, 116-1, 131-1, 157-1
  15. ^ 50.1 Overview
  16. ^ IEEE 802.3-2022, Clause 36.1.4.2 Physical Medium Attachment (PMA) sublayer, Clause 51.3 Functions within the PMA
  17. ^ Data Center Fundamentals”. Books.google.com. 2015年11月18日閲覧。
  18. ^ microcontroller - what is the difference between PHY and MAC chip - Electrical Engineering Stack Exchange”. Electronics.stackexchange.com (2013年7月11日). 2015年11月18日閲覧。
  19. ^ Ethernet PHYs”. Texas Instruments. 2020年10月12日閲覧。
  20. ^ Intel PHY controllers brochure
  21. ^ osuosl.org - ICS1890 10Base-T/100Base-TX Integrated PHYceiver datasheet

関連項目


PHY

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/17 17:26 UTC 版)

Wireless USB」の記事における「PHY」の解説

WUSBは、数GHzもの超広帯域用い無線技術であるUWB (Ultra wideband) をベーススペクトラム拡散 (Spread spectrum) 技術使用している。アメリカ連邦通信委員会 (FCC) ではUWBを『最高輻射中心周波数に対して輻射電力が10dB下がる周波数帯域幅が500MHz以上、または中心周波数20%上の無線通信』と定義している。 物理層MAC層規格としてはWiMedia Alliance推進するMB-OFDM方式採用している。米国では軍事技術として開発されUWBであったが、2002年2月民生機器での利用認められた。 通信速度はホスト・デバイス間の距離等により変化することがあり物理層で53.3-480Mbpsをサポートする。ホスト・デバイス間距離3メートルで480Mbps、10メートルで110Mbpsの性能目標として設計されている。

※この「PHY」の解説は、「Wireless USB」の解説の一部です。
「PHY」を含む「Wireless USB」の記事については、「Wireless USB」の概要を参照ください。

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