F-5A/B
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他社との新戦闘機競争で大きく水をあけられていたノースロップ社は、第二次世界大戦中に建造されて当時まだ多数残っていたアメリカ海軍の護衛空母用の艦上戦闘機として、ウェルコ・ガシッチ(Welko Gasich)技師たちの設計によるN-156を提案した。しかし海軍がこれらの護衛空母を退役させることとしたため、1954年にこの提案は取り下げられ、ノースロップは海外輸出市場に活路を見出すこととなった。同時に空軍の練習機T-33の後継にも目をつけ、戦闘機型をN-156F、練習機型をN-156Tとして並行して開発を進めた。このN-156Tは空軍にT-38として採用され、N-156Fも自社資金で開発を継続した。 1950年代末より東側諸国やその友好国へMiG-17やMiG-19の供与を進めていたソビエト連邦に対抗するべく、アメリカはこれらのソ連製戦闘機を上回る性能を持ち、かつ廉価で運用・整備が容易な戦闘機を西側諸国と友好関係にある発展途上国向けに供与する計画を進めていた。しかし、既にF-86やF-84は旧式化しており、より新しい機体は複雑さ・性能・価格・軍事機密などの面で途上国に輸出できるものではなかった。これに対し、航法・測距用のレーダーや見越し計算式照準器さえも搭載せず、小型エンジンを使用したN-156Fは、廉価かつ運用・整備が容易だったため途上国向けの海外供与戦闘機に選ばれることとなる。こうしてN-156FはF-5Aと命名されると共に、機関砲を装備しない複座練習機型F-5Bも開発され、1964年から配備が開始された。 供与された国は、南ベトナム、タイ、イラン、エチオピア、サウジアラビア、ヨルダン、大韓民国、リビア(王政時代)、モロッコなどである。また、高価なF-104を保有していた中華民国、ノルウェー、ギリシャ、トルコにも、二線級の補助戦闘機として供与された。この他にパキスタンも第三次印パ戦争中に、リビアのF-5Aをパイロットと共に「提供」され、数機使用していたとされる(サウジアラビアがF-5E飛行隊を同国に派遣していたともいわれる)。 ベトナム戦争では、南ベトナム空軍が主に北ベトナム軍への対地攻撃に使用したほか、北ベトナム軍が鹵獲した南ベトナム空軍のF-5Aでサイゴンの南ベトナム大統領府を爆撃した。南北統一後のベトナムでは、南ベトナム空軍から接収したF-5A(ベトナム空軍の展示ではF-5E)が対地攻撃任務機としてカンボジア・ベトナム戦争に用いられていた。 ライセンス生産権を取得したカナダでは、自己資金によって空戦フラップや2段伸縮式前脚の追加といった改良が行われ、カナダ向けをCF-5、オランダ向けをNF-5と呼称して製造した。独自改良を加えて2か国で使用されたこのライセンス生産型は、ベトナム戦争での使用経験とともに、改良型であるF-5E/F開発の大きなヒントとなった。他にライセンス生産を行った国にはスペインがある。 上記の通り、F-5A/Bは純粋に供与機として用いられ、外国空軍への技術指導と訓練以外にアメリカ空軍での使用予定はなかった。しかし、供与された国からの実績要求などから、評価試験用のF-5A飛行隊が臨時編成され、ベトナム戦争において対地攻撃に投入された。このF-5Aは空中給油プローブや装甲の追加など、従来のF-5Aとは異なる「特別仕様」のため、F-5Cという非公式の形式番号で呼ばれることもある。F-5Cが参加する作戦は「スコシ・タイガー作戦」と命名され、F-5の作戦能力と双発エンジンによる被弾時の生存性が高く評価されることとなった。機体は試験終了後、南ベトナム空軍に引き渡されている。なお、「スコシ」とは日本語の「少し」であり、元来は「リトル・タイガー」とすべきところを、外国語風の語感にするため「スコシ・タイガー」とした。 F-5A/Bは、発展途上国における初のジェット戦闘機としての利便性や経済性に加え、高価な戦闘機に勝るとも劣らない抜群の機動性で国を問わず広く使用された戦闘機である。ベトナム戦争以外で目立った戦績はないものの、西サハラ紛争でモロッコ(モロッコ王立空軍)が、オガデン紛争で(革命後の)エチオピアが実戦に使用したといわれる。その多くは対地攻撃に用いられたが、モロッコの機体は第四次中東戦争においてイスラエルのミラージュIIIを撃墜する戦果を挙げている。 改良型のF-5E/Fを導入した国では早々に南ベトナムといった他国に放出されていった。これに伴い、ギリシャ空軍やトルコ空軍はアメリカを介して各地で退役したF-5A/Bを長期に渡って大量に入手し、主力戦闘機の補助や対地攻撃、訓練用に充て、後者では現在も運用中である。スペイン空軍ではF-5Bを高等練習機として使用している。この他にカナダで退役したCF-5が、さらなる近代化改修の後にボツワナ国防軍で再就役しており、アフリカゾウなどの動物に対する密猟の監視に用いたという。
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