DESTINY+
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/25 16:11 UTC 版)
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深宇宙探査技術実証機 DESTINY+[1] デスティニー・プラス[1] |
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所属 | 宇宙航空研究開発機構 (JAXA)宇宙科学研究所 (ISAS) |
主製造業者 | 日本電気 |
公式ページ | ISAS 千葉工大PERC |
状態 | 開発中 |
目的 | 流星群母天体のフライバイ観測および惑星間ダストのその場分析 小型深宇宙探査機技術の獲得[2] |
観測対象 | ファエトン (3200) Phaethon[2] |
計画の期間 | 最大6.2年[3] |
打上げ機 | H3ロケット[4] |
打上げ日時 | 2028年度(調整中) |
物理的特長 | |
本体寸法 | 太陽光発電パネル展開時:横9.12m |
質量 | 約480 kg(推進薬を含む)[2] |
発生電力 | スパイラル上昇フェーズ末期:2851W ノミナルミッション期間末期:2447W[3] |
主な推進器 | 電気推進イオンエンジン(μ10×4台)[3] |
姿勢制御方式 | 3軸制御[2] |
軌道 | 初期投入(230 km×37,000km, 30.42°) - 月高度(38 万km) - ファエトン遷移軌道[5] |
観測機器 | |
望遠カメラ | TCAP |
マルチバンドカメラ | MCAP |
ダストアナライザ | DDA |
DESTINY+[1](デスティニー・プラス[1]、Demonstration and Experiment of Space Technology for INterplanetary voYage, Phaethon fLyby and dUst Science[1]、深宇宙探査技術実証機)は、日本の深宇宙探査技術実験ミッション、およびその探査機の名称。宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所(JAXA/ISAS)が開発する工学実証機に千葉工業大学 惑星探査研究センター(PERC)を中心とした国際協力による理学観測機器が相乗りする形で計画されている[6]。
はやぶさ(2003年打上)、はやぶさ2(2014年打上)に続き日本として3番目の小惑星探査ミッション[7]だが、サンプルリターンは実施されない。
当初はイプシロンSロケットを使用する予定だったが、変更されH3ロケットで2028年(令和10年)に打ち上げ、2030年[8]にファエトンをフライバイする計画で調整が進められている[9]。ふたご座流星群母天体である小惑星(3200)Phaethon(ファエトン)から距離500kmの近接高速フライバイを1回実施し、フライバイの数時間で搭載カメラによる光学観測と、惑星間航行中およびフライバイ時にダストアナライザによる惑星間ダストの質量・速度・飛来方向・化学組成をその場で直接観測する計画である[3]。開発・製造は日本電気。総開発費は213.1億円[3]。
概要
プロジェクトは当初DESTINY (Demonstration and Experiment of Space Technology for INterplanetary voYage)という名称で、2013年9月に打ち上げられたひさき (SPRINT-A)、2016年12月に打ち上げられたジオスペース探査衛星あらせ (ERG) に続く小型科学衛星の3号機として、イプシロンロケットでの打ち上げを目指していた。2014年にISASが行った次期小型科学衛星の公募では、宇宙理学・工学委員会による審査で7件の応募から本プロジェクトと小型探査機による高精度月面着陸技術実証(SLIM)が候補ミッションに選定された[10]。2015年2月にISASはSLIMを最終候補として選定し、DESTINYは2号機以降での選定を目指すこととなった[11]。その後、理工学委員会の推薦を受け、DESTINY+(PLUS, Phaethon fLyby with reUSable probe, 後にPhaethon fLyby and dUst Science) として「公募型小型2号機」に選定された[12]。2021年度の打ち上げを目標に開発研究が進められていたが、ドイツ提供のダストアナライザの予算獲得の遅れ、イオンエンジンの熱設計関連の対応等の理由から、2024年度の打ち上げを目指すこととなった[5]。
2024年10月には2023年7月に能代ロケット実験場で発生したイプシロンSロケットの第二段モーターの燃焼試験中の爆発事故の影響によりイプシロンへの搭載が断念され、2028年度にH3ロケットで打ち上げる計画に切り替えることが発表された[13][14]。ただし、打ち上げに用いるロケットの大型化によって地球軌道からの脱出に時間を要する軌道を取る必要が無くなったことから、打ち上げ予定は遅延するものの小惑星への到達時期に大きな変更はないとされる。
ミッション
ミッションのコンセプトとして「将来の深宇宙探査の鍵となる先端技術」が示されており、これらの要素技術の実験・実証により、探査機バスの重量を大幅に軽量化、高度化されたイプシロンロケットとの組み合わせで、月、金星、火星などの探査において50kgから200kgのミッションペイロードを持つ小型高性能深宇宙探査機を実現するとしている。[15]
イプシロンロケットで打ち上げ、アポロ群の (3200) ファエトンなど複数の小惑星をフライバイするミッションが予定されている[2]。旧DESTINYでは打ち上げ後、地球を周回しながらイオンエンジンで増速、月スイングバイを行い、L2ハロー軌道の投入・離脱を行う提案がされていた。
工学実証
以下の2つの工学目的の達成を目指す[16]。
- 電気推進による宇宙航行技術を発展させ、その活用範囲を拡大する。
- 先進的なフライバイ探査技術を獲得し、小天体探査の機会を広げる。
理学ミッション
DESTINY+は小惑星ファエトンをフライバイ中、放出されたガスのその場分析やハイビジョンカメラによる撮影を行う。これらにより太陽加熱が小天体の進化にどのような影響を及ぼしているのかを観測する。また、ファエトンはふたご座流星群の母天体であり、彗星・小惑星遷移天体だと考えられている。
DESTINY+ではオプションとして子機を分離し、小惑星の近接フライバイを行う案も出されていた[17]。この案では、はやぶさ2の打ち上げに相乗りした超小型深宇宙探査機PROCYON(Proximate Object Close flyby with Optical Navigation)を軽量化した、PROCYON-miniを利用することが想定されていた。子機を搭載することで、DESTINY+本体を危険に晒すことなく小惑星の近接観測が可能となる。またフライバイ後にPROCYON-miniを母機が回収することで、近接フライバイを複数の小惑星で繰り返し行うことができる。もし実現すれば、これは世界初の深宇宙でのランデブー・ドッキングとなる。
運用計画
スパイラル軌道上昇
イプシロンSによる打ち上げ計画では後述するキックステージを使用してもDESTINY+は地球周回軌道にあり、地球重力圏を脱して深宇宙へ到達するために、電気推進を使用して約1年半かけて高度を上昇させ、約半年かけて月スイングバイを実施する計画であった[6]。打ち上げロケットがH3ロケットに変更されたことでスパイラル軌道上昇フェーズはなくなった[9]。イオンエンジンによる推進で地球周回軌道から深宇宙への軌道変更が成功すれば、世界初と見込まれていた[3]。
ファエトンフライバイ観測
小惑星ファエトンには相対速度36km/sの高速フライバイをする計画で、往復伝播遅延が5分以上となることから、自律的な撮像が必須とされている[3]。最接近の約7.5時間前、距離100万km以下からカメラによる観測を開始し、接近に従って輪郭観測・日照域三次元地形観測・表層地形観測・マルチバンド観測を実施する[14]。
最接近を基準とした時間 | ファエトンとの距離 | イベント |
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-7.2時間 | 860,000km | TCAPによるライトカーブ観測開始 |
-90分 | 178,000km | TCAPによるファエトン輪郭観測開始 |
-65分 | 125,000km | ファエトン検出(追尾目的) |
-55分 | 105,000km | 探査機姿勢補正開始 |
-35分 | 65,400km | TCAP駆動鏡によるファエトン追尾開始 |
-8.7分 | 17,000km | TCAPによる三次元形状観測開始 |
-40.5秒 | 1,429km | TCAPによる詳細地形観測開始 |
-22.5秒 | 918km | MCAPによる表層物質観測開始 |
0秒 | 500km | ファエトン最接近 |
ファエトンフライバイ後
ファエトンのフライバイ観測から半年後に地球スイングバイを実施し、観測データのダウンリンクと、他の小惑星(ファエトンと軌道が類似しファエトンから分離したとも考えられる(155140) 2005 UDなど)のフライバイ観測を実施する4年計画のエクストラミッション[18]に向けた軌道変更を実施する可能性が検討されている[6]。
機体設計
キックステージ
イプシロンSによる打ち上げ計画においては、イプシロンSの能力では480kgのDESTINY+を深宇宙へ到達させることができないことから、4段目となる固体ロケットのキックステージを追加する設計であった。DESTINY+とキックステージの合計重量は973kg以下で、イプシロンSからの分離時点の投入軌道は230×930km、キックステージの分離時点の投入軌道は230×37,000km[3]。
打ち上げロケットをH3ロケットへ変更したことでキックステージは使用されないことになったが、地上燃焼試験までの開発は実施する方針としている[9]。
バス機器
- 衛星バスにはひさき、あらせで使用されたSPRINTバス(NEXTAR)が活用される[6]。
- メインスラスタであるイオンエンジンに、はやぶさ2で使用されたμ10を12mNに高推力化した改良型を4基搭載し、通常は10mNで4台同時運転し合計推力40mN、1台故障時には12mNで3台同時運転し合計推力が36mNの運用を行う予定である。旧DESTINY計画(2015年時点)ではより大口径のμ20を1基搭載[19]したり、μ10を高比推力化したμ10HIspが検討されたこともあった[20]。
- 太陽電池パネルには、ひさき搭載のNESSIE以来宇宙空間で繰り返し実証されてきた薄膜軽量太陽電池パネルを搭載する[3]。
- 熱制御デバイスとして、ループヒートパイプおよび、可逆展開ラジエータを搭載する[3]。
ミッション機器
- ダストアナライザ(DDA、DESTINY+ Dust Analyzer)[6]
- 超望遠モノクロカメラ(TCAP、Teloscopic CAmera for Phaethon)
- 可視近赤外マルチバンドカメラ(MCAP、Multiband CAmera for Phaethon)
協力機関
以下の研究機関と協力して機体の開発を進めている[1]。
- 千葉工業大学惑星探査研究センター
- 科学観測および望遠カメラ、広角マルチバンドカメラ、ダストアナライザ開発の取りまとめを行う。
- 名古屋大学熱制御工学研究グループ
- 可逆展開ラジエータの開発を担当。
- シュトゥットガルト大学Institute of Space Systems
脚注
- ^ a b c d e f “DESTINY+ -Demonstration and Experiment of Space Technology for INterplanetary voYage, Phaethon fLyby and dUst Science”. 宇宙科学研究所. 2019年12月10日閲覧。
- ^ a b c d e 『宇宙科学ミッション(MMX・DESTINY+・JUICE)の検討状況について』(PDF)(プレスリリース)宇宙航空研究開発機構、2018年6月14日、26-27頁 。2018年12月20日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j “深宇宙探査技術実証機 DESTINY+ プロジェクト移行審査の結果について|令和3(2021)年6月28日 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構”. 文部科学省. 2024年10月24日閲覧。
- ^ “JAXA探査機「DESTINY+」打ち上げ3年延期 イプシロンSの爆発事故影響”. 日本経済新聞 (2024年10月9日). 2024年10月10日閲覧。
- ^ a b 國中均 (19 May 2020). 資料56-6 宇宙科学ミッション打上げ計画について (PDF). 第56回宇宙開発利用部会. 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所. 2020年5月20日閲覧。
- ^ a b c d e f g h 荒井, 朋子; 小林, 正規; 石橋, 高; 吉田, 二美; 木村, 宏; 平井, 隆之; 岡本, 尚也; 洪, 鵬 et al. (2024). “新連載:太陽の子・塵の母「Phaethon」をフライバイ! その1 〜深宇宙探査技術実証機デスティニー・プラスDESTINY PLUSの計画概要とサイエンス〜”. 日本惑星科学会誌遊星人 33 (1): 34–50. doi:10.14909/yuseijin.33.1_34 .
- ^ “DESTINY⁺が目指すサイエンス”. 宇宙科学研究所. 2025年5月25日閲覧。
- ^ “DESTINY⁺ Journal Club”. www.perc.it-chiba.ac.jp. 2025年5月25日閲覧。
- ^ a b c “DESTINY+|打上げ年度とロケットの変更/Changes to Launch Year and Rocket October 15, 2024” (2024年10月15日). 2025年5月25日閲覧。
- ^ “第15回宇宙科学・探査部会 資料1「宇宙科学・探査プロジェクトの検討状況について」”. 宇宙科学研究所 (2014年8月27日). 2015年1月5日閲覧。
- ^ “第14回 科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会宇宙開発利用部会ISS・国際宇宙探査小委員会 資料14-2「宇宙科学・探査ロードマップの検討状況について」”. 宇宙科学研究所 (2015年4月20日). 2015年6月30日閲覧。
- ^ “宇宙科学・探査に関する工程表の進捗状況と取り組みについて 3/4” (PDF). 内閣府. p. 15 (2018年3月14日). 2018年12月20日閲覧。
- ^ “JAXA探査機「DESTINY+」打ち上げ3年延期 イプシロンSの爆発事故影響”. 日本経済新聞 (2024年10月9日). 2024年10月10日閲覧。
- ^ a b “深宇宙探査技術実証機「DESTINY⁺」 - 千葉工業大学 惑星探査研究センター(PERC)”. www.perc.it-chiba.ac.jp. 2024年10月24日閲覧。
- ^ 川勝康弘 (2012年3月6日). “第2回小型科学衛星シンポジウム「深宇宙探査技術実験ミッションDESTINY」”. DESTINY (深宇宙探査技術実験ミッション)WG. 2015年1月5日閲覧。
- ^ “工学実証”. 宇宙科学研究所. 2019年12月10日閲覧。
- ^ 船瀬 龍 (2015年3月13日). “超小型深宇宙探査機PROCYON(プロキオン)の成果と将来展望” (PDF). 第15回宇宙環境技術交流会. 2016年1月1日閲覧。
- ^ Krüger, Harald; Strub, Peter; Sommer, Maximilian; Moragas-Klostermeyer, Georg; Sterken, Veerle J.; Khawaja, Nozair; Trieloff, Mario; Kimura, Hiroshi et al. (2024-12-01). “Modeling the interstellar dust detections by DESTINY+ I: Instrumental constraints and detectability of organic compounds”. Planetary and Space Science 254: 106010. doi:10.1016/j.pss.2024.106010. ISSN 0032-0633 .
- ^ “深宇宙への敷居を下げる深宇宙探査実証機DESTINY”. 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 (2015年7月). 2017年11月11日閲覧。
- ^ “第59回 宇宙科学技術連合講演会 プログラム” (PDF). 日本航空宇宙学会事務局 (2015年10月7日). 2016年1月1日閲覧。
- ^ a b c d “Latest specs of TCAP, MCAP”. 千葉工業大学 (2023年12月18日). 2025年5月26日閲覧。
- ^ 『ドイツ航空宇宙センター(DLR)との機関間会合と共同声明について』(プレスリリース)宇宙航空研究開発機構、2017年9月20日 。2020年11月12日閲覧。
- ^ 『深宇宙探査技術実証機(DESTINY⁺)に関するドイツ航空宇宙センター(DLR)との実施取り決めの締結について』(プレスリリース)宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、2020年11月12日 。2020年11月12日閲覧。
関連項目
- 類似のミッション
- DESTINY_(探査機)のページへのリンク