遺品返還問題とは? わかりやすく解説

遺品返還問題

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 11:59 UTC 版)

富山・長野連続女性誘拐殺人事件」の記事における「遺品返還問題」の解説

死刑確定を受け、富山地裁被害者遺品還付手続き行ったが、還付先は被害者遺族ではなく死刑囚Mだった。これは、「贓物除き押収品は被押収者に返却する」という最高裁判例1990年)に基づいた措置である。贓物については、刑事訴訟法(第124条)で被害者への返還規定されていたが、押収時の所持者=本来の所有者とは限らず、本来の所有権者を特定することが困難な事例多かったため、そのような事例については便宜上所持者に返還することを認めた判例だった。法務省刑事局は、一連の問題受けて法律上、被押収者の異論なければ押収物被害者戻せるわけであり、実務中でもうまく運用し適正に処理されていると思う」とコメントしていた。 富山地裁1999年6月死刑囚M対し事件での押収物還付する通知書送り還付請求権有無確認求めたが、この時点遺族側が押収物返還希望していることを把握していたため、文書には請求権放棄促す内容添えていた。 結局、Mは同年7月、「車検証自賠責保険証を知人男性返す以外は、再審請求鑑定対象物」「(被害者遺品は)再審請求に必要」として還付求めたが、「必要ないものは遺族返還することも考慮する」と地裁回答地裁同月31日裁判証拠品とされていた被害者A遺品65点(衣類ブローチ時計など)について、死刑囚Mを被押収者と認定し、Mに遺品返還した名古屋拘置所はその直後8月3日)、Mの願い出に基づき31点を廃棄処分にした。 一方富山地裁同年8月被害者Aの遺族その旨連絡した上で、「遺品必要な場合、Mに請求できる」などとした事務連絡文書押収品目録を送ったまた、Mに対して遺族希望伝え事務連絡文書出した。しかし、Aの遺族両親)はこれを問題視し、「遺族感情配慮しない手続だ」と弁護士に相談9月7日には富山地裁訪れ、「遺品返してほしい」と要請したほか、同月11日には名古屋拘置所宛て遺品返還求め手紙送ったが、遺品のうち31点は既に廃棄されていた。名古屋拘置所9月中旬手紙受け取ると、その手紙の内容確認した上でMに渡したが、Mは残る遺品34点のうち、現金以外は同月21日10月18日それぞれ廃棄した同年12月には、Aの両親宛てにMから、現金165円(当時のAの所持品)と「荷物は既に処分した」という手紙届いた。Aの遺族が特に返還望んでいた遺品は、Aの顔写真入った仮免許証、Aが生前最後に金沢購入したブローチ、そして「『不良のようなズボンはいていた』という当時心ないうわさ(後述)を打ち消すことができる」と望み賭けていたジーパンだったが、いずれも彼らの手元に戻ることはなかった。 この問題を受け、Aの両親法制度に疑問感じ全国初めて「犯罪被害者支援対策委員会」を設置していた静岡県弁護士会から全面支援を受け、被害者置かれている現状広く訴えることを決意した。この時は、自分たちが行動を起こせば自分たちの名前が再びマスコミ登場し、「再び取材攻勢を受けるのでは」「他人にまたも誤解され中傷浴びるのではないか」という不安も抱えていたが、最終的には「今、声を上げなければ自分たちと同じ苦しみを味わう人が再び現れる」と考え行動起こすことを決めたという。 2人2000年平成12年2月8日法務省臼井日出男法務大臣面会し臼井からミス認め言葉謝罪受けたほか、同様の事態再発させないための法整備などを求め意見書提出したまた、弁護士白井孝一静岡県弁護士会犯罪被害者支援対策委員会委員長)・諸澤英道らによる取り組みにより、裁判所検察庁とも押収物還付に関する取り扱い方法の見直し行った具体的には、以下のような改善である。 各裁判所 - 被害者側が公判証拠となった押収物所有者で、被告人の刑確定後に返還求めた場合、その意向被告人だけでなく刑事施設刑務所拘置所など)に連絡する。 各検察庁 - 被害者所持品被疑者から押収した場合返還請求権放棄させるよう徹底するとともに被害者所持品であることを刑事施設通知する刑事施設 - 受刑者らに押収物返還され場合裁判所検察庁から「被害者所有物」と通知され場合は、勝手に廃棄処分しない。押収物被害者所有物かどうか明らかでない場合は、民事訴訟などで所有権確定するまで保管し可能な場合遺族返還する。 しかし、「押収物は被押収者に返還する」という基本原則変更までには至らなかった。臼井法務大臣2000年1月18日閣議後の記者会見で「確実に遺品が)被害者返還されるよう、法律運用改善で対応すべき」と述べた一方刑事訴訟法などの改正については「それぞれしっかりと判断すれば対応可能」と否定的な考え示したそのこと踏まえ諸澤英道 (2016) は、一連の問題についてこのように述べている。 本件のように、被害者遺品であることが明白なケースでは、「遺品遺族元に」の原則に従って遺族返還すべきであった裁判所加害者返還しその後遺族加害者要求するなど、あまりにも遺族に冷たいシステムである。(中略犯罪による押収物については「被害者所有物であることが明らかな物については被害者還付しそれ以外の物については、押収所持していた者に還付する」という新たな原則をつくるべきであるが、そこまでには至らなかった。 —  また、遺族支援取り組んだ弁護士白井は、臼井記者会見での発言受けて法相ここまで被害者配慮した発言をしてくれたことは大きなステップだ」と評価した一方法改正否定的な見解示された点については「運用改善はされるだろうが、被害者返すことを条文明記しない限り義務と権利発生しない悲劇が再び繰り返される可能性はある」と指摘している。

※この「遺品返還問題」の解説は、「富山・長野連続女性誘拐殺人事件」の解説の一部です。
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