違法な職務質問とした判例・裁判例
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「職務質問」の記事における「違法な職務質問とした判例・裁判例」の解説
2000年(平成12年)4月24日、荻野昌弘・関西学院大学教授が、兵庫県西宮市のさくら銀行西宮支店でATMを操作していた際、当時発生していた横浜小2男児誘拐事件の犯人と勘違いした兵庫県西宮警察署の署員が、荻野に暴行を加え誤認逮捕する事件が発生した。この誤認逮捕の間にも犯人から脅迫電話がかかってきていたが、署員は職務質問と称して返答を強制。無断で荻野の携帯電話の交信記録を調べ、容貌をデジタルカメラで撮影した上、荻野の手を引っ張って西宮警察署へ強制連行した。荻野は一連の署員の行動は職務質問を逸脱した違法行為であるとして5月26日に兵庫県を国家賠償法に基づき提訴した。神戸地方裁判所は「誘拐事件を捜査する上で必要な職務質問だ」などの兵庫県の主張を退け、逮捕から連行に至る一連の過程を職務質問を逸脱した違法行為と認定。兵庫県に対し330万円の損害賠償を命じた。県側は控訴したものの、2003年(平成15年)7月4日、大阪高等裁判所は兵庫県の控訴を棄却し、一審・神戸地方裁判所の判決を支持する判決を出した。 2006年(平成18年)3月25日、神奈川県横浜市の男性が妹所有の車に知人2人を乗せて東京都世田谷区内を運転中、警視庁の警察官から職務質問を受け、車内を見せるよう求められたが、男性は一貫して拒否したため、職務質問は約3時間半の長時間に及んだ。そのため、警察官は立ち去ろうとする男性に対して「車のドアミラーが当たった」などとし、自動車の窓を警棒で割って、男性を公務執行妨害で現行犯逮捕した。逮捕後車内の捜索により大麻が見つかったとして、男性は大麻取締法違反の罪にも問われたものの、東京地方裁判所・東京高等裁判所で一連の職務質問が違法であることが認定され、大麻の証拠能力と逮捕が無効となり、2007年(平成19年)10月に男性の無罪が確定した。 2007年(平成19年)6月22日、ミニバイクを運転中に大阪府大阪市天王寺区で信号待ちしていた堺市在住の女性に対し、大阪府南警察署の警察官が職務質問をしたが、当該の警察官は私服のままで、しかも警察官だと名乗らずに職務質問し、また、質問の際に女性の腕をつかんだ。女性は、不審者に絡まれたのと勘違いし逃げようとしたが転倒し、負傷したのみならず、持病の精神疾患が悪化したとして、大阪府に対し約1,200万円の国家賠償を求める訴訟を提起。一審の大阪地方裁判所は「腕をつかむ前に、警察手帳を示していた」として訴えを退けたが、二審の大阪高等裁判所は2011年(平成23年)5月26日に、「名乗らないまま腕をつかんでおり、警察官の行為は違法である」として、大阪府に対し約300万円の支払いを命じる判決を言い渡した。 2007年(平成19年)10月7日、求人情報誌を持っていた無職の男性が、奈良県生駒市のパチンコ店駐車場に、駐車していた乗用車に乗ろうとしていた際、奈良県生駒警察署の警察官から職務質問を受け、「職業に就く意思がないままうろついた」などとして、軽犯罪法違反(浮浪)の現行犯で逮捕された。拘束中に尿検査で覚醒剤反応が出たことから、翌10月8日に釈放した2分後に覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕された。その後、男は覚せい剤取締法違反(使用)の罪で起訴されたが、2009年(平成21年)3月3日、大阪高等裁判所は男性が就職活動中であったこと、及びマンションを賃借していた事実があることから、奈良県警察の逮捕は「浮浪」の要件を満たさない違法な逮捕に当たると認定。覚醒剤使用についても、違法な逮捕中に行われた尿検査の証拠能力が無効となり、懲役3年の一審・奈良地方裁判所の判決が破棄され、無罪となった。 2010年(平成22年)3月、東京都千代田区外神田(秋葉原)の路上を歩行中に、警視庁万世橋警察署の警察官から、職務質問と、それに続いて所持品検査を受け、マルチツールの所持が見つかり没収の上、軽犯罪法違反で東京地方検察庁に書類送検された(不起訴)。男性について、東京地方裁判所の都築政則裁判長は2013年(平成25年)5月28日の判決で「当人に明らかに異常な行動が見られない限りは、犯罪行為を疑う理由はなく違法」として、職務質問及び所持品検査を違法と認定し、男性の損害賠償請求を認め、東京都に対して5万円の損害賠償を命じた。 2011年(平成23年)に、東京都内で警視庁の警察官が男性の腕を掴むなどして、令状なしに実質的に拘束し、覚醒剤を発見し逮捕したが、違法な捜査とした。なお、公文書を加えたとして、公用文書毀棄罪が成立し一部無罪となった。 2012年(平成24年)1月、神戸市須磨区内のレンタルビデオ店の駐車場に車を駐車させた50歳代の男性が、兵庫県須磨警察署員らから職務質問を受け、車の車内やトランクの検査には応じたものの、助手席に置いていた鞄の検査を拒否したところ、同署員3人にパトカーの後部座席で取り囲まれ、最終的には鞄の中身を見せたものの、男性は県警の対応が違法であるとして、2015年1月に神戸地方裁判所に提訴。2017年1月12日に同地裁は、「犯罪を窺わせる事情が存在しなかった」などとして、兵庫県に対し3万円の支払いを命じる判決を言い渡した。 2013年(平成25年)に、東京都新宿区で、警視庁四谷警察署の警察官が職務質問により、捜索令状なしに捜査を行い、覚醒剤を発見し現行犯逮捕した。刑事裁判で東京地方検察庁側は、被告人に対し覚せい剤取締法違反で懲役4年を求刑したが、東京地方裁判所は、令状なしの違法な捜索であり、被告人を無罪とした。東京地方裁判所の西山志帆裁判長は、判決において警察の無理解が甚だしく、違法捜査を抑制するため、無罪を言い渡したことを述べた。 2014年(平成26年)6月22日未明に、大阪市西成区の路上で大阪府西成警察署の署員から職務質問を受けた、イラン国籍の貿易業の男性が、駐車中の自動車車内を捜索された際、車内にあった鞄を調べようとした所、男性が承諾していないにも関わらず鞄を捜索した為、男性は抵抗したが、警察官4人に取り押さえられ、うち1人の腕や指に噛み付いて軽傷を負わせた。男性は公務執行妨害と傷害で現行犯逮捕され、その後の捜索で自宅や自動車から覚醒剤や大麻などが押収され、後に覚せい剤取締法違反や大麻取締法違反容疑でも逮捕されたが、2015年(平成27年)3月5日に、大阪地方裁判所の長井秀典裁判長は、大阪地方検察庁側の懲役1年6ヶ月の求刑を棄却し、被告人に無罪判決を言い渡した。判決では「警察官への暴行は、警察官が承諾なく行った違法な所持品検査への抵抗で、正当防衛に当たる」と認定し、さらに「違法行為に基づく押収物は証拠能力が無い」と違法収集証拠排除法則を適用し、逮捕後に警察官が捜索し発見され押収された覚醒剤なども、証拠能力が無効と判断した。 2018年(平成30年)6月30日未明、滋賀県大津市在住の男性が、京都市内で京都府警察の警察官から職務質問を受けた。男性は職務質問及び任意同行や採尿を拒否し、タクシーと列車を乗り継いで大津駅で下車し線路内に立ち入ったところを京都府警に鉄道営業法違反の現行犯で逮捕され、さらに、付近から液体大麻などが発見されたことで、滋賀県警察が大麻取締法違反容疑で逮捕し、男性はその後大津地方裁判所に起訴された。2022年(令和4年)5月23日に同地裁は、薬物事犯の疑いは濃厚とした一方で、京都府警側が捜査車両数台をタクシーの周囲に止めるなどして降車を促したことや、走り出した男性を転倒させた捜査員の行為を違法行為と認定し、押収した薬物についても、違法捜査により収集した証拠であるとして証拠能力を否定し、男性に無罪判決を言い渡した。
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