漢から南北朝
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漢代は書が芸術であるというはっきりした自覚がもたれた時期であるが、まだ書論は未発達で、本格的な書論は二王が登場する東晋から南北朝に入ってからあらわれる。漢代の書論として、曹喜の『筆論』、崔瑗の『草書勢』、張芝の『筆心論』、蔡邕の『筆勢』という著作があったというが、現存するのは『非草書』のみである。 『説文解字』序文 『説文解字』は、後漢・許慎の字典であるが、その序文には文字・書体についての記述がある。書体が歴史の上ではっきり示されたのは本書からである。 非草書 『非草書』(ひそうしょ)は、後漢・趙壱撰。現存する最も古い書論とされる。当時は草書が流行していたが、本来、早書きが目的の草書が懲りすぎて、却って時間のかかるものになったとして草書の形骸化を非難したものである。また、「草書学習に梁孔達(梁宣)・姜孟穎(姜詡)の書を手本にした」との記述があり、当時の法書が存在しない今、貴重な資料となっている。 四体書勢 『四体書勢』(したいしょせい)は、西晋・衛恒撰。古文・篆書・隷書(八分・行書・楷書の3書体を含む)・草書の4書体について名筆家を列挙したあとに、各書体の起源・書法・逸話などの内容を記述したもの。草書が篆書・隷書と並んで一体をなし、重要な書体としての地位を確立していることが分かる。また、曹喜・邯鄲淳・韋誕・蔡邕の漢代の名人の書の特徴と優劣を論じている。 筆陣図 『筆陣図』(ひつじんず)は、東晋・衛夫人撰。執筆法の要領や基本的な7種の点画の技法を説明している。また、筆墨硯紙の精能にもふれている。王羲之がこれを学んだといわれるが、王羲之または羊欣の作という説もある。『書譜』や『法書要録』などに収められて有名になった。『書譜』の中では、「『筆陣図』の執筆図は正確ではなく、また点画の説明もはっきりしない。子供の手引きぐらいの役にはなるだろう。最近これが流布しているが、もしかしたら王羲之の作かもしれない(趣意)」とある。 自論書 『自論書』(じろんしょ)は、東晋・王羲之撰。王羲之が自らの書を張芝・鍾繇と比較し論じたもの。羲之は常に張芝と鍾繇を意識し、自分の書は彼らに対抗できるとしている。 古来能書人名 『古来能書人名』(こらいのうしょじんめい)1巻は、南朝宋・羊欣撰。南朝になって最初の書論で書評論として最も早いもの。勅命により王僧虔が本書1巻を筆録し、『能書人名』12巻とともに上進した。 論書表 『論書表』(ろんしょひょう)1巻は、470年、南朝宋・虞龢撰。二王の書の蒐集状況の報告書であり、二王の逸話を含む。また、品第法の見られる最初の書論であり、この文の中に、「書一巻の中、好いものを巻首におき、下なるものをその次におき、中のものを最後におくとよい。人は巻首を注意して熱心に見る。中ほどになると退屈してだらだら進み、それから中品に出逢うといつまでも賞玩して巻を終えるにも気がつかない(趣意)」という。書の作品の良し悪しの上から、上中下の品第が行われている。 論書 『論書』(ろんしょ)は、南朝斉・王僧虔撰。30数名の書評論。本書中、「宋文帝の書は、わたくしの考えでは、王献之に劣らないと思う。その書は、天然では羊欣にまさり、功夫(工夫と同意)では羊欣に及ばない」とある。 篆隷文体 『篆隷文体』(てんれいぶんたい)は、南朝斉・蕭子良撰。43体の雑体書が図示され、それぞれの体の創始者とその由来を説明している。中国の書論では六朝時代を頂点として雑体書についての論述が多数あるが、具体的な形態についての資料がほとんどなく本書は貴重である。蕭子良の撰を後代に書写したものが京都・毘沙門堂に重要文化財として現存している。 観鍾繇書法十二意 『観鍾繇書法十二意』(かんしょうようしょほうじゅうにい)は、南朝梁・武帝撰。鍾繇の書法論。 書品 『書品』(しょひん、『書品論』とも)1巻は、南朝梁・庾肩吾撰。漢の張芝から梁に至る能書人(序説によると128人)を9品に分けて各品ごとに評論を加えたもの。また、品評に、天然と工夫という言葉を使って述べている。 古今書評 『古今書評』(ここんしょひょう)は、523年、南朝梁・袁昂撰。武帝の命で秦・漢以来の書人25人を批評したもの。書を主として日月風雲山川草木鳥獣などの自然の物象に比喩した批評を行っている。この手法を比況法といい、例えば、「鍾繇の書は雲鵠の天に遊び、群鴻の海に戯るるが如し」などの表現がある。これは自然の物象を美の基準として書の美しさを表現したものである。『法書要録』に収められている。 論書 『論書』(ろんしょ)は、南朝梁・庾元威撰。雑体書の流行について述べたもので、百種を越える雑体書を記している。それは龍書・蛇書・亀書・鶴頭書・雲書などで自然の物象を書の中に取り入れた一種の意匠文字であり、まるで比況法を具体的に意匠化したようである。 論書表 『論書表』(ろんしょひょう)は、北魏・江式撰。文字の混乱の是正を上奏したもの。
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