河童
★1.河童婿。
『現代民話考』(松谷みよ子)1「河童・天狗・神かくし」第1章の2 大正5年(1916)頃。利根川支流の片品川に住む河童が美男に化け、村の庄屋の娘のもとへ通った。男が帰った後は、いつも床がぬれていた。娘は、針に木綿糸をとおして男の裾に縫いつけ、朝になって糸をたどって行くと、片品川の深い淵であった。身ごもっていた娘は、男の正体が河童と知って、淵に身を投げた。河童と娘の子孫は、今もその淵に住んでいるらしい(群馬県利根郡白沢村)。
*糸をたどって、男の正体が神・蛇・みみず・木などであることを知る→〔糸〕2a。
『遠野物語』(柳田国男)55 松崎村の川端の家の女(=人妻)のもとへ、怪しい男が毎晩通って来る。その正体は河童であろうというので、婿や姑が女を守って側に寝るが、河童の侵入を防ぐことはできなかった。深夜に女が笑う声を聞いて、「さては河童が来ているな」と知りながら、婿も姑も身動きできないのである。やがて女は、河童の子を産んだ→〔出産〕2。
★2.河童駒引き。
『遠野物語』(柳田国男)58 夏の日。男が馬を冷やすために、淵へ連れて行く。河童が現れて、馬を淵へ引きこもうとする。しかし逆に馬に引きずられ、河童は厩の前まで来てしまい、馬槽の中に隠れる。村人たちが集まって、河童を殺そうか許そうか評議するが、結局、「今後は村の馬に悪戯をしない」と固く約束させて、河童を放免した。
ねね子河童(水木しげる『図説日本妖怪大鑑』) 利根川に棲む「ねね子(弥弥子)河童」は、女の河童である。いけすの魚を盗んで食べたり、子供を川へ引きずり込んだり、胡瓜畑を荒らしたり、悪いことばかりしていた。ある夏の夕暮れ、ねね子は馬を川へ引き込もうとして、侍に捕らえられた。ねね子は侍に詫び、切り傷の妙薬の秘法を教えて、水中に没した。
*「ガータロ(河童)」が人を水へ引き込む→〔鎌〕7の『紀伊国狐憑漆掻語(きいのくにのきつねうるしかきにつくものがたり)』(谷崎潤一郎)。
河童の詫び証文の伝説 柳瀬川に1匹の河童が棲んでいた。河童は夏になると、水泳に来た子供を淵に引き込んで腸を裂き取り、仲間の河童へ中元として贈っていた。ある時、河童は馬を引きずり込もうとして、馬子につかまる。持明院の和尚が河童を詰問し、河童は「今後は悪事をしません」と誓って、証文を書く。証文は、その後永く持明院に保存された(埼玉県所沢市久米)。
★4.相撲をとる河童。
河童相撲の伝説 祭りの相撲に、2人の強い男がやって来て、村の若者たちを負かした。2人の正体は河童だった。河童の腕は、押す力に対しては強いが、引かれると簡単に肩から脱けてしまう。そのことを知った村の若者たちは、翌日の相撲では、2人の男の両腕を力いっぱい引っ張り、脱いてしまった。男たちは降参し、ダラリと下がった腕をかかえて逃げて行った(遠野市附馬牛)。
一人相撲(水木しげる『図説日本妖怪大全』) 筑前国姪浜(めいのはま)の久三という男が、河童5匹と川原で相撲をとる。河童は身体がヌルヌルしてつかまえどころがなく、久三は苦戦するが、一計を案じ、河童の股に手をさし入れ、逆さまにして次々と投げ倒した。近所の人たちが集まって観戦したが、不思議なことに河童の姿は見えず、久三が1人で相撲をとっているように見えた。
『和漢三才図会』巻第40・寓類恠類「川太郎」 川太郎は西国・九州の渓澗・池川に多くいる。10歳ぐらいの小児のようで、裸形で立って歩き、人語を話す。頭の巓(いただき)に凹形があり、ここに一掬(すく)いの水を盛ることができる。相撲を好む習性があり、人を見ると招いて相撲に誘う。人がこれを相手にする場合には、まず俯仰して頭を揺(ふ)ると、川太郎も俯仰数回し、その間に頭の水の流れ尽きたのも知らず、力つきて倒れる(もし頭に水があると、力は勇士に倍する)。
★5.厠にひそむ河童。
『夜窓鬼談』(石川鴻斎)上巻「河童」 筑後の柳川は河童の多い所である。夜、藩士某の美貌の妻が厠に入ると、手をのばして陰部をまさぐる者がある。妻は匕首でその手を斬り取る。手の指は3本で長い爪がついていた。翌晩、童子が来て、「私は河童です。淫らな心を起こして片腕を失いました」と侘びるので、妻は河童の片腕を返してやる。河童は、腕をもとどおりつなぐ妙薬を持っており、その薬の作り方を妻に教えた。
『河童の雨ごい』(昔話) 沼の河童が「人間の仲間に入れてもらえず、魚や亀の仲間にもなれないので面白くない」と言って、いろいろ悪さをして村人を困らせる。旅の坊さんが河童に、「人のためになることをすれば、人間に生まれ変われるかもしれない」と教える。夏に日照りが続いたので、河童は「自分の命と引き換えに、村に雨を降らせて下さい」と、何日も飲まず食わずで神さまに祈る。やがて雨が降り出し、滝のような雨に打たれながら、河童は死んでいった。
*龍が体をばらばらにされる、という犠牲をはらって雨を降らせる→〔雨乞い〕3a。
★7.河童の皿。
猿猴(えんこう)すべりの伝説 滝に棲む猿猴(=河童)が、頭の上の皿をいろいろに化けさせ、人間が手を出すと水中へ引きずり込んだ。上野介(こうずけのすけ)という男が、水に浮かぶかんざしを拾おうとして、猿猴に片腕をつかまれる。大力の上野介は、逆に猿猴を引きずり上げ、縄でしばった。しかし、女中の持つ柄杓(ひしゃく)の水気が皿にかかったので、猿猴は力を回復し、縄を切って逃げて行った(広島市安佐北区白木町)。
★8.河童の教え。
『現代民話考』(松谷みよ子)1「河童・天狗・神かくし」第1章の14 九頭竜川の河童たちが、口々に「川の水をかえてくれ」「もう住んでおれん」「あの川の水は人間にも良くない」と、村人に訴える。しかし九頭竜川はこれまでと変わりなく、青く澄んでいるので、村人は河童の訴えを無視する。そのうち河童たちは、どこかへ行ってしまった。村人の1人が、方言調査に来た学生に、この話をする。学生は川の水を採取して、検査機関に持ち込む。その結果、九頭竜川がカドミウムに汚染されていることがわかった(福井県)。
『大巨獣ガッパ』(野口晴康) 南太平洋上のオベリスク島に、島の守り神ガッパがいる。ガッパは水陸両棲の爬虫類で、翼も持っており、空を飛ぶことができる。顔面は河童に似て、くちばしがある(頭の皿や背中の甲羅はない)。巨大な卵から生まれたガッパの子を、日本人探検隊がさらって行く。父ガッパと母ガッパが、子ガッパを追って日本へやって来る。父ガッパと母ガッパは熱海に上陸し、関東の諸地方を破壊した後に、子ガッパを取り戻す。親子3頭は空を飛んで、オベリスク島へ帰る。
『河童』(芥川龍之介)14 河童の国で一番勢力のある宗教は「近代教」、別名「生活教」だ。神である「生命の樹」が、1日のうちにこの世界を創造し、はじめに雌の河童を造った。雌の河童は退屈のあまり、雄の河童を求めたので、神は雌の河童の脳髄を取り、雄の河童を造った(*『創世記』第2章では、神がアダムのろっ骨を取ってエバを造る→〔骨〕1a)。神はこの2匹の河童に、「食えよ、交合せよ、旺盛に生きよ」という祝福を与えた(『創世記』第1章では、神は「生めよ、殖えよ、地に満てよ」と祝福する→〔息〕2a)。
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