汚染水の漏出
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 08:52 UTC 版)
「福島第一原子力発電所事故」の記事における「汚染水の漏出」の解説
3月24日、3号機タービン建屋(側面図 (2))建屋地下の溜まり水に浸かりながらケーブル敷設作業をした作業員3人が被曝した。この水は濃度390万Bq/cm3の放射性物質を含み、表面から約400mSv/hの放射線を発していた。また3月26日には1号機の溜まり水から380万Bq/cm3の放射線を検出、翌3月27日には2号機の溜まり水の表面で1,000mSv/hを超えた(針が振り切れて測定不能となった)。 さらに、3月28日には1 - 3号機の海側にある立て坑(ピット)(側面図 (3))の溜まり水からも放射線が検出され、うち2号機の立て坑の水表面からは1,000mSv/hを超える放射線量が検出された。立て坑は冷却用の海水などの配管が通っているトンネルであるトレンチ(側面図 (4))に通じている。2号機から、核燃料の混じった冷却水が漏れてこれらに流入しているとみられる。冷却水を循環できず外部注水していたため、注水量が多すぎれば蒸発しきれない分、汚染水漏出量が増え、少なすぎれば温度や圧力が上がってさらなる炉心過熱の危険が増すという微妙な問題が発生した。 4月2日、2号機海側の立て坑に亀裂があり高濃度の放射性物質汚染水が海に流出しているのが発見された。コンクリートでは固められず、新聞紙やおがくずを投入してみるという試行錯誤の末、水ガラスの導入によって4月6日に止めることができたが、その後、地下水の放射性物質濃度が高くなった。 東京電力は、高濃度汚染水をタービン建屋やトレンチから緊急に排出するために、集中廃棄物処理施設中の6.3Bq/cm3の低濃度汚染水(実測値9,070トン)を海に放出して空けてそこに入れるしかないと判断した。さらに、5号機・6号機のサブドレンピットに増してきた貯留地下水(実測値1,323トン)もそれぞれ16 Bq/cm3、20Bq/cm3で設備水没の危険もあるので同時に海に放出するとした。東京電力は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に基づいて政府の承認を受け、発表を行った。放出は4月4日から10日にかけて実施された。放射線のレベルは約1,500億Bqで、「原発から1 km以遠の魚や海藻を毎日食べた場合の年間被曝量は0.6 mSvであり、年間に自然界から受ける放射線量の4分の1」とされたが、この処理には日本国内外から抗議の声が上がった。 一方、2号機からの高濃度汚染水だけで2万5000トンあって、そのセシウム137の濃度は300万Bq/cm3で、ヨウ素131の濃度は1300万Bq/cm3と発表されている。国際原子力事象評価尺度マニュアルの大気放出時ヨウ素換算係数を準用し40を掛ければ、セシウム137のヨウ素等価濃度は1.2億Bq/cm3で、この2核種だけで合計濃度は1.33億Bq/cm3なので、2万5000トンの2号機汚染水に含まれる2核種の放射性物質総量はそれらの積で、330京Bqと単純計算される。 4月6日以前に毎分2リットルで海に流れ出てしまった高濃度汚染水中の放射性物質は、上記濃度を仮定すれば、10日間あたり0.2京 Bqと計算される。東京電力は独自仮定に基づき、国際原子力機関(IAEA)のヨウ素換算係数を適用しない単純合計ベースで、放射性物質放出の総量を0.47京Bqと推算した。この発表では「原発から1km以遠の魚や海藻を毎日食べた場合の年間被曝量」についての言及はなかった。 炉を冷温停止させるための冷却水循環系を修理または外部接続するには、タービン建屋の高濃度汚染水を除去して作業環境を整える必要があったが、タービン建屋の水を減らすと新たに炉から放射性物質を含む汚染水が流入し、炉内の冷却水量が保てないというジレンマが発生した。 そこで、日本国内外の提案や援助を得ながら、主に以下の対策が実施されている。 汚染水の復水器・集中廃棄物処理施設・メガフロート(巨大人工浮島)などへの移送 汚染水収納用のタンクの新設 高放射線量環境でも作業できる原子力災害ロボットの投入 詳細は「レスキューロボット#東日本大震災とレスキューロボット」を参照 ロシアの液体放射性物質処理施設「すずらん」の投入 仙台産ゼオライト(沸石)や活性炭などによる放射性物質および海水由来塩分の浄化 タービン建屋の汚染水を原子炉に戻すことによる汚染水減量 浄化フィルター設備および海水による冷却機の新設・接続による、安定的な循環冷却系の構築 4月12日、汚染水の一部移送が始まった。 上記対策などを織り込んで6 - 9か月後の冷温停止を目標とする収束工程表が、4月17日、東京電力から発表された。 6月3日、東京電力は、1 - 4号機および集中廃棄物処理施設建屋の地下にたまっている放射性物質による汚染水の線量が推定で72京 Bqに上ると発表した。 各建屋内に漏洩した滞留水の線量の推定量核種放射能量 (PBq)1号機2号機3号機4号機集中廃棄物処理施設プロセス主建屋集中廃棄物処理施設高温焼却炉建屋合計ヨウ素1312.01 290.52 14.72 0.099 124.8 2.44 434.59 セシウム1341.61 70.98 33.45 0.179 29.76 5.55 141.53 セシウム1371.74 69.00 35.68 0.186 28.8 5.92 141.33 合計5.36 430.50 83.85 0.46 183.36 13.91 717.44
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