拵えによる分類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 16:50 UTC 版)
衛府太刀(えふのたち) 六衛府に使える武官が佩用した太刀。兵仗用の簡素なものと儀杖用の豪壮なものの二通りがあった。時代が下るにつれ細太刀と同一化される形で儀杖用のものだけが残り、兵杖用のものは後述の厳物造太刀や黒漆太刀へと発展、変化した。儀杖用のものは鍔が「唐鍔(からつば)」もしくは「分銅鍔」と呼ばれる独特の形状をしていることが特徴である。 後述の毛抜形太刀は用いられた時期的に殆どがこの「衛府太刀」の拵えで作られており、「衛府太刀」と言えば毛抜形太刀を指すことも多い。 厳物造太刀(いかものつくりのたち) 「兵庫鎖太刀」「長覆輪太刀」「蛭巻太刀」等の、武用に用いるための「兵仗太刀(ひょうじょうのたち)」を総称してこう呼んだ。兵庫鎖太刀(ひょうごくさりのたち) 太刀緒と太刀本体を結ぶ「足緒」と呼ばれる部品を、革ではなく細く編んだ鎖を何条も平組に組み上げたものとした太刀。「長覆輪太刀(ながふくりんのたち)」と呼ばれる、鞘全体を板金で包み、彫刻を施した板状の金具で鞘の上下を挟んで固定した形式のものが多く、後には専ら装飾性を重視した拵として儀仗用の太刀の代表的な拵となり、寺社への奉納用として多数が製作された。 なお、本来の字は「兵具(ひょうぐ)」であったが、後世に訛って「兵庫」と変化したという説が有力である。 蛭巻太刀(ひるまきたち) 漆で下塗りした柄および鞘に短冊状にした金属板を螺旋状に巻き付け、漆を塗って仕上げた太刀。平安末期、「厳物造」が好まれるようになってより室町時代頃まで好んで作られた。 錦包太刀(にしきつつみたち) 鞘を錦布で包んだ太刀で、平安時代頃より装飾用の刀装として広く用いられた。鞘だけではなく柄も錦包にしたものもあり、通常は錦布で包んだ上から金具で固定するが、金具も含めて全体を錦包みにした作りもある。錦包みにした上から藤で巻き締めた様式、および組緒を巻き締めた様式のものもあり、それぞれ「錦包籐巻太刀(にしきつつみとうまきたち)」「錦包糸巻太刀(にしきつつみいとまきたち)」と呼ばれる。 室町時代には錦包の刀装は足利将軍家および将軍家より下賜された刀装にのみ許されたが、室町時代中期を過ぎ応仁の乱以後足利幕府の権勢が衰退すると禁止令は無視されるようになり、武士は挙って錦包の太刀を佩用した 黒漆太刀(くろうるしたち) 「こくしつのたち」とも呼ぶ、黒漆で金具も含めて全体を塗り込めた太刀。鎌倉時代に後述の「革包太刀」の拵えが一般化するまでは、実戦に用いる太刀の最も一般的な拵えだった。武士以外にも僧兵に好んで使われ、室町・戦国期に至っても実戦用の刀装として用いられている。金具や柄巻も含めて全体を塗り込めるのが基本だが、金具を塗り込めずに残した作りもあり、それを特に「白造太刀(しらづくりのたち)」という。 革包太刀(かわつつみたち) 柄や鞘を革で包み込み、黒漆を塗って仕上げた太刀。包んだ革の上から金具で革を固定するが、通常の太刀の作りの上から全体を革で包んでしまうものもあり、こちらの様式が広く用いられていたと見られている。また、鍔も「鍔袋(つばぶくろ)」又は「鍔掛(つばがけ)」と呼ばれる漆塗の革袋を掛けて覆う。室町時代に太刀以外の拵も含めて普及し一般化した。この形式は鞘を雨露や傷から防ぐことに長けており、それまでは野外で太刀を佩く際には「尻鞘」を用いて刀を雨水などから保護したが、この革包太刀の登場により尻鞘を必要とせずより実戦に適したものとなった。 特に、全体を革で包んだ上に柄巻と渡巻(後述)を施し鍔袋を備えたものは、天下五剣の名剣の一つである「鬼丸国綱」の刀装として有名なところから「鬼丸拵(おにまるこしらえ)」と呼ばれる。 この「革包太刀」の登場によって、後述の「糸巻太刀」の様式と組合わせる形で実戦用の太刀拵は一応の成熟をみたが、製作に手間と費用が掛かる上、太刀そのものが武士の戦場での主力武器としては用いられなくなっていったため、以後は「太刀拵」は儀礼用の刀装としての位置付けが強くなってゆく。戦国時代に至っても革包太刀様式の刀装は引き続き使われてはいたが、鍔に革袋を掛けることは、雨水が袋の内側に溜まり易く、却って刀身と刀装を痛める為に装飾用途以外には使われなくなっている。 糸巻太刀(いとまきたち)、革巻太刀(かわまきたち) 実用を重視し、柄や鞘に滑り止めおよび鎧と刀が激しく接触することによる傷みを防ぐために組紐や革紐を巻き締めた太刀。当初は柄や鞘の上に直接巻きを施したが、次第に錦布で包んだ上に巻きを施す様式が一般的になっていく。鎌倉時代に登場し、前述の「黒漆太刀」や「革包太刀」の様式と組合わせる形で普及し、室町時代後期には後述の「陣太刀」に発展した。 巻き締めのうち柄に巻く部分を「柄巻(つかまき)」、鞘に巻く部分を「渡巻(わたりまき)」と呼ぶ。 陣太刀(じんたち) 糸巻太刀より発展した、装飾性を高めた太刀。糸巻太刀の鞘塗りや金具、巻糸に豪奢なものを用いたもので、室町時代中頃より作られるようになり、桃山時代に大きく発展した。江戸時代には様式が幕府によって定められ、武家の正装の際に佩く刀とされた。 現代においても真剣の装飾用の拵えとして製作されている。大相撲の横綱土俵入りにおいて太刀持ちが掲げているものも、陣太刀様式の太刀である。 (刀身の例)太刀 号「三日月宗近」、平安時代、国宝、東京国立博物館蔵 (刀身の例)太刀 号「獅子王」、平安時代、重要文化財、東京国立博物館蔵 (太刀外装の例)黒漆太刀拵(獅子王の拵)、平安時代、重要文化財、東京国立博物館蔵 (刀身の例)三鱗紋兵庫鎖太刀 号「北条太刀」、鎌倉時代 重要文化財 (太刀外装の例)三鱗紋兵庫鎖太刀の拵、鎌倉時代、重要文化財 衛府太刀の図(「集古十種」より) 厳物造太刀(獅子造鱗文兵庫鎖太刀:鎖欠)東京国立博物館蔵 兵庫鎖太刀(鍍金牡丹文兵庫鎖太刀)鎌倉時代中期のもの 蛭巻太刀(銀銅蛭巻太刀拵)丹生都比売神社所有/東京国立博物館寄託 錦包糸巻太刀(小烏丸の拵)の図(「集古十種」より) 革包太刀(鬼丸拵)の図(「集古十種」より) 革巻太刀 太刀 銘 正恒 附 菊桐紋散糸巻太刀拵東京国立博物館蔵 金梨子地葵紋金金具鞘糸巻太刀拵(一文字派の信包の太刀の附) 陣太刀
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