性器クラミジア感染症とは? わかりやすく解説

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性器クラミジア感染症

2004年第8週号(2004年2月1622日掲載




疾患わが国で最も多い性感染症STD)である。感染症法では淋菌感染症性器ヘルペスウイルス感染症尖圭コンジローマとともに、5類感染症として性感染症定点からの報告義務付けられている。本疾患感染症法施行以前には、結核感染症サーベイランス事業性感染症サーベイランス(旧サーベイランス)でも対象疾患挙げられていたが、感染症法になってからの届け出状況をみると、女性患者報告数が急増している。その要因としては、旧サ ーベイランス比べて感染症法では産婦人科定点増加したこともあるが、実際に女性感染者 数増加傾向にあることも推察される。
妊婦検診において正常妊婦の3~5%にクラミジア保有者みられることから、自覚症状のな い感染者かなりあるものと推測されている。

疫 学

 若年層女性に多い。成人では性行為により感染するが、新生児母親からの産道感染で ある。クラミジア感染男女とも性的活動活発な若年層に多いが、特に女性でその傾向目立っており、29歳以下では男性患者数上回っている(図1)。最近では初交年齢低下伴って10代女性感染率の高さが将来不妊につながるとして憂慮されている。女性では 感染受けて自覚症状乏しいため、診断治療至らないことが多く無自覚のうちに男性 パートナー出産児へ感染させることもあるので、注意が必要である。また、口腔性交による咽頭への感染少なくないことが報告されている。
1.性器クラミジア感染症の年齢群別発生状況感染症発生動向調査

病原体

クラミジア・トラコマチスChlamydia trachomatis )が病原体で(写真1)、人工培地では増殖で きない。本病原体トラコーマ起因であることからこの名前がつけられたが、現在では S T D の主要病原体として有名である。クラミジア・トラコマチスには2 つ生物型Lymphogranuloma venereum; LGV, Trachoma)が ある(生物型Mouseは、最近別のクラミジアとな った)。生物型LGV性病リンパ肉芽腫症(鼡 径リンパ肉芽腫症第四性病ともいわれる)を起こすが、わが国では輸入例が散見されるものの、近年ほとんど発生をみない。

写真1. Chlamydia trachomatis電子顕微鏡

生物型Trachoma血 清型により、トラコーマ流行地で眼疾患から検出さ れるクラミジア血清型A~C)と、非流行地で泌尿 生殖器新生児眼か検出されるクラミジア血清型D~K)に分けられるわが国トラコーマ流行地であり、泌尿生殖器疾患患者新生児眼か検出されるクラミジア血清型D, E, F, Gが主体である。

臨床症状
男性では尿道炎が最も多い。また、若年層精巣上体炎原因ともされている。排尿痛尿道不快感そう痒感などの自覚症状がでる。淋菌尿道炎比べて潜伏期間長く、2~3 週間とされる女性では子宮頸管炎骨盤内付属器炎(PID)、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症 候群)、不妊などを起こすが、自覚症状乏し場合が多い。そのため、潜伏期間特定する のは困難であるとされるまた、妊婦感染新生児クラミジア産道感染原因となり、新 生児肺炎結膜炎起こすまた、淋菌との重複感染も多い。淋菌尿道炎(gonococcal urethritis; GU)の治療にもかかわらず症状軽減しない場合は、クラミジア感染疑われる淋病尿道炎、postgonococcal urethritis; PGU)。咽頭への感染がある場合は、しばしば頸部 リンパ節腫脹認める。LGV感染では鼠径リンパ節腫脹化膿起こし致命的ではな いが、放置すれば陰部象皮病などの原因となる。

病原診断
病原体分離が最も信頼性が高いが、時間要すること、細胞培養など特殊な技術を必要と することなどのために、抗原あるいは遺伝子検出法用いられている。血清診断もあるが、確 定診断には抗原あるいは遺伝子診断との併用が望ましい。 抗原検査では市販キット入手が可能である。塗抹標本蛍光抗体染色DFA)するものと、 抗原物質酵素抗体法EIA)で測定するものがある。前者感度良いが、粒子確認必要なことから判定熟練要するEIA簡便な方法であるが、クラミジア属の共通抗原であるリポ多糖体(LPS)を標的抗原としているために、感染クラミジア種の鑑別できない
遺伝子検出においても市販キット入手が可能である。遺伝子増幅法(NAT)が主体である が、いずれもクラミジア・トラコマチスに共通のプラスミドDNAリボゾームRNA標的遺伝子で ある。検出感度良いが、検体中に遺伝子増幅阻害物質があると偽陰性になる。さらに、DNA 検出ではクラミジア生死かかわらず陽性となることから、治療後判定には注意要する
抗体測定についても市販キット入手可能である。通常EIA用いられるクラミジア菌体抗原とする方法と、抽出した特異蛋白あるいは合成ペプチド抗原とする方法がある。抗体感染初期には出現しないことが多く治療して残存する。したがって抗体測定法診断補助手段として考えた方がよいが、PIDなど深部感染では抗原検出困難なことから、 本法用いられる

治療・予防
治療には抗菌薬、とくにテトラサイクリン系マクロライド系、およびニューキノロン系使用されるクラミジア男女間でお互いに感染させるいわゆるピンポン感染があるため、両 者の治療同時に行うことが重要である。
予防にはコンドーム使用感染疑われる相手との性的交渉避けるなどである。

感染症法における取り扱い
性器クラミジア感染症は5類感染症定点把握疾患定められており、全国900カ所の性感 染症定点より毎月報告なされている。報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか検査による診断なされたもの
病原体検出
 例:尿道性器から採取した材料からの培養蛍光抗体法など
 ・病原体抗原検出
 例:尿道性器から採取した材料からの酵素抗体法など
 ・病原体遺伝子検出
 例:尿道性器から採取した材料からの検出PCR法等)など
なお、スクリーニングによる病原体抗原遺伝子に関する検査陽性例は報告対象含まれるが、抗体陽性のみの場合除外する

タイ国衛生研究所機能向上プロジェクト 萩原敏且、
国立感染症研究所感染症情報センター 木村幹男) 

  





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