役割・スキル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/23 01:06 UTC 版)
ワークショップを実践するファシリテーターの重要な技能として、大別して、事前の企画段階におけるプログラムデザインと、当日の運営段階におけるファシリテーションがあり、複合的な能力が求められる。 事前のプログラムデザインでは、コンセプトを設定し、趣旨の説明やメンバーの緊張を和らげるアイスブレイクで構成される「導入」、話題提供や意見交換などで構成される「知る活動」、個人やグループでアイデアをまとめたり作品を制作する「創る活動」、発表と振り返りを行う「まとめ」という、起承転結の4段階から成るプログラムを設計し、タイムテーブルを構成する。プログラムデザインでは、実現したい目標やゴールイメージを円の中心に描き、それに沿って、起承転結を並べた「プログラムデザイン・マンダラ」なども活用される。目的やねらいに合わせた空間デザイン・場づくり、適切なグループサイズの設定なども事前に行われる。 ファシリテーションとは、「事前に設計したプログラムに沿って進行しながらも、当日の状況に応じて指示を変更したり、参加者に問いかけや助言をしたりすることで、学習や創造の過程をより促進するための一連の働きかけ」であり、ファシリテーターは、参加者の主体性、参加者同士のその場での相互作用による創発を尊重するため、事前に準備をすることができない。 スタンフォード大学のアーヴィン・D・ヤーロムによる数種類のグループ・セラピーのワークショップを対象にした研究によると、参加者の33%に肯定的な変化が起き、8%が心理的ダメージを負っており、この差はグループ・セラピーの手法の違いではなく、ファシリテーターの質によることが示された。ヤーロムは、ファシリテーターの役割を、次のように示した。 配慮(支援・受容・関心・賞賛) 意味づけ(説明・解釈・枠組みの提示) 情緒的刺激(自己開示を迫る・挑発) 実行機能(目標の設定・時間管理) (1)と(2)は多いほど良い効果があるため徹底すべきであり、(3)と(4)は多すぎても少なすぎてもプラスの効果がなく、無理強いしてはならない、ということが分かっている。 日本聖公会司祭で、ナショナル・トレーニング・ラボラトリーの手法による人間関係トレーニング、感受性訓練、体験学習法などを実践し、日本の環境教育に影響を与えた西田真哉は、「ファシリテーターであるために望ましい条件」として、次の10項目を挙げている。 主体的にその場に存在している。 柔軟性と決断する勇気がある。 他者の枠組みで把握する努力ができる。 表現力の豊かさ、参加者への反応の明確さがある。 評価的な言動はつつしむべきとわきまえている。 プロセスへの介入を理解し、必要に際して実行できる。 相互理解のための自己開示を率先できる、開放性がある。 親密性、楽天性がある。 自己の間違いや知らないことを認めることに素直である。 参加者を信頼し、尊重する。 ファシリテーターは、プログラムが開始すると、発言する人が少なく議論が不活発なら、様子を見ながら発言を促し、流れに乗れなくて参加しない人がいる場合には、補足説明を行ったり、参考になるモデルを提示するなどして抵抗感を軽減し、参加意欲を高め、発言しすぎる参加者がいる場合は、他のグループメンバーに質問を投げかけたり、それでも発言が続く場合は阻止し、目的やテーマが決まっている場合は、話がテーマからそれた時は本題に戻るよう誘導し、特定の参加者に対して集中的な批判や反対が生じた場合は、それが建設的なものか、悪意がないかを見極め、必要なら話題を転換するなど、権力を行使したり、場を支配しないように留意しながらも、議論や活動を促進し、場の状況を見守り、プログラムの意図に適した介入を行う。複数の参加者に対し、言葉だけでなく、目線やしぐさにまで視覚・聴覚で注意を払い、場の雰囲気を読み、現状に注意を払いつつも先を予測しながらプログラムを進行し、正解が分からず、瞬間瞬間で素早い判断が求められる状態が、ワークショップ終了まで続く。対話を活性化させる問いの設定、安心して発言できる、心理的安全性(英語版)の保たれた場作り、発言を参加者が共有し、議論を見える化するために板書すること(ファシリテーション・グラフィック)など、様々なスキルが求められる。 経験の浅いファシリテーターは、経験あるファシリテーターについて、協同でファシリテーションを行うことで、技能を深めることができる。 ワークショップを運営するファシリテーターには、よく練られたプログラムデザインと、当日の臨機応変で適切なファシリテーションが必要不可欠であり、ワークショップの出来不出来は、ファシリテーターの力量に大きく左右される。ファシリテーターの需要は高まっており、育成講座なども増えているが、参加者の学びを支援するだけでなく、知識を教授する役割(インストラクター)、地域社会等との協働を企画する役割(コーディネーター)といった役割が求められることもあり、必要とされる場も多様で、場により目的により、困難さや適切な方略、振る舞いや役割が異なることもあり、その複雑さから、育成は容易ではない。
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