役割・業務
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/03 07:30 UTC 版)
江戸時代では、農村は農民の居住空間であり、支配階級である武士は基本的には農村周辺にはいなかった。そのため、何らかの公事訴訟を起こす必要が発生した時、農民は江戸の奉行所や、領主のいる陣屋や城下町に出向き、公事の手続きをしなければならなかった。 公事宿は、そうした農民たちのための宿泊施設を提供した。そして、彼らが役所に提出する願書や証文、訴状など諸々の書類の作成・清書、手続きの代行や、弁護人的な役割もこなした。他にも御用状や触書、差紙(さしがみ)などの公式文書の町村への通達、手鎖をかけられた未決囚の宿預も行った。 公事宿は、役所と町村の公事訴訟の手続きが円滑に行われるよう、仲介・取次をする役割も担っていた。また、幕府は逗留する訴訟人の監視の役を公事宿に担わせ、訴訟人が私用で外出する際の行先確認を義務づけ、宿泊したことにして店借りをすることや縁者等の元に身を寄せることを禁止した。 公事訴訟の役割を担う存在として、他に腰掛があった。腰掛は、奉行所に召喚された者の控え所で、普通は茶屋を営み、審理を待つ訴訟人や付添いの公事宿主人などに湯茶、敷物、草履、筆紙などを売って業とした。公事宿同様に営業株があり、奉行所や腰掛の草取りや掃除などの雑用をした他、腰掛で審理を待つ訴訟人の白洲への呼び込みや、差紙を公事宿に届ける使いの役も果たした。 江戸では、公事宿に滞在中の公事費用やその他の諸雑費の負担は公事方御定書に明記されており、村の責任で訴訟がおこなわれる場合は村の負担となり村人の持高に応じて拠出、村人個人の利害と責任で行われた訴訟の場合は当人の負担となった。当人に責任負担能力のない場合は親類、五人組に対してその持高割で拠出させる。
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