大幅な設計変更
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/05 22:09 UTC 版)
DCAM3の開発は試作品であるエンジニアリングモデル制作まで進められたところで、大幅な設計変更を余儀なくされることになる。2012年10月、渡邊誠一郎がはやぶさ2のプロジェクト・サイエンティストに就任した後、はやぶさ2の科学観測を強化する動きが始まった。その流れの中で、SCIのプロジェクトにも衝突を専門とする研究者が参加するようになった。彼らは小惑星にSCIを衝突させることは大変に重要な実験であり、衝突の状態、そして小惑星から破片が飛び散っていく様子を詳細に観測することが大変に重要であると主張した。 こうなるとはやぶさ2の代わりにSCIが作動したかどうかの確認を行うのみとした当初計画の、基本的にDCAM1、DCAM2の設計を踏襲するやり方ではとうてい間に合わない。まず衝突時や小惑星から破片が飛び散る様子の詳細観察を行うためには、DCAM1、DCAM2で行ったようなアナログ動画を撮り続け、それをアナログ通信で送信するというやり方では画質が悪くて観測目的を達成できず、やはり高分解能のデジタル撮影を行うカメラを搭載して高速デジタル通信を行わねばならない。もちろんDCAM3の当初からの開発者は、衝突を専門とする研究者たちの要求に対して難色を示した。DCAM3はすでに試作品であるエンジニアモデルの制作段階まで進んでおり、そのような段階での大幅な設計変更、というよりもはや新規開発を行うのと同様な事態であり、これからでは開発が間に合わない、目的を達成できる性能を満たせないなどの理由で、DCAM3の搭載そのものが出来なくなってしまう可能性があった。しかし衝突を専門とする研究者たちの熱意は極めて高く、話し合いを進め、課題を整理していく中でDCAM3はほぼ新規開発同様の形に生まれ変わることになった。 はやぶさ2計画がかなり進行した段階で始められた大幅な設計変更であったので、この時点でDCAM3のはやぶさ2本体への取り付け、分離についてのインタフェースについては決まりつつあった。そのため、その条件を満たすようにDCAM3の大きさ、質量を決定し、衝突を専門とする研究者との間で約半年かけて設計を詰めていった。 まずDCAM3はアナログカメラ系であるDCAM3-Aとデジタルカメラ系のDCAM3-Dの2つのカメラが搭載されることになった。DCAM3-AはIKAROSに搭載されたDCAM1、DCAM2の後継機であり、リアルタイムでのモニターを行い。一方、DCAM3-Dは科学観測に用いられることになる。アナログとデジタルの2種類のカメラが搭載されることになった理由としては、アナログとデジタルのカメラはほぼそれぞれ別個に開発可能であったことと、更にデジタルカメラ系のDCAM3-Dは急遽開発が決まったため、バックアップの意味でもアナログカメラ系も必要とされた。 しかしアナログカメラとデジタルカメラを同居させるといっても、分離カメラという極めて限られたスペースの中で同居させるのは至難の業であった。そして重量、電力の制約もまた厳しかった。デジタルとアナログの信号の混信を防ぐことも課題となったが、DCAM3には先客であるアナログカメラ系のDCAM3-Aが配置されており、そこにデジタルカメラ系のDCAM3-Dが割り込む形となったため、電子基盤などの部品は小型かつ省電力のものを選び、更に効率よく配置を行い、何とかスペース内に納まるように設計を進めていった。とにかく科学観測のため高分解能が要求されるDCAM3-Dは、性能を保証するレンズとセンサーの組み合わせについては変更することが出来ず、その上でデータの圧縮装置、通信装置、アンテナ、そしてそれらの回路と一次電池を詰め込まねばならない。基盤や配線用のスペースをぎりぎりまで削っていって、それでも収まり切らなければ改めて部品を選びなおすといった作業が続けられた。 DCAM3-Dは高速デジタル通信ではやぶさ2にデータを送信しなければならない。そこで通信機能も課題となった。はやぶさ2までの距離が10キロメートルまでは4Mbps、10キロメートルから20キロメートルまでは1Mbpsで送信する計画であったが、試験段階で安定して10キロメートル先にデータを送れなかったり、画像処理が上手くできなかったりするトラブルが起きた。これははやぶさ2本体側の受信感度の問題であり、受信側の電力を少し上げることによって解決した。 またDCAM3は、はやぶさ本体から分離後、1-2時間作動する計画であった。そうなるとカメラや回路からの発熱で、1時間後には100℃を越えてしまうことが想定された。高温になると電池の寿命も短くなってしまうので、どうしても熱設計が必要となった。そこで円筒形をしたDCAM3の側面に、銀を蒸着させたテフロンの放熱面を作り、熱を逃がす設計となった。 そして2012年10月からのはやぶさ2計画におけるサイエンス強化の動きを受けて、DCAM3の新規開発といっても良いほどの大規模な設計変更が始まったため、どうしても他の機器に比べて開発が立ち遅れていた。DCAM3の設計変更開始時には他の機器は試作品であるエンジニアモデルの制作、試験そして検証を終え、フライトモデルの詳細設計に入りだしていた。DCAM3は製作期間としては通常の約3分の2の時間しか取れず、時間の厳しい制約が開発に重くのしかかった。 DCAM1、DCAM2と同様、DCAM3でも大幅に民生品を使用している。これは宇宙での信頼性が検証されている宇宙用の部品は、頑丈ではあるもののコンパクトではないものが多く、DCAM3のような極めて限られたスペースしか割けないものには使用できないためであった。結局、民生品を放射線耐性試験にかけて、宇宙環境で使用に耐える民生品部品を選び出していった。
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