国際的な対応
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/04 00:44 UTC 版)
オーストラリア政府は発表前に日本やニュージーランド、インドネシアなどの周辺諸国にはAUKUSの枠組みによる原子力潜水艦取得計画について事前通告していたが、もともと共同開発で合意、契約していたフランスには通告していなかったとされる。16日には正式に地域諸国の外交使節団に概要を説明したが、フランス大統領のエマニュエル・マクロンとの会談も同日まで延期されることとなった。 フランス外相のジャン=イヴ・ル・ドリアンと国防相のフロランス・パルリ(フランス語版)は共同声明で、オーストラリアが500億〜900億ドル(約309〜558億ユーロ、日本円にして約4兆〜7兆円)規模で12隻の通常型潜水艦を提供する予定だったフランスとの潜水艦共同開発計画を破棄したことに失望の意を表明した。外相のル・ドリアンはラジオのインタビューで、オーストラリアによる契約破棄を「裏切り」とし、「後ろから背中を刺すようなもの」と形容した。また、アメリカについて「ドナルド・トランプ前大統領のやり方を彷彿とさせる」と批判し。アメリカ国務長官のアントニー・ブリンケンやオーストラリア外務省報道官が「フランスは重要なパートナー」であると釈明にしたが、フランスが抗議のために米豪2ヶ国に駐在する自国大使を召還、フランス本国へ一時帰国させる「対抗措置」をとると決定した。トランプ退陣以後、バイデンの自由民主主義国家との協調外交、いわゆる「価値観外交」の下、西側諸国はG7コーンウォール・サミットなどを通して対中姿勢においても歩調をあわせることを目指してきたが、オーストラリアの原子力潜水艦導入を巡る、これらの出来事によって西側諸国の連帯感、足並みが少し乱れる事態となった。なお、フランスはNATOの「軍事機構」を、NATOがアメリカ中心の組織であることへの反発から1966年から2009年にかけて一時離脱していたことがあったが、NATOからの再離脱について外相のル・ドリアンは否定している。その一方で、NATOの新しい基本戦略、いわゆる新「戦略概念」の策定にNATO加盟国間の国際問題として波及する恐れがあると指摘した。その後、ブリンケンとルドリアンとのニューヨークでの米仏外相会談やバイデンとの電話会談でのアメリカ側から「事前協議が必要だった」との見解が示されたこともあり、28日に大統領のマクロンは今後も「アメリカは重要な同盟国」であると述べた上で既に召還を決めていた自国の駐米大使を29日にはワシントンに戻すことを明らかにし、そうしてオーストラリアへの原潜技術供与を巡って急激に悪化した米仏関係の修復が徐々に図られることとなった。 イギリス首相のボリス・ジョンソンは、オーストラリアに配備する原潜に関する契約により「何百人もの高度な技能を持つ技術者への雇用」が創出されるとともに、「世界の安全と安定が保たれる」と主張した一方、フランスとの関係はこれまで通り「盤石」だと述べている。 アメリカ大統領のジョー・バイデンは、オーストラリアへの原潜技術供与は「この地域の現在の戦略的環境とそれがどのように発展していくか、という両方に対処するための方法」であると述べた。 2021年9月16日、ニュージーランド首相のジャシンダ・アーダーンは、従来通り、自国領海への原子力潜水艦の航行を許可しないという考えを表明するとともに、自国の非核化に対する伝統的な姿勢、立場を改めて示した。協定については現時点では打診されておらず、米英豪3ヶ国による協定の打診についても予想していなかったと述べている。 あるアメリカ政府高官は、オーストラリアとの合意は「一回限りの」例外であると述べた。オーストラリアとブラジルは、原子力潜水艦を保有するも、核兵器を持たない最初の国々となるとみられる。一方、他国が同様のアプローチによって原潜の原子炉で使用するためのウラン濃縮を行い、IAEAによる定期的な査察による保障措置を受けずに核開発を行う抜け道を作り、核兵器拡散のリスクが高まる可能性があるという懸念が指摘されている。 台湾副総統の頼清徳はこの協定を歓迎し、「この地域の民主主義・平和・繁栄のための前向きな進展」と言及した。 日本の官房長官・加藤勝信は6月17日の定例記者会見において、日本の提唱する自由で開かれたインド太平洋戦略に触れた上で、「インド太平洋地域の平和と安全にとって重要」と評価した。また、外務大臣の茂木敏充もオーストラリア外相のマリズ・ペイン(英語版)との電話会談でAUKUS発足を「歓迎」する意思を伝えた。一方で、総理の菅義偉がAUKUS発足前の6月17日に「対中包囲網など私もつくりませんから、まず」と発言していたように、Quadに比べ、中国を念頭に置いた軍事同盟としての性格や傾向が強く、軍事面でのハイレベルな連携が求められるAUKUSに日本が直接加盟を果たす可能性は現時点では低いとみられているが、菅義偉は24日にオーストラリア首相のモリソンとのワシントンでの会談で、発足を「歓迎」する意思を示している。また、オーストラリアと同じく、Quadに加わる日本、インドやANZUSに加わっているニュージーランドのほか、シンガポール、フィジー、パプアニューギニアといったアジア太平洋地域の国々の首脳からも「歓迎」の声が挙がっているが、マレーシア、インドネシアは軍拡競争が地域の不安定化に繋がる可能性があるとして懸念を示し、フィリピンは中立的態度を示した。 EU外務・安保政策上級代表のジョセップ・ボレルは9月20日のEU外相会合において、フランスへの「連帯」を示し、欧州委員会も1日にオーストラリアとのFTA締結に向けた交渉作業を1ヶ月にわたり保留すると発表した。フランスに連帯を示したEU諸国の間では、NATOを通じたアメリカとの同盟関係を維持しつつも、なるべくアメリカの軍事力に頼らず、EU加盟国の、特に欧州防衛機関(EDA)やその指揮下の欧州連合部隊といった欧州諸国の軍事力によってロシアなどからヨーロッパを防衛する構想である「欧州独自防衛」の議論が再燃することとなった。
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