国土開発縦貫自動車道建設法の施行
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「東名高速道路」の記事における「国土開発縦貫自動車道建設法の施行」の解説
高速道路を建設するための法的根拠となる二つの法律が1957年(昭和32年)4月に相次いで公布施行された。その内の一つが「国土開発縦貫自動車道建設法」(以下、縦貫道法と記述)で、提案から可決成立に至る顛末は次の通りである。 この法案に示される路線網は、田中清一が構想した自動車道路網を軸として、中央自動車道(起点東京都、終点吹田市)をはじめ、北海道、東北、中国、四国、九州の各自動車道6路線からなるが、そこに東海道の計画はなかった。第22回国会にて、衆議院議員467名のうちの430名という圧倒的多数の提案により、1955年(昭和30年)7月に可決され、続いて参議院に送られた。この時、有力会派の緑風会が提案を呑まず、継続審議となったことで第22回国会の通過はならなかった。緑風会の判断理由は、送られてきた原案が通過地点を別表で決めようとしていた事に対する反発であった。緑風会の議員からは異口同音に、原案の路線網は必要十分な調査が行われて決定されたとは言い難く、高額な高速道路建設に対してその投資に見合う交通量が見込めるのか、急峻な山々を貫くに当たって建設に適しているか否かの精査は行われたのか、それさえも判らないで、通過地点をいきなり別表で法定するとはいかがなものかという批判が発せられた。まず、路線の実態調査を済ませてから、それから通過地点を決定する方がよかろうと意見し、原案にあった通過地点を記した別表の削除を求めた。この批判に対して提案者の一人である青木は、反対会派の言い分も一理あると認めた。 そこで青木は修正案を出した。これにより緑風会も同意のうえ第24回国会で可決され、続いて国会法の規定により衆議院に送付された。第26回国会の場で再び修正のうえ可決され、再度参議院に送付されて、1957年(昭和32年)3月に至ってようやく可決成立した。初回の提案から実に4内閣5国会を経ての難産であったが、この時の青木を始め、関係議員が出した修正案は次の内容である。縦貫道法の施行後、原案の別表の通り予定路線を定める。それに対して総理大臣を会長として、関係大臣、国会議員など28人を委員とする審議会に諮ったうえで、できた案を再び法案にして国会に提出する。つまり、緑風会が懸念した予定経過地点を法律で明記することの妥当性について、予定路線の最終決定は別に法律で定めることにし、結果この法律は、建設に至るまで再度の路線法の国会提出、可決を要することになった。この修正案は同法第三条と第十条に反映され、これが中央道建設の法的根拠へと至る強力な武器となる反面、再度の予定路線法案提出に要する時間的浪費が東海道派の追撃を許すという皮肉な結果を招来することになった。 一般国道(画像左)と高速自動車国道(画像右)。高規格の高速自動車国道は一般的な道路と比べて建設費用が高額となる。交通量の少ない山地に建設する開発目的の道路であれば、何も高額な高速道路の規格を適用せずとも、往復2車線程度の道路でよいという意見が専門家から発せられた。 この法律は議員のほぼ全員が提案者となった経緯から、委員会において十分な審議をすることは始めから期待できず、その結果、提案者ですらはっきりしない問題点が専門家によって色々と指摘されている。その内の一つが、法律で示される路線の性格である。提案者の趣旨説明によると、この法律は国土の開発が主目的で、これまで放任した山地を開拓して山林資源と鉱物資源の開発を図り、併せて産業の立地振興と国民生活領域の拡大を高速道路網によって図ると説明している。そのため、日本列島の背骨である中央部を貫通して、3,000キロメートルで北海道から九州までを一本の幹線道路が縦貫するが、その結果として、東京 - 名古屋間においては山地を貫く中央道が選択され、交通需要の面で逼迫する東海道は無視された。しかし、高速道路とは本来、自動車の発展による交通混雑を解消するための特別道路であって、主として山岳区間の奥地を貫くことで産業、開発道路的な性格を要求するこの法律で示される道路に適用されるものではない。それにもかかわらず、この法律で示される道路は最高価な高速道路の規格を要求する。中央道の性格は後進性打開のための産業道路的な側面が強く、あえて高速道路の規格を要求するほどのものではない。一方の東海道は幾重の名だたる都市を貫通し、ゆえに交通混雑に悩まされていることで、高速道路を誘致するとすれば東海道こそふさわしい。この法律に示される矛盾が高速道路の誘致を巡る東海道と中央道の争いに拍車をかける一要因ともなった。
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