世界の実施推進・宗教的反対
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/08 10:34 UTC 版)
「着床前診断」の記事における「世界の実施推進・宗教的反対」の解説
着床前診断が社会的に受け入れられているかどうかはその国の宗教的背景に大きく影響を受けている。カトリックはそもそも中絶自体を異端としているためにカトリック教徒の多い国では中絶の合法化自体も遅れたものの、2000年代に各種生殖診断が合法化された。ヨーロッパではカトリック教国のアイルランドを除くほぼ全域でNIPT(新型出生前検査)が認可されており、出生前検査は多くの妊婦さんが受検している。世論調査では出生前診断実施賛成が79%と圧倒的に多数派・中絶に対する宗教的異端思想が国民に無いにも関わらず実施を控えることを推奨している日本以外は国民皆保険制度が無いアメリカを除き、非カトリック先進国では性別理由の中絶以外は保険適用で中心に広く実施されている カトリック ローマ・カトリック教会はかつてエイズ予防目的のコンドーム使用にも反対するなど、生殖についてきわめて保守的な姿勢で知られるが、着床前検査を含む生殖医療にもきわめて制限的である。ローマ・カトリック教会は受精の瞬間から受精卵に人としての尊厳が生じると考えるためである。従って、ローマ・カトリック教会は中絶にも着床前検査にも反対している。ローマ法王庁のお膝元であるイタリアでは2004年に生殖医療を厳しく制限する法律を作られた。この法律の成立にはローマ法王庁の意向が強く反映されている。この法律に対しては生殖の自己決定権を推進する立場から反対運動が広がり、違憲訴訟に発展した。憲法裁判所は2015年、この法律を違憲とする判断を下した。2015年の違憲判断からイタリアでも着床前検査が可能となった。 ローマ・カトリックの信者が人口の半数を占めるドイツでも着床前検査は法でほぼ禁止されていたが、2010年着床前検査は違法ではないとの判決が最高裁判所で出たため、着床前検査が可能となった。 フランスは1967年に避妊の合法化、1975年に人工妊娠中絶の合法化、2000年に処方箋の無い緊急避妊薬提供の合法化、これらがカトリック国としては初めて合法化された国である。1997年9月の保険適用による母体血清マーカーによる染色体疾患のスクリーニング検査開始(初年度52%の妊婦さんが実施)、 2009年6月クアトロテスト(母体血清マーカーと超音波検査の併用)検査開始、 2017年4月パリの一部の施設でNIPT無償化(クアトロテストで染色体疾患のリスクありと判断された場合)、 2019年1月NIPT(新型出生前検査)が全国的に医療保険適応開始(クアトロテストで染色体疾患のリスクありと判断された場合)と、遺伝子疾患や染色体異常を回避する目的の着床前検査が認められている。2021年時点で母体血清マーカーは無料(医療保険適応) 超音波検査はおよそ3000円(医療保険3割負担) クアトロテストは無料(医療保険適応) NIPTは無料(医療保険適応)、羊水検査は無料(医療保険適応時)となっているる。NIPTは当初は自由診療で全額負担であった。しかし、2011年からNIPT(新型出生前検査)が自由診療として受けられるようになると、自費で390ユーロ(約5万円)で受検をする妊婦が増加し続けた。そのため、フランス国内の女性保護団体から「貧困の差で検査が受けることが出来ないのは女性差別」の反発が増し、2019年から全国的にNIPT(新型出生前検査)も医療保険適応となっている。 英国国教会 イギリスでは遺伝子疾患や染色体異常を回避する目的の着床前検査が認められている。イギリスでは、他の欧米諸国にさきがけて 1967年に妊娠中絶法が制定された。現行の規定において、妊娠24 週未満の段階で、妊娠継続のリスクが中絶したときより高い場合という比較的緩い条件で人工妊娠中絶が認められる。それ以後はより厳しい条件のもとで認められるが、生まれてくる子に重篤な障害につながる心身の異常が生じるという妊婦へ重大なリスクがある場合という条件が設けられている。なお、いずれの場合も 2 名の医師による承認が必要である。政策的には、2004年以降保険適用で全ての希望する妊婦にダウン症等の出生前診断が行われている。ただし、医学的理由によらない、子供の性による中絶は禁止されている。イギリスでは病気の兄姉に臍帯血移植を提供する目的の「救世主兄弟」を着床前検査で産むことも事実上、認められている。 プロテスタントプロテスタントが多数派の米国では、男女産み分けも含めて着床前検査を含む生殖医療にはほとんど何の制限もない、自由に行われている。他方で人工妊娠中絶合法化に関する可否は国論を2分する論議になっている。 儒教・ヒンドゥー教 キリスト教国以外では、儒教、ヒンドゥー教などの影響で男尊女卑のある国では、もともと出生前診断による女児の中絶が行われていて出生児の男女比が変わってしまっているため、女性の権利を守るために着床前検査による産み分けを禁じている国があるが、不妊治療の成功率を上げて流産率を下げる目的の着床前胚染色体異数性検査は各国で実施されている。 ユダヤ教 ユダヤ人の国家であるイスラエルでは、厳格なユダヤ教徒の宗教的理由による産み分けを含めて着床前検査を認めている。
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