(参考)三極特許庁における特許要件の比較
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欧州特許条約(EPC) 日本国特許法 米国特許法(35 U.S.C) 第52 条 特許することができる発明 (1)欧州特許は、産業上利用することができ、新規でありかつ進歩性を有する発明に対して付与される。(2)次のものは特に(1)にいう発明とはみなされない。 ・・・(c)精神的な行為、遊戯又は業務の遂行のための計画、法則及び方法、並びにコンピュータ・プログラム 第2条 (定義)この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。第29条 (特許の要件) 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。 第100条 定義前後の関係からみて他の意味に用いられる場合を除いて、本法においては、(a) 「発明」とは、発明又は発見をいう。(b) 「方法」とは、方法、技巧又は工程をいい、既知の方法、機械、製品、組成物又は材料の新用途を含む。 第101条 特許される発明 新規かつ有用な方法、機械、製品若しくは組成物、又はそれらについての新規かつ有用な改良を発明又は発見した者は、本法の定める条件及び要件に従って、それに対して特許を受けることができる。 条文上は、三極の発明の定義はまちまちであり、国際的に統一がとれていないように見える。しかし、以下に示されるように、審査基準における「特許要件(patentability)」の考え方には、本質的な差は見あたらないともとれる。(1)発明が抽象的でなく、具体的で技術的であること、(2)実施例が具体的に記載されていること、といった要件が必要とされる。その意味から、実質的には、コンピュータにおける技術的構成を明示すること(例えば、特定のハードウェアと関連する構成や、データ構造とアルゴリズムからなる具体的なソフトウェアの構成等)が必要とされる。 欧州特許庁審査ガイドライン Part C, Chapter IV, 2.3.6コンピュータプログラムは「コンピュータ利用発明」の形態をとっているが、この表現は、コンピュータ、コンピュータネットワーク若しくはその他のプログラム可能な従来装置を含むクレームであって、クレームされた発明中の一見して新規な発明が、1つ又は複数のプログラムによって実現されるものをカバーすることを意図している。・・・ここで特許可能性を考慮するときに基本となるものは、原則としてその他の主題の場合と同じである。第52条(2)で掲げるリストの中には「コンピュータ用プログラム」が含まれているとはいえ、クレームされた主題が技術的性質を含んでいれば、第52条(2)又は(3)の規定による特許性除外の対象とはならない。・・・ コンピュータプログラムが、コンピュータを作動させているときに、そのような通常の物理的効果を超えた更なる技術的効果をもたらす能力を有していれば、クレーム態様がそれ自体であるか又はデータ搬送体の記録としてであるかにかかわらず、特許性除外の対象とはならない。この更なる技術的効果は先行技術中で知られていてもよい。コンピュータプログラムに技術的性質を貸与する更なる技術的効果は、例えば、プログラムの影響下にある工業的処理の制御、物理的存在を示す処理データ、又はコンピュータ自体若しくはその周辺機器の内部機能の中であって、例えば、ある処理の効率性や保安性、要求されるコンピュータ資源の管理、通信リンクでのデータ送信レートなどに影響を与えることができるものの中に見ることができる。結果として、プログラム自体として、データ搬送体中の記録として、又は信号の形態としてクレームされているコンピュータプログラムは、そのプログラムが、コンピュータを作動させているときに、プログラムとコンピュータとの間に存する通常の物理的対話構造を超えた更なる技術的効果をもたらす能力を有していれば、第52条(1)で意味する範囲内の発明とみなすことができる。このようなクレームは、特に第84条、第83条、第54条及び第56条並びに後述する4.5で示すEPCのすべての要件を満たせば特許が付与される。このようなクレームはプログラムリストを記載すべきでないが、プログラム作動中に実行することを意図している処理が特許性を有していることを確約する、すべての特徴を定義すべきである。 日本国 特許・実用新案審査基準 第VII部 第1章 2.2.2 2.2.1 基本的な考え方 ソフトウェア関連発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」となる基本的考え方は以下のとおり。(1) 「ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」場合、当該ソフトウェアは「自然法則を利用した技術的思想の創作」である。(「3. 事例」の事例2-1 ~2-5 参照)(説明) 「ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」とは、ソフトウェアがコンピュータに読み込まれることにより、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置(機械)又はその動作方法が構築されることをいう。そして、上記使用目的に応じた特有の情報処理装置(機械)又はその動作方法は「自然法則を利用した技術的思想の創作」ということができるから、「ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」場合には、当該ソフトウェアは「自然法則を利用した技術的思想の創作」である。 参考:「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには、請求項に係る発明が一定の目的を達成できる具体的なものでなければならない。(「技術は一定の目的を達成するための具体的手段であって、実際に利用できるもので、…客観性を持つものである。」 平成9 年(行ケ)第206 号(東京高判平成11年5月26日判決言渡) 米国特許商標庁 審査官審査手続手引書 第2106章A.発明中に示される実施例の参酌請求項に記載された発明は、全体として実施の様態がきちんと記載されている必要がある。すなわち、それは、有用(useful)で、具体的(concrete)、かつ触知できる(tangible)結果をもたらさなければならない。(State Street, 149 F.3d at 1373, 47 USPQ2d at 1601-02.) ・・・したがって、全体の技術開示には、請求項を裏付ける実施の様態にその根拠が含まれていなければならない。・・・B.特許要件を満たす発明の類型1 非発明の対象 明らかに特許要件を満たさない(請求項に記載される)コンピュータ関連発明の類型は、磁気のような自然現象や、抽象的なアイディア、または自然法則そのもの等のように、「説明的(descriptive)な構成要素」からなるものである。抽象的なアイディアは特許の対象にはならない(Warmerdam, 33 F.3d at 1360, 31 USPQ2d at 1759, or the mere manipulation of abstract ideas, Schrader, 22 F.3d at 292-93, 30 USPQ2d at 1457-58)。説明的な構成要素とは、「機能的に記載された構成要素」もしくは「非機能的に記載された構成要素」のどちらかに特徴づけられる。ここで、「機能的に記載された構成要素」とは、コンピュータの構成要素として使われるときに、機能性を与えるデータ構造とコンピュータプログラムからなるものである。(「データ構造」とは、特定のデータ操作を実現するように構成される、データ要素間の物理的もしくは論理的な関連性のことである。 .(新IEEE電気電子標準用語辞書 第5版(1993)から).「非機能的に記載された構成要素」は、音楽、文学作品、及びデータの編集や単なるデータの配列等であるが、これらに限定されるものではない。本質的に、これらの「説明的な構成要素」は、特許要件を満たさない。(Warmerdam, 33 F.3d at 1360, 31 USPQ2d at 1759.) 機能的記載の構成要素が、コンピュータで読み書き可能な媒体上に存在する場合、それが構造的・機能的に媒体と相互に関連性があり、具体的な技術の適用によってその機能的な構成要素の機能が実現可能な場合については、ほぼ特許要件を満たす。(略)非機能的に記載された構成要素がコンピュータで読み書き可能な媒体上に存在する場合は、実施要件を満たすのに必要な必須機能性を欠くことから、特許要件を満たさない。
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