カミキリムシの駆除
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/03 05:38 UTC 版)
線虫を媒介するカミキリムシを駆除し材線虫病の拡大を防ぐ方法、幼虫・成虫それぞれに方法がある。 幼虫を標的としたものとしては、カミキリが衰弱状態や枯死したばかりのマツに好んで産卵する性質を利用し、秋から翌年春にかけて枯死したばかりの木を伐採する方法がある。その後伐採木の焼却、粉砕、もしくは薬剤散布によって材の中のカミキリ幼虫を殺す。なお、薬剤散布の場合は幼虫が材内部に食い進む冬以前に行わないと殺虫効率が悪いという。これらは「伐倒駆除」と呼ばれ重労働である。近年薬剤散布方法が見直され、被害木を適当な大きさに玉切りしたあと薬剤散布とビニールシートでの被覆をセットで行うようになってきており、単なる散布と言うより燻蒸に近くなった。この方法の利点として薬剤の飛散がなく殺虫効率も高いこと、さらに破砕や焼却といった作業に比べてその場で処理できることが挙げられる。薬剤には有機リン化合物やカルバミン酸系化合物(通称カーバム剤・カーバメート剤、商品名NCS等)などが使われる。 成虫を標的にしたものとしては成虫の羽化してくる初夏(5-7月)に、カミキリが後食するマツの若い枝がある樹冠部に殺虫剤を散布し、カミキリを殺すことで線虫の感染を防ぐというものである。後食の開始と線虫がカミキリから脱出しマツに感染するのには僅かではあるがタイムラグがあるのでこの間にカミキリを殺すことは感染防止に有効とされる。主に大型噴霧器による地上からの散布かヘリコプターによる空中散布が採られる。薬剤には後述のように農薬の定番有機リン系か、最近はそれに比べて人畜毒性の低いと言われるネオニコチノイド系が使われる。散布には周辺のドリフト被害などからの批判もある。また、農薬の種類によっては森林認証制度を利用できなくなる場合がある。最近では薬の他に昆虫病原糸状菌、特にその中でもBeauveria属菌を使う殺虫方法なども提案されている。ただし、この病原菌も農薬同様非選択性的性格が強く様々な昆虫を殺してしまう。 カミキリ特に幼虫時期を対象とした天敵動物による防除、いわゆる生物農薬についても研究が行われているが、広く実用化されたものは無い。鳥類ではキツツキの一種のアカゲラ、寄生性・捕食性昆虫としてホソカタムシ類、コクヌスト類、寄生蜂等が注目されており、生息密度を上げることや効率的な捕食・寄生を行う方法などが研究されている。線虫の移動を助けるカミキリではあるが、ある種の線虫はカミキリに寄生する。マツノマダラカミキリから見つかった線虫はContortylenchus genitalicolaとして新種記載され、しかも卵巣に寄生するということから不妊化効果が期待されたが、完全な不妊雌成虫を作り出すのは難しくこの計画はとん挫した。なお、海外の事例ではオセアニアにおける北米原産マツ類に枯死被害をもたらす侵入昆虫ノクチリオキバチ(Sirex noctilio)においてキバチ雌成虫を不妊化する寄生線虫が見つかっており、この線虫を用いた被害のコントロールも実現している。また、キバチの線虫とは属が異なるが、日本においてもスズメバチ女王蜂を不妊化する寄生線虫が見つかっている。 寄生線虫に代わって注目されているものに、ボルバキアがある。ボルバキアは昆虫や線虫に寄生する細菌で宿主雌成虫の産卵により次世代へと繋がるために、宿主昆虫の生殖機構を乗っ取り宿主雌個体、ひいては自分に有利に利用することが多い。他にも犬のフィラリア症ではフィラリアに感染したボルバキアが病原性を高めたり、ある系統のボルバキアが感染したネッタイシマカはデング熱を媒介しにくくなる、宿主昆虫の寿命を縮めるなどの面白い性質が知られるものもある。近年マツノマダラカミキリを調べた結果、ボルバキアは単なる感染ではなくカミキリの常染色体に組み込まれているといい、遺伝子の水平伝播を起こしたことが示された。昆虫のような高等生物でこのような水平伝播は珍しいという。ボルバキアは前述のように宿主の生殖機構のコントロール能力を持つことがあるためカミキリについても不妊虫放飼のような効果があるのではないかという仮説の基で研究が進められている。 他にはマツが弱った時に発する匂いを模したもので、産卵期のカミキリを誘因する薬剤などもある。マツノマダラカミキリでの誘因調査事例では比較的上の方によく集まるという。マツノマダラカミキリ成虫が忌避行動を周波数の音波があることが発見され、農薬に変わる新たな防除手段になるのではないかと期待されている 特定の林分でマツ枯れを防除する場合、侵入初期に異常を示した少数のマツを的確に伐倒処理すれば、林内で感染サイクルが回って被害が拡大するのを防ぐことができる。しかし近隣に激害状態の林分があれば、そこから線虫保持カミキリが侵入することは防げない。理論上は林内でカミキリが発生して激害とならないよう薬剤散布による殺虫、近隣林分の樹種転換によってカミキリの飛来が充分少なくなるまで持ちこたえることができれば、防除は成功すると考えられている。日本における完全な根絶例は沖永良部島の一例で1995年に根絶宣言がなされている。この事例では空中散布によるカミキリ駆除の効果が高かったことが指摘されている。この他に鹿児島県の吹上浜や佐賀県の虹ノ松原で被害をほぼ抑えることに成功している。ただし、吹上浜については2008年頃から薬剤散布が行われなくなって再び激害化してしまい、図らずも空中散布の有効性が示される結果となった。 発病後一気に枯死に至らず、年が明けた春先、場合によっては夏近くまで生存する個体があり寒冷地では半数以上がこのタイプと言われる。カミキリ成虫が羽化する時期にこれらの衰弱した個体がある場合、マツがカイロモンとなるエタノールやテルペン類を発して性成熟したカミキリを誘引するため、防除の障害となる。 Beauveria bassianaは多犯性で様々な宿主に感染する。これはバッタだが、カミキリも同じ菌が殺す アカゲラ
※この「カミキリムシの駆除」の解説は、「マツ材線虫病」の解説の一部です。
「カミキリムシの駆除」を含む「マツ材線虫病」の記事については、「マツ材線虫病」の概要を参照ください。
- カミキリムシの駆除のページへのリンク