アリとの関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/24 07:50 UTC 版)
「シジミチョウ科#アリとの関係」も参照 本科はアリと関係の深い分類群として知られており、幼虫期に好蟻性、すなわちアリとなんらかの(広義の)共生的な関係を有することが知られている種は、科全体のおよそ 20%にのぼる。好蟻性種は新熱帯区に分布する Eurybiini族と Nymphidiini族の 2族からのみ知られており、旧世界からは知られていない。 本科の生活史は未解明の部分が多く、好蟻性にかんしてもシジミチョウ科と比べて分かっていることは少ない。本科およびシジミチョウ科の好蟻性にかんしては、アリに栄養を提供する代わりに天敵から保護してもらうという相利共生的な関係が一般的であるとされる。このような相利共生的関係にかんしても寄主アリの選好やアリへの依存度は一様ではなく、おなじ属の中でも種によって大きく異なる場合がある。近年はさらに、アリのコロニーに侵入してアリからの栄養の提供を一方的に受ける社会寄生性(英語: social parasite)の種(Aricoris arenarum)や、アリの幼虫を捕食する可能性のある種(Pseudonymphidia agave)も報告されており、好蟻性の進化を考えるうえでも、本科の生活史解明のためのさらなる研究の進展が必要とされている。また、好蟻性が見られない種であってもアリからの攻撃を回避し、身を守るためのなんらかの適応が見られる場合が多く、共生的な関係を構築しないことは、アリとまったく関係しないことを意味しない。アリから身を守るための手段としては、化学的な防御(英語: chemical defense)や刺毛の発達が挙げられ、特に刺毛にかんしては、好蟻性を示さない種において刺毛の長さと密度が高くなる傾向が見られる。 本科の幼虫期における好蟻性は、アリの行動を変化させるための音響的または化学的な刺激を生成・媒介する、形態的に特殊化した好蟻性器官(myrmecophilous organ)によって構築・維持される。本科の幼虫の好蟻性器官として以下のようなものが知られているが、好蟻性を示さない種にも見られるものや、機能が明確に分かっていないものもある。幼虫の好蟻性器官の位置や構造はシジミチョウ科のものとは異なり、PCOs以外の両者の好蟻性器官が相同ではないことから、好蟻性は両科の祖先的な形質ではなく、それぞれの系統で独立して獲得されたものであると考えられている。 シジミタテハ科幼虫の好蟻性器官 TNO (tentacle nectary organ) :第8腹節背面に対になって存在する。TNO からは糖やアミノ酸を含む液滴(蜜)が分泌され、栄養分をアリに提供する代わりにアリからの保護を受けるために機能する。既知の好蟻性種のすべてで見られるほか、Nymphidiini 族の好蟻性を示さない属においても存在が確認されているが、これは二次的に蜜の分泌機能を失い、化学防御のために用いられるようになったものである可能性がある。 ATO (anterior tentacle organ) :第3胸節(後胸)に対になって存在する。揮発性有機化合物を分泌し、アリの行動を制御するための化学的刺激を媒介していると推測されているが、幼虫が分泌する揮発性物質の分析は困難であるため詳しいことはよく分かっていない。Nymphidiini 族の好蟻性種のみから知られており、Eurybiini族は ATOを有さないとされる。 vibratory papillae :可動性の棒状の構造で、第1胸節(前胸)に対になって存在する。基質振動(空気中を伝播する音ではなく、自身が接している固体を伝わる振動)を生成し、アリを誘引するために機能すると考えられる。Eurybiini族では見られない。 PCOs (perforated cupola organsまたは pore cupola organs) :体表に散在する微細な孔状の構造で、アリの行動に影響を与えるなんらかの化学物質を分泌している可能性がある。好蟻性・非好蟻性を問わず本科の既知のすべての幼虫で見られ、既知の好蟻性器官の中で唯一、シジミチョウ科のものと相同であると考えられている。 このほかにもこれらとは異なる好蟻性器官や、アリとの共生のためになんらかの機能を有している可能性のある表皮構造がいくつか知られている。前述の、前胸に密生する風船状の刺毛(balloon setae)も好蟻性器官としての機能を有している可能性が議論されているが、Helicopini族や Riodinini族などの好蟻性を示さない分類群においても見られるため、捕食回避(英語: predator avoidance)のために機能している可能性はあるものの、好蟻性器官としての機能は現状疑問視されている。 蛹期においても摩擦発音機構(英語: stridulatory organ)の存在が認められており、好蟻性との関連が疑われるが、こちらも好蟻性種だけでなく好蟻性を示さない種からも知られている。成虫期においては、寄主アリを産卵の目印とする種(Minstrellus grandis)や、吸蜜中にアリからの攻撃を受けない種(Adelotypa annulifera)の報告がある。
※この「アリとの関係」の解説は、「シジミタテハ科」の解説の一部です。
「アリとの関係」を含む「シジミタテハ科」の記事については、「シジミタテハ科」の概要を参照ください。
アリとの関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/30 00:43 UTC 版)
この種を含むオオバギ属は、熱帯産の種に多くのアリ植物を含むことが知られる。それらでは、若い茎が中空になり、出入り口もあってこれがアリの巣になる。本種ではそのような密接なアリとの関係はないが、花外蜜腺を持ち、これによってアリなど肉食者を誘引し、それによって自身を草食者からの食害から守るものであり、このような植物はアリ共生植物 (myrmecophilic) と言われる。本種では、草食者によって葉を傷つけられると、花外蜜腺からの蜜の分泌が明らかに増加し、これは人為的に付けた傷でも再現出来る。この現象は、葉に傷を受けた場合に蜜の分泌を増すことで肉食者をより強く誘引し、それによって自身の防御を強化するという反応と考えられる。
※この「アリとの関係」の解説は、「オオバギ」の解説の一部です。
「アリとの関係」を含む「オオバギ」の記事については、「オオバギ」の概要を参照ください。
アリとの関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/11 23:39 UTC 版)
本科に属する種のうち生活史が部分的にでも明らかにされているのは全体のおよそ20%にとどまるが、完全な生活史が明らかになっている種のうちおよそ 75%が好蟻性、すなわち生活史のすくなくとも一部においてなんらかのかたちでアリと共生的な関係を形成することが知られており、本科は鱗翅目の中でも特にアリと関係が深い分類群として有名である。アリとの生物間相互作用(英語: biological interaction) は本科の多様化と進化につよい影響を与えてきたと考えられており、さまざまな観点から調査研究の対象になっている。科内での好蟻性(英語: myrmecophily)の程度や様式はさまざまだが、本科のアリとの関係はおおむね以下の三種類に大別できる。 Pierce et al. (2002) による、シジミチョウ科の幼虫とアリとの相互作用の分類 義務的関係(obligate assosiation) :生活史のすくなくとも一部において常にアリと関係し、アリがいなければ生育することができない。基本的に寄主アリに対して高い寄主特異性を示し、通常は特定の種または属のアリに依存する。アリとの関係は相利共生的なものと寄生的なものの両方が見られる。完全な生活史が知られている種の 30%が該当し、日本ではキマダラルリツバメ Spindasis takanosis、クロシジミ Niphanda fusca、ゴマシジミ Maculinea teleius、オオゴマシジミ M. arionides、ムモンアカシジミ Shirozua jonasi の5種が該当する。 任意的関係(facultative assosiation) :アリとの関係は空間的にも時間的にも断続的であり、アリを伴わなくても生存することができる。アリとの関係は非特異的かつ相利共生的なものがほとんどだが、一部の種でアリを捕食する行動が観察・報告されている。完全な生活史が知られている種の 45%が該当し、日本ではムラサキシジミ Narathura japonica など多くの種が該当する。 アリと関係を持たない(non-ant-associated, mymecoxenous) :アリからの世話を受けず、積極的に関係しない。捕食者であるアリの攻撃から身を守るための防御手段などを持たないわけではない。完全な生活史が知られている種の 25%が該当する。日本にも分布するベニシジミ Lycaena phlaeas などが該当する。 本科の好蟻性はアリの行動を操作することで成立しており、アリの操作はすくなくとも三つの方法、すなわちアリの攻撃性の抑制、アリを引き付けて近くにとどめること、アリに自らを守らせること、で行われる。アリの行動を操作する基盤となるのが音響的・化学的、あるいは視覚的信号であり、それらの信号を生成・伝達するための特殊化した器官を好蟻性器官(myrmecophilous organs, ant-associated organs)と呼ぶ。化学的信号の伝達にかかわる好蟻性器官のうち、もっとも基本的な三つを以下に概説する。これら三種の好蟻性器官はいずれも外分泌性であり、アリに対する栄養源の提供や化学擬態(英語: chemical mimicry)のために機能すると考えられるが、分泌物の正確な性質などにかんしてはわかっていないことも多い。また、PCOs を除き、科内で好蟻性器官が普遍的に見られるわけではなく、たとえばアシナガシジミ亜科は基本的に伸縮突起および蜜腺を欠く。 幼虫の基本的な好蟻性器官 PCOs(pore cupola organs) :体表全体に散在する。アリノスシジミ Liphyra brassolis を除く、幼虫期が既知の本科すべてで観察されている。炭化水素やアミノ酸を分泌してアリの攻撃を抑制するために機能している可能性が考えられている。 伸縮突起(tentacle organs) :第8腹節背側部に対になって存在する。アリの行動を操作する揮発性物質を分泌する、または物理的ないし視覚的な刺激をアリに与えるために機能している可能性がある。 蜜腺(dorsal nectary organ) :第7腹節背面に存在する。糖とアミノ酸を含む液滴を分泌し、アリに与える。 これらの基本的な好蟻性器官にくわえ、樹状突起(dendritic setae)などの付加的な好蟻性器官や音響信号を発生させる機構などが見られる場合もあり、通常は複数の器官・機構が複合的に機能することで好蟻性が維持される。 好蟻性は蛹期においても見られる例がすくなくない。蛹化の際に幼虫の好蟻性器官の多くは失われると考えられるが、体表炭化水素(cuticular hydrocarbons)の模倣による化学擬態によってアリからの攻撃の抑制したり、摩擦による発音(英語: stridulation) によってアリを誘引したりする例が知られている。 アリは多くの場合、本科の成虫を獲物として扱う。アリの巣中で蛹化する種では、羽化直後の成虫は脱落しやすい鱗粉に覆われており、巣を出るまでアリの攻撃から身を守ることができるようになっている。一部の種では成虫期においてもアリの行動を操作する手段を有している可能性が報告されており、たとえば Ogyris genoveva は寄主植物の根元にアリが形成するシェルター内で幼虫期を過ごし、羽化直後の成虫はアリに攻撃されることなくシェルターの近くで翅を伸ばすことができるという。また、成虫がアリを交尾や産卵のきっかけとして利用する例も知られている。たとえば、Jalmenus evagoras の雌成虫はアリを目印にして産卵を行い、雄成虫はアリを目印にして同種の雌成虫を探すとされる。
※この「アリとの関係」の解説は、「シジミチョウ科」の解説の一部です。
「アリとの関係」を含む「シジミチョウ科」の記事については、「シジミチョウ科」の概要を参照ください。
- アリとの関係のページへのリンク