アメリカ大使館の反応
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在京アメリカ大使館は1975年(昭和50年)11月6日付のアメリカ国務省宛電報でこの計画に触れ、ロランC局建設用地として新たに日本国内の土地を取得すること(在日米軍専用施設・区域の新規提供)は地元との交渉や議会の承認に長い期間を要するため事実上不可能だと伝えた。また、既存の施設・区域へロランC局を建設する場合も、OTHレーダーをめぐって起きた論争と同様に革新勢力が当該施設の一般任務を十分に調査・推測した上で「朝鮮半島有事に日本を巻き込み、攻撃を招くもの」と非難するおそれがあることや、アメリカ空軍だけでなく韓国空軍の攻撃能力向上に資する施設として機能した場合は、日本政府にとって政策上の問題へと発展するおそれがあることを指摘した。さらに、「日本へのロランC局建設は、ほぼ間違いなく合衆国沿岸警備隊の航法システムにおける軍事的側面に鋭く焦点を当て、注目を集めることになるだろう」と予期した上で、この計画を北海道(十勝太通信所)と沖縄(慶佐次通信所)の既存施設改修に留めるならばそのような事態には至らないという見通しを示すとともに、新たなロランC局の追加が計画実施に必要不可欠な場合は既存の施設・区域へ建設すべきだと伝えた。 その後、ロランC局建設用地に柏通信所が選ばれ、現地で技術調査が実施されたことを確認した大使館は、1976年(昭和51年)5月12日付の国務省宛電報で懸念を伝えた。この中でホジソン駐日大使(当時)は柏通信所の返還が予定されていた点に留意し、このまま施設・区域を保持してアンテナを新設すれば航空交通管制協定の修正が必要になることや、近隣地域でTV・ラジオの受信障害が発生するおそれがあることを指摘した。また、計画反対の動きが生じた場合は日本政府への新たな支援が必要となることについても触れ、「柏におけるプロジェクトの理由を日本側へ率直に説明することが必須」とした上で、計画を既存施設の改修に留め、日本国内への新たなロランC局建設に代わる案を検討するよう強く求めた。 同年12月28日、大使館は外務省の安全保障担当部局からの要請を受け、国務省宛電報の中でコマンドー・ライオン計画に係る4項目について質問し、これに対して国務省側は翌1977年(昭和52年)1月11日付の電報で回答した。質問と回答の要旨は次の通り。 アメリカ大使館の質問 (1976年12月28日)アメリカ国務省の回答 (1977年1月11日)A.将来、韓国空軍がこのシステムを利用する可能性はあるか? 韓国空軍へロランC装置を提供する計画はない。 B.ロランCを利用する軍用機にはどのような機種があるか? (輸送機) C-5, C-9, C-130, VC-135, C-141(早期警戒機・空中指揮機) EC-121, EC-135(戦術戦闘機・戦術偵察機) F-4, RF-4C(対潜哨戒機) P-3C(練習機) T-43 C.現在開発中の新型精密誘導兵器とロランCの間に直接の関連性はあるか? ロランCは第一義的に航法及び測位援助として民間と軍の双方が利用する。しかしながら、合衆国空軍はGBU-15誘導滑空爆弾の中間軌道における誘導方式にロラン信号を応用すべく、研究開発作業に着手している。GBU-15/ロラン開発に関する情報は1977会計年度予算案の空軍部分における補遺に非機密区分の摘要として含まれている。 D.このシステムを一般に公表する予定はあるか?特に朝鮮半島における戦術爆撃能力の強化について言及する予定はあるか? このシステムについて特に一般公表する予定はない。コマンドー・ライオンに係る質問の応対においては、従来のロランC航法システムの改良であることを強調する。 1977年(昭和52年)3月1日付の国務省発大使館宛電報によると、コマンドー・ライオンの設計段階は同年1月に開始され、沿岸警備隊はロランC局建設工事の完了を翌1978年(昭和53年)8月に予定していた。また計画の初期費用として1977年3月に90万ドル、次いで1977米会計年度の第3四半期に200万~800万ドル、その後の9ヵ月間に43万ドルの費用を要することを見込んでおり、国防総省はこれらの資金繰りに先立って、計画に対する日本政府からの前向きな反応を期待していた。大使館は既述のとおり、計画への懸念を当初は表明していたものの、3月22日付の電報では計画実現に向けた日本側への働きかけを国務省が肯定的に評価していることから、少なくともこの時点までにはその姿勢に変化があったことが窺える。 なお、国務省は大使館に対して、この計画に関する報道向けの具体的な質疑応答例を5月18日付の電報で提示しているが、軍事的な性質に触れることを避け、通常の航法システムとしてのロランC改良であることを強調したものとなっている。内容は次のとおり。 Q1. 柏通信所における建設工事の入札が行われていたが、工事の目的は何か? A1. 世界的に進めている既存のロランシステム改良プロジェクトである。 Q2. このプロジェクトにアンテナの建設は含まれているか? A2. 191mのアンテナ1本を建設する。この他に新たなロラン用アンテナが日本に建設されることはない。 Q3. 安全面や環境面で周辺地域に問題が起きることはないか? A3. 新たなアンテナは航空機の往来にとって危険なものではない。混信妨害には技術で対応できるため、ラジオやTVの受信障害は起きない。 Q4. 柏のロランシステムの目的は何か? A4. ロランは軍と民間双方の航空機及び船舶が全天候航法と精密測位情報のために利用する。柏の施設はネットワークの一部として、北西太平洋における正確な航行を合衆国及び日本、並びにその他の諸国へ提供する。 Q5. 政府はこの改良プロジェクトを知っているのか? A5. 地位協定によって合衆国軍隊は事前協議を経ずに施設を使用する権利を有しているが、手続上の事情から日本国政府へ通知した。 Q6. 沿岸警備隊へ移管後、空軍に雇用されている従業員の人員整理は行われるのか? A6. 人員整理の予定は事前に確認している従業員9名のみ。 Q7. ロラン施設は精密誘導兵器のコントロールに利用可能なのか? A7. ロラン誘導式の精密誘導兵器が開発された際には信号の利用が可能となるが、現在のところ、合衆国空軍においてこの性能に関する製造計画はない。 Q8. 他に同様の施設は日本国内にあるのか? A8. 北海道と慶佐次のロラン施設はこのネットワークの一部となっている。 Q9. なぜ新たなロラン局が必要となるのか? A9. 夜間及び全天候下での精密航法を提供するため。 Q10. 柏では日本政府へ返還される土地はあるのか? A10. 合衆国軍隊は地位協定に基づいて返還の見通しがある施設の調査を絶えず行っており、いくつかの土地と施設は返還を見込んでいる。その規模は現在調査中で、日米合同委員会の施設分科委員会で合衆国政府から通知する。
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