「雲の会」同人へ
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1950年(昭和25年)4月に、サローヤン『君が人生の時』の訳書が中央公論社より刊行された。雑誌『三田文学』には、NHK放送劇「こよなき歌(La Bonne Chanson)」を発表し、雑誌『人間』には、評論「アメリカ演劇の常識性」、サルトルの戯曲『蝿』の翻訳を載せた他、『東京新聞』『毎日新聞』『テアトロ』などに「演劇時評」を執筆した。また、福田恆存作の戯曲『キティ颱風』の関西公演に俳優として協力出演した。 同年8月には、岸田国士が「文学立体化運動」を提唱して主宰した「雲の会」の結成に、芥川比呂志、三島由紀夫、矢代静一らと共に参加した。この会の発足には他に、大岡昇平、小林秀雄、福田恆存などもおり、総勢63名が名を連ねた。 また夏には、信濃追分の地、長野県北佐久郡西長倉村大字追分(現・北佐久郡軽井沢町大字追分)を訪れて堀辰雄と知り合った。加藤はこの年、再び健康にすぐれず自宅で病臥することが多かった。この時期、矢代も結核を患い、同じく胸部疾患の再発をした芥川と2人共慶應義塾大学病院に入院していた。 同年11月、加藤は気胸療法などを試み闘病しながらも、「青年劇場」という文学座から独立した新しい劇団の構想を抱き、芥川へ喚起の手紙を出した。 研究生の一部は充分に新しいグループの中心たる資格あり、と思う。経済的に精神的に、一さい文学座プロパーから独立して、〈真の演劇〉の方向に向けて育て上げること。僕のやりたいこと、すべきことは之以外にない。之が許されないならば僕は止めてしまう。(中略)一切のオベッカを放棄してL’homme artiste になり給え。君が酒に理性を喪っている姿は見苦しい。某などと言うくだらぬ女とケンカしている君の姿はイタマしいと言うよりは、アサマしい。 — 加藤道夫「芥川比呂志への書簡」(昭和25年11月30日付) 1951年(昭和26年)、1幕物「まねし小僧」を雑誌『少年少女』に発表。「雲の会」の雑誌『演劇』(白水社)にカミュの『誤解』の翻訳を載せた。新潮社刊の『日本現代戯曲集V』に「挿話」が収録され、書肆ユリイカから『なよたけ』が限定出版された。 同年6月、『なよたけ』が、約3分の1にカットされ『なよたけ抄』として東京新橋演舞場で尾上菊五郎劇団、演出・岡倉士朗により縮小上演された。大幅なカットに上演許可するかどうかを加藤は迷い、戸板康二に相談していた。三島は縮小上演に同情し、腹を立てていた。 加藤が文学座に入座した動機の一つには、自身の演出による『なよたけ』の完全上演の夢があり、主人公の文麻呂に芥川比呂志、ヒロインのなよたけに加藤治子を配役し、演出助手に矢代静一が理想であった。しかし彼らは文学座においては、まだ新参者であり時期尚早であった。カット上演にしろ他劇団で上演すると、さらに文学座での来年上演の可能性はほぼなくなった。 この年は他に、評論「演劇の変貌」、「新しい芝居(一)・(二)」の連載、戯曲「思ひ出を売る男」を雑誌『演劇』に発表。NHKのため、シェイクスピアの『テンペスト』を脚色した。 また、中村光夫、福田恆存、戸板康二と共に「雲の会」刊行の単行本『演劇講座』(河出書房より全5巻)の編集に携わり、評論「フランス演劇」「シェイクスピアとジョンスン」など執筆。河出書房刊行の『現代戯曲選集 第五巻』に「なよたけ」が収録された。10月は、カミュの翻訳書『カリギュラ・誤解』を新潮社より刊行し、11月に文学座アトリエで『誤解』を演出した。 加藤は出身校である慶應義塾大学予科や、慶應義塾高等学校などで講師を務めながら、独自な文体による戯曲を発表していった。慶應高校での英語の教え子には浅利慶太などもいた。 1952年(昭和27年)には、堀辰雄作『曠野』を新日本放送のため脚色した。ドーデの戯曲『アルルの女』を角川書店(角川文庫)より翻訳出版。人文書院刊行の『サルトル全集』には加藤訳「蝿」が収録された。また、岸田国士著『新しき演劇のために』(創元文庫版)の「解説」を担当。サルトルの戯曲『悪魔と神様』の抄訳を雑誌『芸術新潮』に載せて紹介し、雑誌『放送文化』には評論「詩劇に就いて」を発表した。 同年5月、文学座の求めに応じ、堀田善衛原作の『漢奸』『歯車』などより『祖国喪失』を脚色・演出した(三越劇場や関西で上演)。その後は、放送劇「街の子」を雑誌『悲劇喜劇』に発表。評論「戯曲の文体について」を雑誌『文學界』に発表し、ジュヴェ評論集『聴き給へ君(エクツトモナミ)』の抄訳・紹介を『芸術新潮』に載せた。また、芥川比呂志演出の『恭々しき娼婦』の関西上演に俳優として協力出演。ラジオ東京のため『思ひ出を売る男』を放送劇化した。
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