LIDAR
別名:光検出と測距、レーザー画像検出と測距、レーザーレーダー、光レーダー、LADAR
英語:Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging、laser radar
反射光から対象の距離や方向などを測定する、レーダー(RADAR)に類似したリモートセンシング技術の一つ。レーダーでは電波が用いられるのに対して、LIDARではより波長の短いレーザー光が用いられる。
LIDARは、レーザーによる検出が困難な非金属や、雨滴のような小さな対象の検出に優れている。黄砂など、大気汚染の原因物質の粒子径や濃度などを測定することも可能であり、散乱体の移動を検出することで風速や風向を測定することもできる。対象物によっては、反射されたレーザー光の波長に変化が生じることがあり、その変化から対象物の属性を判別することも可能である。LIDARで得られた情報を基に三次元マッピングを行うことも可能であり、3Dスキャナとしての活用例もある。
LIDARは地質学や地震学の分野でも活用されており、航空機に搭載されたLIDARにより、地殻変動や断層の存在を捉えることが可能である。森林生態学の分野では、LIDARを用いたリモートセンシングにより、森林の樹高やバイオマスなどが測定されている。海洋学の分野では、船舶や航空機に搭載されたLIDARにより、水質や植物プランクトンの量などが測定されることがある。人工衛星や宇宙線に搭載されたLIDARは、気象観測や天体の地形の測量などに用いられている。
また、LIDARはロボットカーの実現に必要な技術の一つとされており、車載のLIDARを用いてブレーキなどの制御を行う装置の開発が進められている。具体的には、LIDARで周囲の自動車や歩行者、障害物などの情報を得て、距離が接近しすぎた時に自動でブレーキをかけて衝突を防ぐ機能などが想定されている。
関連サイト:
ライダーの原理 - 環境省
ライダー【LIDAR】
LIDAR
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/11 03:29 UTC 版)
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LIDAR(ライダー)(英語:Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)Lidar あるいは LiDAR とも表記される。「光検出と測距」ないし「レーザー画像検出と測距」)は、光を用いたリモートセンシング技術の一つで、パルス状に発光するレーザー照射に対する散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離やその対象の性質を分析するものである。日本語ではライダー、ライダとカタカナ書きされることも多い。軍事領域ではしばしばアクロニム LADAR (Laser Detection and Ranging) が用いられる。
この技法はレーダー(Radar、Radio Detecting and Ranging、電波探知測距)に類似しており、レーダーの電波を光に置き換えたものである。対象までの距離は、発光後反射光を受光するまでの時間の差で求まる。そのため、レーザーレーダー (Laser radar) の語が用いられることもある。
ライダーは高精度な3次元空間データを点群として非接触で取得できる能力から、地質学、地震学、リモートセンシング、 大気物理学で用いられる。近年は土木・建設現場での測量や出来形管理 、橋梁やトンネルなどのインフラ点検・維持管理に加えて、ドローンや自律移動ロボット、自動運転車用センサーとしても注目されている[1][2]。
民間利用としてはAppleのiPhone 12 Pro以降やiPad Pro第2世代以降に搭載されており、「ナイトモード時の対象物測距」や「3Dスキャン」機能等もこの技術を用いて実現されている。
概説
ライダーとレーダーの最も基本的な相違は、ライダーはレーダーよりも遥かに短い波長の電磁波を用いることである。典型的には紫外線、可視光線、近赤外線である。一般的に、検出できる物体や物体の特徴のサイズは、波長を下回ることができない。したがって、ライダーはレーダーよりもエアロゾルや雲の粒子の検出に向いており、大気の研究や気象学にとって有用である。
ある物体が検出されるには、伝導性に不連続性があり進行してきた波を反射する必要がある。レーダー波(マイクロ波またはラジオ帯域)は金属物によって効率よく反射されるが、雨滴や岩といった非金属は反射を起こしにくく、物質によってはまったく反射が検出できず、レーダーでは見つからない場合がある。エアロゾルや分子のような極めて小さな対象は特に不得手である。


ライダーを用いるとこれらの問題は解決する。ライダーの光束は密度が高く、コヒーレンスも高い。それだけでなく、波長が極めて短い(紫外光ではおよそ 10 μm から約 250 nm の範囲)。このような電磁波は小さな物体によっても極めてよく「反射」(後方散乱と呼ばれる)される。ライダーの使用法によっては、別の種類の散乱が利用される。レイリー散乱、ミー散乱、ラマン散乱、蛍光である。ライダーの波長は煙などの大気によって運ばれる粒子(エアロゾル)、雲、大気の分子の測定に最適である。
レーザーの光束は通常極めて絞り込まれ、細いビームとなっているので、極めて高い光学的解像度を以て大気の特徴をマップすることができる。更に、多くの化学物質において、可視光はマイクロ波に比べ強く相互作用するので、それらを検出する感度が高い。各種波長のレーザーを上手に組み合わせれば、散乱光の強度と波長との関係から、大気の組成を離れた所から調べることができる。
ライダーは大気の研究と気象学に主に用いられてきたが、近年では航空機や人工衛星に「ルックダウン」 downward-looking 型のライダーを搭載して行う調査やマッピングの方法が開発されるようになった。
構成
ライダーの構成は大きく二種類に分けられる。一つはマイクロパルスライダー (micropulse lidar) システム、もう一つは高エネルギー (high energy) システムである。
マイクロパルスライダーは、レーザー技術の進歩とコンピュータの演算能力の驚異的な向上とが組み合わされて可能となったものである。比較的低出力(1ワットのオーダー)のレーザーを用い、しばしば、「目に優しい」(eye-safe)システムと呼ばれる。目を防護し失明を回避するための予防措置をとらずに用いうるからである。
高エネルギーシステムは大気の研究では一般的である。雲の高さや層構造、雲の粒子の性質(消失係数 extinction coefficient、後方散乱係数 backscatter coefficient、偏光解消度 depolarization)、温度、圧力、風、湿度、微少な気体の濃度(オゾン、メタン、窒素酸化物など)などの大気のパラメタを測定することができる。
次に、ライダーを構成する要素を挙げる。
- レーザー — 科学研究以外の分野では波長 600-800 nm のレーザーが最も一般に用いられる。安価で大出力のものが得られるが、「目に優しく」はない(失明の可能性がある)。「目に優しい」ことは軍事利用ではしばしば必要となる。波長1550 nm のレーザーは「目に優しい」が、十分な出力のものを得るのが難しく、一般的ではない。航空機搭載型ライダーは一般的に 1064 nm のものを用いる。海底探査システムの中には水中透過性の高い 532 nm のレーザーを用いる場合がある。波長の他にも、発光間隔(データ収集速度を決めることになる)と発光時間(距離方向の分解能に関係する)も適当に設定しなければならない。
- スキャナと光学系 — レーザー光を空間的に走査(スキャン)し、広範囲の3次元情報を取得するための機構であり、その方法は様々である。二枚の平面鏡を振動させるもの、多角形の鏡を用いるもの、スキャナが二軸をもつものなどである。最近では機械的なビームステアリング機構を持たない機構が多い。例えばMEMS技術により、微小なミラーを静電気力や電磁力などで高速に振動させ、レーザー光の反射方向を制御してスキャンする方式がある[3]。光学系の性能は、角度方向の分解と、検出できる距離の限界に影響する。反射光の分離には、穴の開いた鏡を用いる方法とビームスプリッターを用いる方法がある。これらスキャン方式および光学系は、ライダーの視野角、得られる点群密度、データ収集速度、そしてシステムのサイズ、コストに大きく影響を与える。
- 受光器と電子機器 — 受光器にはさまざまな物質が用いられる。ケイ素とインジウムガリウム砒素を用いたピンフォトダイオードやアバランシェフォトダイオードが一般的であるが、波長によっては光電子増倍管も使われる。受光器の感度は、ライダーの他の部分の設計とうまくバランスを取らなければいけない。
- ポジショニングとナビゲーション — ライダーを可動型のプラットフォーム(航空機や人工衛星)に搭載する場合は、センサの絶対的な位置と方向を決定する装置が必要である。GPSと慣性誘導装置が用いられる。
応用


自動運転技術 - 条件付き自動運転であるレベル3や、ドライバーによる運転を前提としないレベル4~5の対応になると、高速道路や一般道路を安全に自律走行する機能が必要となる。そのため、センシングの冗長性を担保する理由で、カメラやミリ波レーダーに加えて、ライダーが採用される。これはライダーは色の識別や悪天候時のセンシングを苦手とする代わりに、距離の計測においては他のセンサーの認識精度を凌駕するためである。このような事情から、矢野経済研究所の発表によると2030年にはライダーの市場規模は4,959億円になると見込まれている。世界初の自動運転レベル3を達成したホンダ・レジェンドや、トヨタ・ミライやレクサス・LSに採用されるAdvanced Driveなどでライダーが搭載されている。
地質学や地震学では、航空機搭載型ライダーとGPSを組み合わせ、断層や隆起・沈降に伴う地殻の変位を測定するのに極めて役立っている。このシステムを用いれば、地殻変動を樹木越しに測ることすらできる。ワシントンのシアトル断層を発見したシステムとして有名になった。2004年の噴火によって発生したセント・ヘレンズ山の隆起の程度も、噴火前後のデータを比較することで示すことができた。
航空機/衛星搭載型ライダーシステムは氷河の観測にも役立っている。ライダーであればわずかな消長をも測定できるためであり、アメリカ航空宇宙局(NASA)のICESat(en)には、この目的でライダーが搭載されている。
林業においてもライダーはさまざまに応用される。航空機/衛星搭載型ライダーによって、林冠の高さ、バイオマスの測定、leaf area の測定が行える。他の産業、例えばエネルギー産業、鉄道、運輸関連分野でも、手早いサーベイ法として用いられる。
宇宙船によって月面に設置された鏡を用いて(月レーザー測距実験参照)、月と地球の距離を観測する世界規模のネットワークがあり、ここでもライダーが用いられる。月との距離がミリメートル単位の精度で測定できるので、一般相対性理論の検証に有用である。
宇宙機に搭載されたLIDARとしては、1994年のSTS-64にLITEが搭載され、雲やエアロゾルを観測した。火星を回るNASAの探査機マーズ・グローバル・サーベイヤー(1996年打上げ)は、MOLA (the Mars Orbiting Laser Altimeter) と名付けられたライダーを搭載しており、目をみはる程正確な地形図をもたらしている。また、2003年に打ち上げられたNASAのICESat衛星にもGLASというLIDARが搭載され、氷床や大気の観測を行った。2006年に打ち上げられたNASAのCALIPSO衛星はCALIOPを搭載し、大気の観測を行っている。2014年にESAが打ち上げる予定のADM-Aeolusも風や大気を観測するLIDARが搭載されている。日本初の月周回衛星かぐやも、一種のライダーであるレーザー高度計LALT (Laser ALTimeterthe)を搭載しており、月全面の正確な地形高度データを取得した。

大気物理学では、中層および上層部の大気に含まれるいくつかの物質の濃度を遠距離から測るのに用いられる。カリウム、ナトリウム、分子状の窒素及び酸素といった物質である。これらの濃度を測定することで、温度を計算することもできる。ライダーは風速の測定や、エアロゾル粒子の鉛直方向での分布を調べるためにも用いられる。
海洋学では、植物プランクトンの蛍光及び海洋表層の総合的なバイオマスの推定に用いられる。船舶による測定が困難な海域での海底探査にも航空機に搭載して用いられる。
また、上記以外にも速度超過に対する交通取締(いわゆるネズミ捕り)用としてレーダーの代わりに用いられることがある。レーダー取締り機は携帯するには大型であり、特定の車両を分離して測定することがしばしば困難であるが、ライダーを用いると小型のカメラ式取締機によって、沢山走っている車両の内一台を狙い撃ちにすることができる。レーダー取締機はドップラー効果を用いて対象の速さを直接測定するが、ライダーの場合、二点間を通過する時間から速さを計算する。
軍事応用を詳述するには時期尚早であるが、イメージングに関するかなりの研究が進んでいることが知られている。空間分解能が高いため、対象(戦車など)の細かな特徴を捉えることができる。軍事分野では LADAR のアクロニムで呼ばれることが多い。
立体イメージングが可能である。スウェーデン、デンマーク、アメリカ合衆国、イギリスで軍事応用が研究されており、数キロメートル先の対象の立体像を 10 cm 以下の誤差で描出することができる。
イギリスにある欧州トーラス共同研究施設 (JET) では、ライダーを用いたトムソン散乱の測定を行い、プラズマ中の電子密度、温度プロフィールを求めている[4]。
隠しカメラを検出する「Laser-Assisted Photography Detection」(LAPD) という技術の開発も進んでいる[5]。
駅や状業施設、イベント会場などにおける人流や密度の計測へ応用も進んでいる。固定設置されたライダーにより、人や混雑を検出するこのアプローチは、カメラに対してプライバシーの観点で需要度が高く、またその空間分解能によって高い精度で人の流れを追跡できるとされている[6]。
またライダーは考古学や文化財保護の観点での活用も進んでいる。非破壊で広範囲の精密計測が可能なライダーは、レーザー光が植生の隙間を透過して地表面に到達する性質を持つため、森林や密な植生に覆われて地上からは確認困難な古代の道路、集落跡、古墳、城郭などの遺構に関連する微細な地形の起伏を広範囲にわたって明らかにすることができる。また文化財の3Dデジタル化のため、建造物、彫刻、埴輪などの文化財をライダーで精密に計測し、3次元モデルを作成する取り組みが進められている。これは、修復作業の基礎資料となるだけでなく 、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を用いた展示・教育コンテンツへの活用も期待されている[7]。
関連項目
- en:Atomic line filter
- en:Time domain reflectometry
- en:Optical time domain reflectometer
- en:Satellite laser ranging
- TOFカメラ
- 測域センサ
- 三次元測定機
- ソナー
- 補償光学
- 光ヘテロダイン
- ドップラーシフト
- 航空レーザー測量
- ドップラー・ライダー
- SLAM
- 齊藤保典
- 国際レーザー測距事業
脚注
- ^ “Autonomous Vehicle Lidar: A Tutorial (English Edition) [プリント・レプリカ Kindle版]”. Amazon Services International, Inc. 2020年7月10日閲覧。
- ^ 吉郎, 鶴原. “日経ビジネス電子版”. 日経ビジネス電子版. 2019年7月29日閲覧。
- ^ Lin, Chia-Hsing; Zhang, Hao-Sheng; Lin, Chia-Ping; Su, Guo-Dung J. (2022-01). “Design and Realization of Wide Field-of-View 3D MEMS LiDAR”. IEEE Sensors Journal 22 (1): 115–120. doi:10.1109/JSEN.2021.3127045. ISSN 1558-1748 .
- ^ “Lidar Thomson Scattering Diagnostic”. Focus On Articles. EFDA-JET. 2007年7月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年9月22日閲覧。
- ^ “盗撮を一網打尽。iPhoneのLiDARセンサーを使って隠しカメラを発見する手法が開発される”. Impress. (2021年11月24日)
- ^ “レーザーセンサーによる高精度でリアルタイムな人流計測 | Use Case | PLATEAU [プラトー]”. Plateau. 2025年4月11日閲覧。
- ^ “デジタル技術による文化財情報の記録と利活用”. 全国文化財総覧. 2025年4月11日閲覧。
参考文献
- 須田 教明『電磁波測距儀』(改訂版)森北出版、1976年。
- 丸安 隆和『大学課程 測量(1)』(第2版)オーム社、1991年。
- 半田 孝司 (1976), 光波測量の精度について:ジオジメーター700型の特性
- 「光学式距離測定システムの設計 測定原理から信号処理の方法まで」『トランジスタ技術』、CQ出版、1993年7月、288-303頁。
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、LIDARに関するカテゴリがあります。
- CALIPSO: The Cloud-Aerosol Lidar and Infrared Pathfinder Satellite Observation satellite -- space-based laser remote sensing of clouds and aerosols for a better understanding of climate change issues
- Lidar: Raman-shifted Eye-safe Aerosol Lidar
- lidar tutorial (NASA) - ウェイバックマシン(2007年3月4日アーカイブ分)
- NOAA Oceanographic (Fish) Lidar
- Joint Airborne Lidar Bathymetry Technical Center of Expertise (JALBTCX)
- EOSL - The Electro-Optical Systems Laboratory at GTRI has a nationally known program in lidar research and development.
- LiDAR 市場 調査
- The NASA Goddard Space Flight Center's Raman Lidar Laboratory - This laboratory has a ground and an upcoming airborne Raman lidar measuring water vapor, aerosols and other atmospheric species
- The USGS Center for LIDAR Information Coordination and Knowledge (CLICK) - A website intended to "facilitate data access, user coordination and education of lidar remote sensing for scientific needs."
- [1] Tutorial slides on LIDAR (aerial laser scanning): Principles, errors, strip adjustment, filtering.
- [2] Tutorial slides on LIDAR (aerial laser scanning): Extraction and modelling.
- LIDARのページへのリンク