玄米
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/28 22:55 UTC 版)
概要
玄米の「玄」は、「暗い」または「色が濃い」という意味で、精白されていないのでベージュ色または淡褐色をしている。玄米は、糠(ぬか)や胚芽が取り除かれていないため、白米よりビタミン、ミネラル、食物繊維を豊富に含む[1]。そのため健康食品として用いられる。
玄米を普通の炊飯器で炊くと、白米に比べてボソボソとした食感になりやすく、消化にも悪く、食べにくい。しかし、圧力鍋や玄米モードを備えた炊飯器を使うことで、玄米を食べやすく炊くことができる。
玄米より炊きやすく食感・食味が良い発芽玄米などの加工品も販売されており、また、「金のいぶき」のように玄米食を前提とした品種による玄米[2]も販売されている。
栄養
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 1,476 kJ (353 kcal) |
74.3 g | |
デンプン 正確性注意 | 78.4 g |
食物繊維 | 3.0 g |
2.7 g | |
飽和脂肪酸 | 0.62 g |
一価不飽和 | 0.83 g |
多価不飽和 | 0.90 g |
6.8 g | |
ビタミン | |
ビタミンA相当量 |
(0%) 1 µg |
チアミン (B1) |
(36%) 0.41 mg |
リボフラビン (B2) |
(3%) 0.04 mg |
ナイアシン (B3) |
(42%) 6.3 mg |
パントテン酸 (B5) |
(27%) 1.37 mg |
ビタミンB6 |
(35%) 0.45 mg |
葉酸 (B9) |
(7%) 27 µg |
ビタミンE |
(8%) 1.2 mg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(0%) 1 mg |
カリウム |
(5%) 230 mg |
カルシウム |
(1%) 9 mg |
マグネシウム |
(31%) 110 mg |
リン |
(41%) 290 mg |
鉄分 |
(16%) 2.1 mg |
亜鉛 |
(19%) 1.8 mg |
銅 |
(14%) 0.27 mg |
セレン |
(4%) 3 µg |
他の成分 | |
水分 | 14.9 g |
水溶性食物繊維 | 0.7 g |
不溶性食物繊維 | 2.3 g |
ビオチン(B7) | 6.0 µg |
ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[4]。うるち米 | |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
玄米はビタミン、ミネラル・食物繊維などを豊富に含み、とりわけビタミンB1が白米よりも多く含まれている。
かつて、玄米はデザイナーフーズ計画のピラミッドで2群に属しており、2群の中でも亜麻、全粒小麦と共に5位中2位に属する、癌予防効果のある食材であると位置づけられていた[5]。
玄米食の歴史
日本
文献史学では江戸時代まで農民は玄米を主食としていたと考えられてきた[6]。奈良時代には白米と書いて「しらげのよね」と呼び、身分の高い人びとが食べた[7]。また、庶民はもっぱら精白度の低いウルチ米(黒米と呼んだ)を食べ、アワやヒエに混ぜることもあったが、完全な玄米ではなかったともいう[7]。
籾すり技術が未熟だった江戸時代以前の玄米は、籾すりの際に果皮も一部剥ぎ落とされてしまうので、後の時代の玄米と同じではない[8]。
文化人類学では精白米仮説が唱えられており、弥生時代から用いられた臼や杵で脱穀を行うと糠は多くは残らないという指摘があり、玄米が出現するのはむしろ臼杵精米から土臼に転換した中世以降であるとする学説がある[6]。
植物考古学では弥生時代から古墳時代の遺跡から出土炭化米の分析が行われているが、その圧倒的多数は調理前の状態の米で殻が熱で消失して玄米状態で残っているものである[6]。そのため調理後に炭化した例に精白米がみられないか調査が進められている[6]。
昭和初期以降、医師の二木謙三が玄米を「完全食」と呼び、健康のために玄米食を普及することに努めた。
1943年(昭和18年)頃には大日本玄米食連盟があり、1万人以上が加盟していた[9]。1942年(昭和17年)以降、大政翼賛会が国民を玄米食にさせるよう活動を始め、時の首相であった東條英機が玄米を常食していることも伝わり世論は玄米に傾いた[10]が、川島四郎ら軍の栄養学者は、玄米の消化が白米に劣ること、炊飯に要する燃料や調理時間が増加することを指摘して、玄米食に強く反対した。これに対し伝染病研究所の研究者らが玄米食について研究し、当時の『医界週報』での報告には、炊飯に要する燃料は増加したが、玄米食によって小食になった上、下痢も減り、仕事の耐久力が上がり、医療費は1⁄17に減った、と伝えたので、栄養学者も認めざるを得なくなったとある[11]。
戦時下において米は配給制となった。当初の配給米は七分搗きだったが、節米のために、五分搗き、ニ分搗きとなり、最後には、玄米が配給された。玄米はモソモソしてまずいと都市住民から不評であり、その上、下痢患者が続出した[12]。
東南アジア
東南アジアの米品種は日本の現代の米品種に比べて糠層が薄いことが知られている(星川清親の調査によると、糠層の厚さに比例する糊粉層の平均層数は日本のモチ米(4.7層)、日本のウルチ米(4.4層)、ジャワ・スマトラ(3.1層)、フィリピン・ベトナム・ラオス(2.9層)、中国(2.7層)、インド・パキスタン(2.4層)であった)[6]。
日本では籾摺り後の玄米を米選(米選機で小径の未熟米やクズ米を取り除く工程)して流通・保管することが一般的だが、東南アジアなどの長粒種地域では乾燥籾の状態で流通・保管することがほとんどで籾摺りと精米を行うことが多い[13]。中小規模の施設や個人では小型の籾摺り精米一体機が使用されてきたが、米選の機構(あるいは米選の概念)がないため、不均一な状態のままの玄米を精米して食べることが多かった[13]。しかし、嗜好の変化により、オーガニックの長粒種玄米の販売や玄米を小型の家庭用精米機で精米して食べる例もみられる[13]。
注釈
出典
- ^ 五訂増補 日本食品標準成分表 (文部科学省)
- ^ 金のいぶき(2018年2月1日閲覧)
- ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
- ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
- ^ 大澤俊彦、「がん予防と食品」『日本食生活学会誌』 2009年 20巻 1号 p.11-16, doi:10.2740/jisdh.20.11
- ^ a b c d e 小林正史「日本の初期稲作民の精米度」『日本文化人類学会研究大会発表要旨集』、日本文化人類学会。
- ^ a b “4-1 お米・ご飯食データベース 奈良時代の貴族は白米を食べていた”. 公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構. 2023年10月28日閲覧。
- ^ (著)石毛直道 『日本の食文化史』 岩波書店、2015年、ISBN 9784000610889、36-37頁。
- ^ 荻原弘道 『日本栄養学史』 国民栄養協会、1960年。160頁
- ^ 荻原弘道 『日本栄養学史』 国民栄養協会、1960年。157頁。
- ^ 荻原弘道 『日本栄養学史』 国民栄養協会、1960年。160-161頁。
- ^ 江原絢子、石川尚子、東四柳祥子『日本食物史』吉川弘文館、2009年。ISBN 978-4-642-08023-1。281頁。
- ^ a b c 田中敏晴「長粒種玄米に対する米選の効果と食味への影響度」『美味技術学会誌』第18巻第2号、美味技術学会。
- ^ 桒田寛子、寺本あい、治部祐里 ほか、「玄米飯の物性と微細構造」 『日本調理科学会誌』 2011年 44巻 2号 p.137-144, doi:10.11402/cookeryscience.44.137
- ^ a b “食品中のヒ素に関するQ&A”. 農林水産省 (2019年3月29日). 2023年6月30日閲覧。
- ^ 前田雪恵; 辻井良政; 矢冨伸治; 井上明浩; 髙野克己「玄米食の安全性について」『日本食品保蔵科学会誌』第41巻第6号、日本食品保蔵科学会、2015年、273-275頁、doi:10.5891/jafps.41.273。
- ^ 「第33回 土・水研究会「水稲におけるヒ素吸収抑制技術」開催報告」『農業と環境』第191号、農業環境技術研究所、2016年3月1日、2023年6月30日閲覧。
- ^ “【食の安全考】玄米のとりすぎはがんになる? コメの安全性に世界が厳しい目 その真相は…”. 産経ニュース. 産経新聞社 (2016年1月8日). 2023年6月29日閲覧。
- ^ “Arsenic in rice”. Swedish Food Agency (2023年2月27日). 2023年6月30日閲覧。
- ^ “米(玄米)に残留する農薬の調理による減少について”. 愛知県衛生研究所 (2005年7月7日). 2023年6月30日閲覧。
- ^ 小林麻紀; 高野伊知郎; 田村康宏; 富澤早苗; 立石恭也; 酒井奈穂子; 上條恭子; 井部明広「米中の農薬残留実態(1995年4月~2005年3月)」『食品衛生学雑誌』第48巻第2号、日本食品衛生学会、2007年、35-40頁、doi:10.3358/shokueishi.48.35。
- ^ “「玄米には毒がある」というのは本当?”. SMART AGRI. オプティム (2020年8月14日). 2023年6月30日閲覧。
- ^ “酵素玄米をやめた人の口コミ|食中毒・危険などデメリットも紹介!”. ちそう. KOMAINU. 2023年6月29日閲覧。
- ^ “玄米の栄養知識と効果!アブシジン酸の毒性や効果的な炊き方も”. [食事ダイエット] All About (2021年8月16日). 2023年6月29日閲覧。
- ^ 早川利郎; 伊賀上郁夫「フィチン酸の構造と機能」『日本食品工業学会誌』第39巻第7号、日本食品工業学会、1992年、647-655頁、doi:10.3136/nskkk1962.39.647。
- ^ “Are Anti-Nutrients Harmful?”. Harvard T.H. Chan School of Public Health (2022年1月). 2023年6月30日閲覧。
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- ^ Pires SMG; Reis RS; Cardoso SM; Pezzani R; Paredes-Osses E; Seilkhan A; Ydyrys A; Martorell M; Sönmez Gürer E; Setzer WN; Abdull Razis AF; Modu B; Calina D; Sharifi-Rad J (2023). “Phytates as a natural source for health promotion: A critical evaluation of clinical trials”. Frontiers in Chemistry (Frontiers Media) 11. doi:10.3389/fchem.2023.1174109. PMID 37123871.
- ^ “薬事・食品衛生審議会 令和3年12月15日”. 厚生労働省 (2021年12月15日). 2023年7月4日閲覧。
- ^ “令和元年度 既存添加物の安全性評価に関する調査研究報告書”. 国立医薬品食品衛生研究所 (2020年3月). 2023年6月30日閲覧。
- ^ “対象外物質評価書 アブシシン酸”. 食品安全委員会 (2021年11月). 2023年6月30日閲覧。
- ^ “農産物規格規程:農林水産省”. www.maff.go.jp. 2023年7月14日閲覧。
- ^ a b 岡田祐一, 伊藤景子, 鳥居由美 ほか、「【原著】七味唐辛子およびその構成原料を用いたノシメマダラメイガ幼虫の発育実験」『ペストロジー学会誌』 2004年 19巻 2号 p.109-115, doi:10.24486/pestologygakkaishi.19.2_109
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