せいちょう‐せんりゃく〔セイチヤウ‐〕【成長戦略】
成長戦略
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/13 03:49 UTC 版)
成長戦略(せいちょうせんりゃく)とは経営学用語の一つ。大企業、外資系企業などといった組織が成長することを目標として経営していく場合、そのためにはどのような事柄をするべきかを明確にするということ。
日本では一企業や企業団体に留まらず、経済成長させるということを目指す場合にもこの言葉が用いられている。
解説
一般的には、競争政策、規制改革(規制緩和)、貿易自由化、教育投資、技術開発、経済の安定などが成長に重要とされる[1]。規制改革と官業の民間開放が、成長戦略の基礎である[2]。
成長戦略というと個別分野の政策を並べることになりがちであるが、マクロ経済の視点が必要であるとされている[3]。成長戦略を論じる際には、「サプライ・サイド(供給)」と「ディマンド・サイド(需要)」という視点が重要である。成長戦略に関わる多くの政策はサプライ・サイドに働きかけるものであり、規制緩和、市場開放、税制変更などは、いずれもサプライ・サイド政策である[4]。
経済学者のポール・クルーグマンは「経済成長を確実にできる方法を発見すれば、世界中から貧困問題がなくなる。経済学もいらなくなる」という批判もある[1]。
産業政策としての成長戦略
成長戦略は産業政策であってはならいとする識者の見解がある。
経済学者の野口悠紀雄は「多くの人は、『今後成長が期待される分野を政府が選び出し、それに補助を与えて育成することが成長戦略である』と考えている。実際、民間企業の経営者が『成長戦略が必要』という場合、それは『政府の補助が必要』というのとほぼ同義である。また、各省庁にとっては『成長戦略』とは、予算獲得のための手段である。しかし、こうした傾向の成長戦略には大きな問題がある。それは、どの分野が成長できるかは事後的にしか分からない場合が多いからである」と指摘している[5]。
経済学者の原田泰は「特定産業への肩入れではなくて、規制緩和に尽力するのが成長戦略になる。成長戦略は産業政策ではなく、規制緩和、市場開放、民営化、減税でなければならない」と指摘している[6]。
経済学者の高橋洋一は「経済成長のためには役所がでしゃばらないほうがよい。役所の最善の経済政策(成長戦略)は『何もしない』ことである[7]」「政府の成長戦略も、特定産業の選り好みではなく、国民に『成長産業』を選んでもらいという、逆転の発想が必要である[8]」と指摘している。
経済学者の土居丈朗は「政府の計画的な成長戦略に依存・期待すべきではない。政府の力で実質経済成長率を直接的に高めることなど到底不可能である。政府にできることは過剰な介入を排する程度に限られている」と指摘している[9]。
懸念材料
経済学者の伊藤元重は「もし成長戦略がサプライサイドで効いてくるとしたら、物価を下げる要因として働きかねない。需要が増えない中で供給力だけが増えれば、物価を下げる圧力として働く」と指摘している[10]。
提言
- 伊藤元重は「供給サイドからの成長戦略が日本の持続的成長のために重要である。規制改革・市場改革などによって日本の潜在成長率を上げ、中長期の成長率を押し上げようというのが成長戦略の狙いである[11]」と指摘している。
- エコノミストの岩田一政は「長期的に実質消費水準が下がっていく事態を打開するには成長戦略しかない。生産性を上げる一番の大きな要因は開放経済である」と指摘している[12]。
- エコノミストの片岡剛士は「民間向けの成長戦略については、潜在成長率をどれほど押し上げるか未知数の部分が大きく、期待できない。アイデアはあるが金はないという人たちの金回りをよくすることが、政府の最大の役割なのではないか」と指摘している[13]。
- 高橋洋一は「東京・大阪などアベノミクス特区をつくり、岩盤規制に穴を開けることが必要であり、期間限定・地域限定なら可能だろう」と指摘している[14]。
民主党政権の成長戦略
日本の民主党政権だけに限っても、「新成長戦略」(2010年6月)、「日本再生の基本戦略」(2011年12月)、「日本再生戦略」(2012年7月)が作成された[5]。
民主党政権の成長戦略に懸念を示す識者もいた。経済学者の岩田規久男は「2009年に発表された民主党政権の新成長戦略は、旧自民党政権時代の産業政策の復活であり、規制緩和・競争政策の観点から問題がある[15]」「民主党政権は成長戦略が無いと批判されたため、急遽経済産業省につくってもらった『新成長戦略』を閣議決定した[16]」と指摘している。岩田は、2009年の民主党政権の「新成長戦略」について「内容は戦略でもなんでもなく、大げさな言葉やカタカナ語を並べて、根拠の無い数値目標を掲げているだけである」と批判している[16]。
アベノミクスの成長戦略
第2次安倍内閣で成長戦略がとられている。第2次安倍内閣での成長戦略というのは、アベノミクスと言われている事柄の一つであり、法人に対する減税を実施することで企業収益を拡大させ、そして国民総所得を向上させるということが目標とされている[要出典]。
アベノミクスの成長戦略に懸念を示す識者もいた。エコノミストの杉浦哲郎は「政府の提言は産業政策的な発想が強すぎる。成長産業に肩入れすれば経済全体が伸びるという考え方は、単純すぎる」と指摘している[17]。
高橋洋一は「成長戦略と言うが、なぜ官僚に成長分野がわかるのだろうか。ターゲットを決めてそこに資源を投入することは、企業ではありえるが、国レベルではありえない」と指摘している[18]。
エコノミストの村上尚己は「成長戦略は、民間経済の力を底上げする政策であるが、いつの間にか公的セクターの予算の使い方に関わる政策にすり替わっている」と指摘している[19]。
脚注
- ^ a b 「高橋洋一「ニュースの深層」 「賢い」官僚が成長産業を決める「新成長戦略」は過去の遺物だ これが成功すればノーベル賞もの!?」現代ビジネス2010年6月21日
- ^ 「視点:成長と財政再建へアベノミクス「仕切り直し」の好機=竹中平蔵氏」Reuters2014年12月26日
- ^ 「日本企業が米国ベンチャーのイノベーションに負け続ける理由は何か」ダイヤモンド・オンライン2013年7月8日
- ^ 「伊藤元重の新・日本経済「創造的破壊」論 アベノミクス「成長戦略」最大のカギは企業にはびこる強固なデフレマインドの克服である」ダイヤモンド・オンライン2013年6月17日
- ^ a b 「野口悠紀雄「日銀が引き金を引く日本崩壊」 古い産業を保護して成長はありえない--成長戦略を評価する視点」ダイヤモンド・オンライン2013年5月9日
- ^ 「法人税減税とTPPで復活する日本〔2〕」PHPビジネスオンライン 衆知2014年2月10日
- ^ 高橋洋一『大阪維新の真相』中経出版、2012年、30頁。
- ^ 「高橋洋一の民主党ウォッチ 官僚既得権がよみがえる 「日本再生戦略」の正体」の恐れ」J-CASTニュース2012年7月11日
- ^ 日本経済新聞社編著『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、99頁。
- ^ 「伊藤元重の新・日本経済「創造的破壊」論 「賃金上昇」→「デフレ脱却」という好循環を実現できる成長戦略とは?」ダイヤモンド・オンライン2013年11月11日
- ^ 「伊藤元重の新・日本経済「創造的破壊」論 「アベノミクス1年」の成果は想定以上。 今後、成長戦略の成功に必要なものは?」ダイヤモンド・オンライン2013年11月18日
- ^ 「岩田元日銀副総裁:円安は「自国窮乏化」-08年と類似」Bloomberg2014年9月22日
- ^ 「インタビュー:増税で振り出し、日本経済再起動が必要=片岡剛士氏」Reuters2014年11月28日
- ^ 「高橋洋一氏ら講演:アベノミクスでどうなる?インフレ・賃金の変化から次の一手を導く」ビジネス+IT2013年8月26日
- ^ 岩田規久男『「不安」を「希望」に変える経済学』PHP研究所、2010年、27頁。
- ^ a b 岩田規久男『「不安」を「希望」に変える経済学』PHP研究所、2010年、28頁。
- ^ 「景気が回復しても日本の給料が増えない4つの理由 雇用・賃金の改善を阻む古い経済構造の本質的課題--杉浦哲郎・みずほ総研副理事長に聞く」ダイヤモンド・オンライン2013年8月9日
- ^ 「高橋洋一氏x山口俊昌社長 対談:アベノミクスでどうなる!?激動を勝ち抜く企業経営、IT戦略とは」ビジネス+IT2013年6月11日
- ^ 「インフレが日本を救う 消費増税先送りで、アベノミクスは復活する」東洋経済オンライン2014年9月8日
関連項目
外部リンク
- 新たな成長戦略 〜「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」〜 - 首相官邸ホームページ
- 日本経済再生本部 - 首相官邸ホームページ
- ICT成長戦略会議 - 総務省
- 成長戦略 とは - コトバンク
- 成長戦略とは - 広告用語 Weblio辞書
- Dale W. JORGENSON「日本の成長戦略と世界経済」RIETI 2013年5月
- アベノミクスの「成長戦略」(日本再興戦略) - nippon.com 2013年10月11日
成長戦略(医療、外国人労働者などの特区構想)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 14:40 UTC 版)
「第2次安倍内閣」の記事における「成長戦略(医療、外国人労働者などの特区構想)」の解説
2013年4月16日、安倍主導の下で大胆に規制を緩和する「アベノミクス戦略特区」を3大都市圏を中心に創設する検討に入ったことが明らかになった。東京は、外国人医師の受け入れや英語対応の救急車・薬剤師を置く特区を設けて最先端の医療都市を目指し、また他の地域では混合診療も検討対象としている。中部圏では高度な技能をもつ外国人労働者の受け入れを行う特区を創設し、他の地域では労働時間の規制緩和をする『未来型雇用特区』を検討している。 2013年5月14日の産業競争力会議において、小泉構造改革の中心人物で日本維新の会にも近い立場である竹中平蔵が、「混合診療など、これまで岩盤と言われてきた項目が抜け落ちている」と内容に不満を示していたことが分かっている。また、アメリカの金融情報紙ウォールストリートジャーナルは、社説で日本の医療制度について「作家フランツ・カフカの小説に匹敵する悪夢的な医療保険システム」と痛烈に批判し、営利目的の病院や医院の許可を求めている。さらには、「正社員の解雇をしやすくするといった計画」が後退していることにも不満を示し「(安倍の)今の政治的な勢いをこういった規制バリアーを打ち破る力に利用するべき」「(台頭する独断的な中国の挑戦に応えるといった)安倍首相のより大きな『人気のある』目標と経済改革は一致する」との説得を試みた上で、「(30年間の不景気などの要素に加えて)福島原発事故のショックは変革のためのめったにない機会を作った」といった、いわゆるショック・ドクトリン(「真の変革は、危機状況によってのみ可能となる」との主張)にも言及している。 2013年6月5日、成長戦略第3弾が発表されたが、東京株式市場では上記のような理由による「失望売り」から500円を超える大幅な値下がりとなった。成長戦略第3弾の内容は①「国家戦略特区」創設(都心の容積率の規制の緩和、インターナショナルスクール設置の支援、外国人医師の国内での医療行為の認可 など)②空港、道路整備でPFI(民間資金を活用した社会資本整備)の拡充③一般用医薬品(市販薬)のインターネット販売解禁 などである。アメリカの大手情報企業ロイター通信によると、エコノミストらは成長戦略について「一律の法人減税や、雇用流動化策が盛り込まれなかったため、主軸となる政策が抜け落ちている」といった評価を下しているという。またアメリカのウォールストリートジャーナルは、「外資を誘致するには英語が使いやすい環境のほか、雇用関連の規制緩和も必要になる」と『解雇をしやすくする』ことの意義を説明している。
※この「成長戦略(医療、外国人労働者などの特区構想)」の解説は、「第2次安倍内閣」の解説の一部です。
「成長戦略(医療、外国人労働者などの特区構想)」を含む「第2次安倍内閣」の記事については、「第2次安倍内閣」の概要を参照ください。
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