成長戦略とポートフォリオ理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/03 16:00 UTC 版)
「経営戦略論」の記事における「成長戦略とポートフォリオ理論」の解説
1970年代の経営戦略論の多くは、規模・成長・ポートフォリオ理論を対象としていた。 1960年から19年間に渡って続けられたPIMS研究は、市場戦略が市場占有率に与える影響を探索する試みである。ゼネラル・エレクトリックで開始されたこの研究は、1970年代始めにハーバード大学へ、1970年代後半に戦略計画研究所 (Strategic Planning Institute) へと移管されながら続けられ、現在では収益性と戦略の関係について大量の情報を蓄積している。PIMS研究が開始された初期の頃は、「市場占有率が大きくなれば、収益率も大きくなる」という茫漠とした結果しか得られていなかった。この結果は、「市場占有率が高い企業は、規模の経済と学習曲線効果を得ることができて、それが収益率の向上に繋がる」と解釈された。高い市場占有率が収益率の向上に繋がるという命題は企業の拡大・成長戦略に注目を集め、水平統合、垂直統合、多角化、フランチャイズ、M&A、ジョイント・ベンチャー[要曖昧さ回避]、有機的成長などについて、盛んに議論が交わされた。 1980年代になると、高い市場占有率と低い市場占有率の双方が高い収益性に関連し、その中間的な市場シェアは低い収益性を示すという、矛盾をはらんだ結論が得られるようになった。「hole in the middle(どっちつかず)」と呼ばれる問題である。この異常性がもたらされるメカニズムは、後にマイケル・ポーターによって説明されることになる。PIMS研究の他にも、低い市場占有率が高い収益性と関係があることを示唆する研究は多く、市場占有率の低いニッチな企業が高い収益を上げていることを示唆している。 複数事業を抱える多角化企業の経営には、新たな思考法が必要とされる。単一事業で操業する企業では生じない、事業を超越するレベルでの意思決定や事業間の調整活動が必要となるからである。多角化企業に特有のこの問題に最初に注目したのは、ゼネラル・モータースのCEOであったアルフレッド・スローンである。ゼネラル・モータースは、半自律的な戦略的ビジネスユニットに権限を委譲すると同時に、支援機能は中央に集中して管理していた。 多角化企業の経営戦略において最も価値のある理論の一つは、ポートフォリオ理論である。これは、ハリー・マーコウィッツらの金融理論家達が発展させたポートフォリオ分析に基づく概念である。ポートフォリオ分析のエッセンスは、「金融資産の広範なポートフォリオはリスクを低減する」という点にある。1970年代の研究者達は、製品ポートフォリオ理論を事業ポートフォリオへと応用した。ボストン・コンサルティング・グループが開発したBCG分析やゼネラル・エレクトリックのG.E. multi factoral modelなど、最適な事業ポートフォリオを検討するための分析手法が幾つか発達した。それらの手法では、金のなる木 (cash cow) と呼ばれる市場シェアが高く追加投資を控えても収益があげられる事業を多数抱えることが望ましいとされたため、企業は多角化を推進することになった。多角化に当たっては市場占有率と収益性が重視され、事業間のシナジー効果などはそれほど重視されなかった。事業ポートフォリオ理論の影響力は強く、個々の事業をばらばらに所有するよりもシナジー効果を追求する方が効率的であると認識され始める1980年代まで、企業は多角化し続けることとなった。
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