7階プレイタウンを襲った黒煙
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 22:45 UTC 版)
「千日デパート火災」の記事における「7階プレイタウンを襲った黒煙」の解説
22時35分ごろ、7階で営業中のチャイナサロン「プレイタウン」では、23時の閉店に向けて「お決まり」の様々な動きが始まっていた。ステージ前のショースペースで15分間演じられた「ヌードショー」が終了し、照明が復活した直後のホールとあって人々の動きは忙しくなっていた。客とホステスはグラスを傾けながら談笑し、バンドの生演奏に合わせてダンスを踊っていた。帰宅する客を見送るホステスらがエレベーターで1階入口へ向かっていた。調理場では後片付けが行われ、すでに接客を終えたホステスらは更衣室で寛ぎ、店内事務所ではプレイタウン支配人(店長のこと。以下、支配人と記す)らが一服しながら集客を増やすための対策を話し合っているなど、プレイタウンはいつもの土曜夜と何ら変わらない閉店前の様子だった。このころプレイタウンには客57人、ホステス78人、従業員35人、バンドマン10人、ダンサー1人の合計181人が滞在していた。 22時36分から22時39分にかけて、この間にプレイタウン関係者が最初の異変を感じた。ボーイの1人がプレイタウン専用A南エレベーターで地下1階から7階へ昇る途中、エレベータードア下部の隙間から白い煙が流れ込んでくるのを目撃した。客の1人がトイレに行こうとしてホール出入口の方を見たとき、A南エレベータードアの隙間から白煙が噴き出しているのを目撃した。もう1人の客もトイレに行こうとしたとき、トイレの天井隅の通風口から白い煙が出ているのを発見した。ホステスの1人は、ホール出入口の方向から白煙がホール内へ流れ込んでくるのを目撃した。ステージでのショーが終わってから3曲目の演奏に入っていたバンドマンの1人も天井を流れる白煙の筋を確認し、バンドリーダーに「火災ではないか」と報告した。バンドマンたちは、バンドリーダーの指示で演奏を中止し、楽屋(ステージ裏の小部屋)に待機することになった。その後、バンドリーダーは詳しい状況を確認するためにエレベーターホールへと向かった。一方、プレイタウン事務所前に設置された換気ダクト(リターンダクト)の吸入口からも煙が噴き出しているのを調理場にいた従業員が発見した。調理場にいた従業員やボーイらは、ダクト内のどこかが燃えているのだろうと判断し、ダクト吸入口に向かってバケツで水を掛けるなどの消火作業を行った。しかし何の効果もなく、煙の量はさらに増すばかりであった。 22時39分、事務所内にいた支配人は、ホールや事務所前の通路がやけに騒がしいことに気付いて事務所の外に出たところ、換気ダクトから噴き出す激しい煙に襲われた。支配人は、調理場担当の従業員数人とともに西側のホステス更衣室の方へ行こうとしたが、その方面の通路にはすでに煙が充満しており、支配人らはすぐに事務所前へ引き返した。「ガッ、ガッ、ガッ」という規則的な音をたてながら空調ダクトから絶え間なく噴き出す煙を目の当たりにして、支配人は「階下が火災だ」と、このとき認識した。その後、支配人は詳しい状況を確認するためにホールへ向かった。西側ホステス更衣室にいたホステスら11人は、換気ダクトから噴き出す煙によって、この段階で逃げ場を失い、更衣室内で孤立状態になってしまった。換気ダクトから噴き出す煙は、次第に黒煙へと変わり、異様な臭気と熱気を大量に出すようになっていった。この頃、千日デパートビル1階南側のプレイタウン入場口の周辺には、客を送迎するためにホステスたちが9名ほどいた。路上にいたホステスの1人は、通行人らが千日デパートの上階を指差していたので、何気なくその方向を見上げると、ビルの3階窓から黒煙が噴き出しているのを直に確認した。同ホステスは「これは火事だ」と思い、1階に設置されていたインターホンでプレイタウンに知らせようとしたが、7階では誰も呼び出しに応答しなかった。 22時40分、デパート保安係員が119番通報したころの7階プレイタウンでは、ボーイらがA南エレベータードアから噴き出る白煙をエレベーターの故障だと考え、同エレベーターを止めて点検を始めようとしていた。ある者は同エレベーターのどこかが燃えていると判断し、消火器を持ちだすためにホールを奔走するなど、空調ダクト周辺の煙の噴出と相俟って店内がにわかに騒がしくなってきた。エレベーターホールの状況を確認にきたバンドリーダーは、エレベータードアから噴出する煙の状態を見て、以前に地下1階のプレイタウン・エレベーターロビーで起こった小火のことを思い出していた。煙はまだ白く、さほど量も多くは無かった。以前も小火はすぐに収まったので「今回も当時と同じ状況だろう」と考え、バンドマン室へ引き返していった。男性客の1人は、何か焦げ臭く感じると異常事態に逸早く気付き、レジに行って女性従業員に異臭について尋ねていたところ、自身で白煙が漂っている状況を直に確認した。男性客は「これは火災だ」と直感し、避難するためにエレベーターホールへ向かった。また別の男性客も異常に気付き、レジに来て「火事と違うか!」と叫び、ホステスから階段の場所を尋ね、その案内に従ってエレベーターホールへ向かった。このときに支配人がホール出入口とクロークの中間付近に現れ、エレベーターホール前の様子を見ていた。エレベーター前には7、8人がエレベーターを待っており、そこにいた客やホステスらに変わった様子はなかった。支配人は、クローク付近がいつもより少し薄暗く感じたが、煙の状態も店内に少し立ち込めた程度だったので特別に異常を感じず、大したことにはならないと思った。この煙の状態であれば火災は階下で発生していることもあり、客にはいつものように勘定を済ませて帰ってもらえると思い一安心し、しばらくその場に留まって様子を見ることにした。この段階では店内に漂っている煙に対して客と従業員にさほどの緊迫感はなく、避難しようとした客に対して従業員が「避難するならカネを払っていけ」と文句を言う場面も見られた。そのやり取りを聞いた他の客は、レジにカネを放り投げてから店を後にした。支払いのことを気にするだけの余裕が客と従業員にはまだあった。プレイタウン滞在者の誰しもが、このわずか数分後に破滅的な結果に至ることなど、想像だにしていなかった。 22時41分、クローク係の女性従業員は、時報(117番)で合わせておいたクローク内の置時計が右時刻を指したとき、A南エレベーターの方向から二筋の白煙がホールへ流れて行くのを目撃した。そこで隣の電気室にいる電気係に「エレベーターが故障しているのでは」と告げたところ、電気係は状況を報告するためにホール内へ歩いていった。この直後、火災の急速な拡大にともない、A南エレベータードアの隙間から噴き出す煙は、急激にその量を増すと同時に白煙から黒煙へと変わっていった。クローク係は、煙によって一寸先も見えない状態になったので煙をビルの外へ排出しようと電気室の窓を開けた。すると黒煙がエレベーターホールから電気室に向かって激しく流れ、窓の外へ向かって勢い良く噴き出した。生命の危険を感じたクローク係は、ホール内へ避難しようと試みたが、すでにそれすらもできないほどエレベーターホールが煙で汚染された状態になっていた。 22時42分、このころにはプレイタウン店内に滞在していたすべての人たちが異様な臭気とホールに流れ込む煙に気付き、火災を覚知した。客やホステスらは地上へ避難するために、プレイタウンへ出入りするための移動手段として唯一知っている2基の専用エレベーターに殺到し、エレベーターホール前は混乱した状況へと陥っていった。しかし、A南エレベーターから激しく噴き出す煙によって専用エレベーターが使用できなくなったことで、避難者らはホール内へ引き返さざるを得なくなった。唯一知っている「地上への逃げ道」が絶たれたことで、人々のあいだにパニックが起こり始めた。この時刻ころにプレイタウン店内に最初の放送があり、男性従業員が「火事です。落ち着いて行動してください」とプレイタウン滞在者に呼びかけた。しかしながら防火責任者や従業員による具体的な避難誘導は行われなかった。ホール内は、煙の充満によってきな臭くてむせ返り、目には激痛が走って涙が止まらないほどの状態になっていた。 22時43分、消防隊の第一陣が千日デパートビルに到着した。すぐさま消防隊による放水準備作業が開始された。このころ火災は3階エスカレーター開口部から2階へ延焼し始めた。 一方プレイタウンでは、A南エレベーターからの猛煙でエレベーターホールが汚染されるなか、A1エレベーター(北東側)で7階に昇ってきたホステス1人と男性客1人がプレイタウンのエレベーターホールに充満している煙に驚き、エレベーターホールにいたホステス1人とともに同エレベーターで地上へ脱出した。さらにクローク係の女性従業員がクローク後ろにあるB階段出入口からB階段を使用して地上へ脱出した。クローク係は、自分の持ち場のすぐ後ろに使用可能な避難階段があることを平素から知っており、容易にB階段を使用して脱出に成功した。支配人は、エレベーターホールが煙で汚染され視界が利かなくなってきたことから、電気室内にある懐中電灯を取ってくるよう従業員に命じたが、発見することができなかった。その後、エレベーターホールにいた人たちをレジ付近に退避させた。このとき支配人がレジ係に対して店内放送で客やホステスらに呼びかけるよう指示し、「ホステスの皆さんは落ち着いてください」と放送が流れた。パニック状態は酷くなり、エレベーターホールから退避しようとする人たちと、エレベーターホールへ向かおうとする人たちとの流れが出入口付近でぶつかり合い、混沌とした状況に陥ってきた。地上への避難を求める人たちの混乱に拍車がかかってきたことから、支配人はA南エレベーター東隣のA階段から客らを避難させようと考え、ボーイにA階段出入口の鍵を取ってくるように指示した。しかし、ボーイがA南エレベーター西隣に位置するクロークの中に入ろうとしたものの、猛煙に阻まれクローク内に入ることができずに鍵は見つけることができなかった。プレイタウンの避難者らは、エレベータードアから噴き出す大量の黒煙によって行動の自由が妨げられたため、ボーイらの指示で再びホールへと退避した。
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