笠(傘)
『今昔物語集』巻2-22 天竺に1人の人がいた。その人は前世で貧しい家に生まれたが、ある時、雨にぬれる人に、古い破れ笠を与えたことがあった。その功徳によって現世では、その人の頭上に常に天蓋があった。
『笠地蔵』(昔話) 大晦日、爺が町へ笠を売りに行くが少しも売れない。帰り道、吹雪の中に立つ6体の地蔵に、爺は6つの笠をかぶせる。その夜、6体の地蔵が来て、爺の家に宝物の袋を投げこむ。
笠寺観音の伝説 鳴海長者の雑仕女・玉照は、ある日、野中で五月雨に濡れる十一面観音像を見、自分の笠をぬいで観音像にかぶせた。それから何日か後に、関白藤原基経の三男兼平中将が鳴海長者の屋敷に泊まった。兼平は玉照の美しさに目をとめ、京へ連れ帰って正夫人(玉照姫)とした。玉照姫は帝に奏聞し、観音像のために大きな寺を建立した(名古屋市南区笠寺町笠寺観音)。
笠森寺の観音の伝説 雨の日。道ばたの観音様が頭からびしょ濡れになっているのを見て、1人の美女が自分の蓑と笠をぬいで、お着せ申した。それが、全国の美女を捜し求める嵯峨の中将の目にとまり、彼女は天皇のお后になった(千葉県長生郡長南町笠森)。
★2a.女に傘を貸す。
『しぐれ』(御伽草子) 中将さねあきらが清水寺に参詣した時、急に時雨が降り出したので、雨具のない15~16歳の姫君に、中将は傘を貸す。中将は姫君を自邸にともない、契りを結ぶ。しかし父左大臣が中将と右大臣の娘との結婚を決め、中将は右大臣宅に軟禁状態になって、姫君との仲は裂かれる。
*蛇の化身である美女に傘を貸す→〔雨宿り〕3の『雨月物語』巻之4「蛇性の婬」。
★2b.傘に入って来る女。
『ボク東綺譚』(永井荷風) 6月末の夕方、58歳の独身作家である「わたくし(大江匡)」は、玉の井の私娼窟を歩いていて夕立にあった。傘をひろげると、「旦那そこまで入れてってよ」と、女が飛びこんで来る。女はお雪という26歳の娼婦であった。「わたくし」はお雪の家へ行き、雨宿りをする。「わたくし」はお雪との関係を3ヵ月ほど続ける。
『百物語』(杉浦日向子)其ノ81 雨の降る道を、傘をさして1人歩いていると、死んだ祖父や父や友人のことがしきりに思い出される。前方の角にたたずむ人があり、ものも言わず傘に入って来る。見ると、今まで思っていた懐かしい死者の顔である。そういう時には、すぐさま傘を死者に渡して、今来た道を戻ると良い、と言う。
★3.傘をさして空を飛ぶ。
『加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)』「汐入馬捨場」 局(つぼね)岩藤が、悪事の報いで斬られてちょうど1年後の春の日。彼女の死骸を捨てた汐入堤の馬捨場に、その亡霊が現れる。岩藤は生前同様の美しい裲襠(うちかけ)姿で、片手に扇を持ち、片手に日傘をさし、蝶を追って空に浮かび上がる。「咲きも乱れず散りもせず、八重九重に桜の盛り。げに眺めある風情じゃなあ」と下界の桜を愛でて、岩藤は空を飛んで行く。
『メリー・ポピンズ』(スティーブンソン) 1910年のロンドン。幼い姉弟ジェーンとマイケルの父バンクス氏は銀行員で仕事一筋、母は婦人参政権運動にいそがしく、子供たちはさびしい思いをしていた。ある日メリー・ポピンズが、右手でこうもり傘をさし左手に鞄を持って、空から降りて来る。彼女はジェーンとマイケルの乳母になって、2人の世話をする〔*後にメリー・ポピンズはバンクス家を去るが、来た時とは逆に、左手に傘、右手に鞄を持って飛んで行く〕。
*普通は、傘をさしても空を飛べるわけではない。せいぜい、傘をパラシュート代わりにして、高い所から飛び降りるくらいである→〔うちまき〕2cの『愛宕山』(落語)。
『雨ふり小僧』(手塚治虫) 古傘から発生した雨ふり小僧が、村の分教場の中学生モウ太と友達になる。モウ太は、下駄ばきの雨ふり小僧に「ブーツを買ってやる」と約束するが、一家で町へ引っ越す嬉しさで、それを忘れてしまう。40年後、小さな会社の社長となったモウ太は、娘にブーツをねだられたのがきっかけで約束を思い出し、村へ行く。雨ふり小僧は橋の下でずっと待っており、モウ太が立派に成長したことを喜んで、消えてゆく〔*→〔器物霊〕の一種〕。
雨ふり小僧(水木しげる『図説日本妖怪大全』) 雨ふり小僧は雨師に仕える子供の妖怪で、雨の降っている野原などに現れる。ある晩、家に帰る途中の男が、不意の雨にあって困っていた。すると、柄のない傘をかぶり提灯を持った雨ふり小僧と行き会ったので、男は強引に小僧の傘を奪い取り、頭にかぶって走って逃げた。無事に家に帰り着いた男が、ほっとして傘を取ろうとすると、傘は頭から離れなくなっていた。
★5.傘を知らぬ里。
『西鶴諸国ばなし』(井原西鶴)巻1-4「傘(からかさ)の御託宣」 紀州の人の持つ傘が強風で飛ばされ、肥後国の山奥の穴里という所に落ちた。この里では誰も傘というものを見たことがなかったので、「これは神様であろう」と思って祀った→〔器物霊〕3。
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