器物霊
★1.古い器物や金銀などが、動き出したり物を言ったりする。人間の形をとることもある。
『狗張子』(釈了意)巻6-1「塩田平九郎、怪異を見ること」 摂州荒木家の侍塩田平九郎が出家し、諸方を旅する。ある時、草原のあばら家で夜を明かすと、3人の男が来て、世相を論じ詩を詠ずるが、平九郎の念仏の声とともに彼らは消えた。翌朝あばら家の内を捜すと、古いうちわ・笛・箒があった。
『捜神記』巻18-2(通巻414話) ある家に住む富豪が突然没落し、次にその家に住んだ人は家族が皆病気になった。阿文という男が家を買い、夜中に見張っていると、黄・白・青の着物を着た男たちが来て、「細腰」と呼ばれる者と話し合った。黄・白・青の男は屋敷内に埋まっている金・銀・銭で、「細腰」は竈の下の杵だった。阿文は金・銀・銭を掘り出し、杵を焼き捨てた。
『酉陽雑俎』続集巻1-878 元和(806~820)の頃、周乙という学生が、夜、勉強していると、小さな鬼が現れた。髪は乱れ、頭の長さは2尺あまり、頭いっぱいに、星のように光が砕けて散らばっていた。燈にふざけ硯をいじくる鬼を、周乙はつかまえたが、夜明け方になって、よく見たら、古びた木の杓だった。その上に、粟が百余粒へばりついていた。
★2b.甕(かめ)の変化(へんげ)。
『閲微草堂筆記』「槐西雑志」185「割れ甕の怪」 ある家に化け物が出る。身体つきは人間と変わらないが、目と眉の間が2寸ほどもあって、口と鼻の間がたった1分(ぶ)という、奇妙な顔をしている。劉という男が鉄砲でねらい撃ちすると、それは割れ甕だった。子供たちが甕に、人の顔をいたずら書きしたのである〔*顔を書いたために、甕に魂が宿ったのかもしれない→〔枕〕7の『太平広記』巻368所引『集異記』〕。
*壺の変化(へんげ)→〔壺〕4の『壺むすこ』(インドの昔話)。
★3.傘の変化(へんげ)。
『西鶴諸国ばなし』(井原西鶴)巻1-4「傘(からかさ)の御託宣」 村人が傘を神様だと思って祀ると、その傘に魂が宿り、「美しい娘を巫女として差し出せ」と託宣した。村娘たちは、傘の形から巨大な男根を連想して恐れたので、好色な後家が身代わりを買って出た。しかし傘と一晩過ごしても何事も起こらず、後家は立腹して傘を破り捨てた。
*古い傘から妖怪が発生する→〔笠(傘)〕4aの『雨ふり小僧』(手塚治虫)。
★4.箒の変化(へんげ)。
『閲微草堂筆記』「如是我聞」97「箒の怪」 花売りの男が某家の門を叩き、「この家の娘に花を売ったので代金をいただきたい」と請求する。家族は誰も覚えがないが、厠のぼろ箒の柄に花が何本か差してあった。その箒をへし折って焼き捨てると、かすかに泣き声がして血が流れた。
『幽明録』38「箒の美少年」 欲情過多の婦人がいて、朝晩酒を飲んでまぎらしていた。ある朝、目をさますと、すばらしい美少年が2人、家の裏に立っている。しかし、婦人が抱きしめようとすると、美少年は箒になってしまった。婦人は箒を焼き捨てた。
『酉陽雑俎』続集巻2-907 僧が堂の前へ来た時、物が檐(のき)の前に落ちて来た。それは生まれたばかりの嬰児で、むつきは真新しかった。僧は嬰児を袖にくるみ、村人に世話を頼もうと、出かける。5~6里行き、袖の中が軽くなったので、探ってみると1本の古箒だった。
『奇談異聞辞典』(柴田宵曲)「天井の一包」 男が、大諸侯の奥に勤めていた女を妻とする。夜、男が目覚めると、妻の傍に誰かが添い寝をしているように見えた。翌晩も同じことがあり、怪しい姿が煙のように天井へ吸い込まれて消えた。男が天井裏を調べたところ、小さな風呂敷包があり、婦人の翫(もてあそ)ぶ、水牛の角で造った張形が入っていた。心をこめて久しく用いた品には、このようなこともあるのだ(『真佐喜のかつら』9)。
★6.器物霊が人にとりつく。
『子不語』巻15-399 某貴人の娘が化け物にとりつかれて困っていた。道術を修めた兵士・伊五が、「これは器物の妖怪です」と言って、真夜中に娘の部屋に入り、妖怪と戦って退治する。妖怪の正体は籐の腰掛であり、焼き捨てると夥(おびただ)しい血が流れ出た。
『徳利(とっくり)の化け』(アイヌの昔話) 徳利が川へ落ち、石にぶつかって首がもげ、流されて海底に転がっていた。海の神が憐れみ、徳利を、首の短い男の姿にして陸へ上げてやる。その男(=徳利)は、自分が何ものであるかわからず、諸方をさすらう。男は、ある村の村長に突きとばされ、転がって、首のもげた徳利に戻った。男は村長の夢枕に立ち、「あなたのおかげで私は、自分が徳利であったことを知りました」と礼を述べた。
*→〔見間違い〕2の『武道伝来記』(井原西鶴)巻5-4の、庭を走る炬燵も、器物霊と思われたのであろう。
*袋に生命が宿って、人間の形をとることもある→〔袋〕7の『太平広記』巻386所引『玄怪録』。
*→〔狸〕5aの『文福茶釜』(昔話)は、狸が茶釜に化けたものとはいうが、茶釜に動物の魂が宿った器物霊のような印象もある。
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