軍備経済
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 05:59 UTC 版)
「ナチス・ドイツの経済」の記事における「軍備経済」の解説
「ドイツ再軍備」も参照 ナチ党はヴェルサイユ条約の破棄を主張しており、ヒトラーも1933年2月3日にハンマーシュタイン=エクヴォルト兵務局長宅で開かれた会談(de:Liebmann-Aufzeichnung)において、国防軍首脳に再軍備を約束していた。1933年の予算では軍事費は激増こそはしなかったものの、ドイツ航空省を設置して空軍の創設準備を開始していた。また雇用計画である緊急計画の費用のうち1億9千万マルクを始めとして、雇用創出費用の一部を再軍備費として流用することには、ヒトラー自身の強いリーダーシップがあった。また自動車産業の育成や、民間施設への地下防空壕建設など、軍事費には含まれないものの準軍事的な政策も多く見られる。8月1日には軍備計画が立てられ、1939年10月1日の時点で平時軍83万人、戦時軍462万人(野戦軍102個師団をふくむ)の編成を目標としていた。 一方で雇用問題が一段落した1935年5月21日にはシャハトが戦争経済全権に就任しているなど、将来の戦争計画も明らかにしている。軍事費は1933年度の7億2千万マルクから1934年度には33億マルクと大幅に増額し、以降も増大を続けた。第二次四カ年計画が始まった1936年には前年比から倍増し、一つの画期となった。 これらの事情から研究者での間では、雇用問題が解決されてから軍備増強が本格化されたという二段階説と、政権獲得後から軍備が継続されていたという一段階説がある。増大する軍事費で重要な位置を占めたのがメフォ手形であり、1933年から1937年までの軍事費総計324億マルクの内、メフォ手形によって捻出されたのは3分の2に近い204億マルクであった。1941年に海軍財政局は1933年以降の状態を回顧して、困難がなかったわけではないが、「(資金は)常にほとんど無制限に提供された」としている。 再軍備宣言が行われ、第二次四カ年計画期に入ると軍事準備は公然化した。1936年にフロムが作成した予測では、国防軍の支出は1939年から1942年にかけて年間300億マルク増加する見通しとなった。1935年から1938年までの総生産増加分の約47%が軍事支出にあたり、これに再軍備優先の投資を加えると67%となる。1935年の国家の購入による財とサービスの70%は国防軍であり、1938年には80%に増えた。 しかしドイツ経済の抱える資源不足や労働者不足は軍備の分野でも問題となっていた。四カ年計画の責任者でもあり、空軍司令官であるゲーリングは空軍に対する資源割り当てを増やす傾向があり、海軍や陸軍との間で熾烈な資源争奪戦が行われた。ヴェルナー・フォン・ブロンベルク国防相はヒトラーの調停を求め、1937年11月3日に軍首脳とヒトラーによる秘密会議が開催された。しかしこの席でヒトラーは、食糧問題や原料問題を解決するための領土拡張政策を強く主張した。具体的には、1938年から1945年の間に好機が訪れれば、チェコスロバキアやオーストリアに対して軍事活動を起こすことを表明したが、陸軍や海軍は難色を示した。この後、ブロンベルク国防相や陸軍総司令官ヴェルナー・フォン・フリッチュはナチ党の策動によるスキャンダルで失脚させられ(ブロンベルク罷免事件)、国防軍も完全にナチ党勢力下に入った。その後も党機関や各軍の資源・労働力争奪戦はやまず、効率的な軍拡は行われなかった。1938年になると財政状態が危機を迎えたため、予定されていた予算が初めて実行されないという事態を迎え、12月には国防軍最高司令部が軍事費の抑制を各軍に呼びかけている。第二次世界大戦開始時の航空機生産はイギリスと同程度、戦車にいたってはイギリス以下であった。 ドイツの軍備支出(単位:百万マルク、会計年度)軍需省陸軍海軍空軍計メフォ手形計国民所得中の軍備支出割合1932年- 457 173 - 630 - 630 1.3% 1933年- 478 192 76 746 - 746 1.5% 1934年3 1,010 297 642 1,952 2,145 4,097 7.8% 1935年5 1,392 339 1,036 2,772 2,715 5,487 9.3% 1936年128 3,020 448 2,225 5,821 4,452 10,273 15.7% 1937年346 3,990 679 3,258 8,273 2,688 10,961 15.0% 1938年452 9,137 1,632 6,926 17,247 - 17,247 21.0% 1939年258 5,611 2,095 3,942 11,906 - 11,906 - 1934-1938合計1,192 24,160 5,491 17,128 47,971 12,000 59,971 - 各国の国家財政に占める軍事費割合(%)ドイツイギリスフランスイタリア日本1929-1930年6.5 14.6 22.0 25.2 36.1 1933-1934年12.6 13.9 22.7 21.4 38.7 1936-1937年67.0 24.1 29.9 53.6 48.7
※この「軍備経済」の解説は、「ナチス・ドイツの経済」の解説の一部です。
「軍備経済」を含む「ナチス・ドイツの経済」の記事については、「ナチス・ドイツの経済」の概要を参照ください。
- 軍備・経済のページへのリンク