軍事獨裁とは? わかりやすく解説

軍事政権

(軍事獨裁 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/17 19:27 UTC 版)

軍事政権(ぐんじせいけん、英語: military junta)は、軍隊が直接的に政治を執行する統治形態[1]

概要

近代国家の原理では、軍隊は国家体制の存立を担保する強制装置ではあるが、議会政治の後景にあって『軍隊の政治的中立性』を保つべきことを建前としている[1]。しかし、現実には軍隊指導部(軍エリート)は政治的に重要な地位を占めやすい。近年の戦闘技術の発展は、軍事技術と産業技術との相互依存関係を不可欠に作り出しており、軍エリートと財界指導部と高級官僚層の統合が進み、いわゆる「軍産複合体」になっている[1]。そのため軍エリートの「政治的中立性」はほとんど建前のみとなり、重要な政治的役割を果たすことになる[1]。ただ議会政治や政党政治が安定している中においては議会政治原理の建前から軍エリートの政治行動は基本的に影の部分で行われるのが一般的である[1]

しかし議会支配による国民統合や秩序維持が困難に陥った時、『軍隊の政治的中立性』のイデオロギーから軍が直接に政治的統合・秩序維持を行うことがある。これが軍事政権である[1]。「軍隊の中立性」をイデオロギー的背景にした軍エリートが政治的統合の役割を果たす事例は、第二次世界大戦後のフランスシャルル・ド・ゴールの大統領就任演説など西欧にもその例はみられるが、西欧においては基本的には例外的統治形態である[1]

一方、1950年代に植民地から独立して国民国家形成を開始した、「第三世界」「発展途上国」と呼ばれている国々では、軍事政権が比較的発生しやすい傾向がある[1][2]小田英郎アフリカで軍部の政治的台頭が頻発する要因について、アフリカでは大統領制一党制など、中央集権政治体制が多いためクーデターによる政治交代が頻発する傾向が強く、その根本原因は、急速な近代化と国家建設による政治的・経済的・社会的緊張にあるという[2]。また、専門家集団や利益集団といった近代的な外部社会集団の成熟が緩慢であることが一因という。

これらの国々では伝統的部族対立や旧宗主国との結び付きなどによって議会政治の腐敗が起こりがちで、軍隊は相対的にその社会の中で最も急速に近代的・集権的集団となりやすい[2]。また軍備の立ち遅れから軍エリートは対外関係にも敏感になりやすく、国際感覚もその社会の中で相対的に進んだ者たちであることが多い[1][2]。この軍エリートの相対的近代性が発展途上国で軍事政権が日常化する傾向を生んでいる[1][2]

現在の軍事政権指導者

現在、軍事政権となっている国


名目上は民政であるが実態が軍事政権であったもの

脚注

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j 世界大百科事典』(平凡社)「軍事政権」の項目
  2. ^ a b c d e 阿久津昌三 和田正平(編)「アサンテとエヴェの民族関係」『現代アフリカの民族関係』 明石書店 2001年、ISBN 475031420X pp.119-123.

参考文献

  • Finer, S. E. 1969. The man on horseback: The role of the military in politics. London: Pall Mall Press.
  • Huntington, S. P. 1969. Political order in changing societies. New Haven: Yale Univ. Press.
    • 内山秀夫訳『変革期社会の政治秩序 上下』サイマル出版会、1972年
  • Janowitz, M. 1964. The military in the development of new nations. Chicago: Univ. of Chicago Press.
  • Janowitz, M. 1977. Military institutions and coercion in developing nations. Chicago: Univ. of Chicago Press.
  • Kennedy, G. 1974. The military in the third world. London: Duckworth.
  • Stepan, A. 1971. The military in politics: Changing patterns in Brazil. Princeton: Princeton Univ. Press.
  • Stepan, A. 1988. Rethinking military politics: Brazil and the southern Cone. Princeton: Princeton Univ. Press.

関連項目

外部リンク


軍事独裁

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/04 02:49 UTC 版)

西パキスタン」の記事における「軍事独裁」の解説

詳細は「パキスタン戒厳令英語版)」を参照 1947年から1959年にかけて政府不十分だ安定していた。7人の首相英語版)や4人のパキスタン総督1人大統領憲法に基づく政変英語版)やクーデターにより強制的に排除された。一つ連邦英語版計画厳し反対民衆の不満、政治的混乱ぶつかった。来る選挙でのムスリム連盟英語版)やパキスタン社会党英語版)への支援は、技術家政治英語版)を脅威さらしたムスリム連盟社会党は、1954年選挙連盟敗れると勢い得て社会党はイスカンダル・ミルザ(英語版大統領共和党英語版)の有権者異議申し立てをしていた。アメリカ合衆国が両州の民主主義失敗向かっていると見極める中で、アメリカ合衆国との関係は、悪化したアメリカ合衆国支援する軍事クーデター英語版)がパキスタン陸軍司令部により1958年開始された。ウルドゥー語話者英語版)とベンガル人強制的に西パキスタン問題から排除された。当時陸軍最高司令官英語版アユーブ・ハーン将軍率い戒厳令下で、連邦議会ダッカ移され一方で首都1959年カラチからラーワルピンディー陸軍戦闘総司令部GHQ)(英語版)に移された。1963年ラーワルピンディー首都としてお役御免になり、新都市計画され建設され最終的に1965年完成した1965年最終的に首都イスラマバード移された。

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「軍事独裁」を含む「西パキスタン」の記事については、「西パキスタン」の概要を参照ください。

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