象徴・祭器としての武器
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/16 14:12 UTC 版)
武器は単なる道具としての能力以外に、何らかの象徴や祭器としての役割を持つ場合がある。それら儀礼的な武器の中には装飾が施されたり儀礼性が高められた結果、実用性を失ったものも多い。 まず武器の本質が暴力装置であり死をもたらす道具であるため、武器のもつ意味合いも基本的には暴力的で不吉である。不吉であるがゆえに畏敬の念をもって扱われ、武器の製作にあたり神に祈りを捧げる習慣は珍しくない。そのような武器の使用には能力と責任が伴うと考え、これが特権的な要素と結びつくこともある。 伝統的武器では純粋な戦闘用として作られた武器ほど「武威を示す」意味合いが強くなり、逆に構造が単純であったり道具的なものは野蛮として忌避する傾向がある。 まず武器の性質そのものである「武力」や暴力を指し示す場合である。海賊旗の中でもドクロの下に交差する曲刀などはこの類と言える。国旗や国章の意匠として用いられる場合はさらに複雑な意味合いをもち、グアテマラの国旗には中央で十字になっているライフルが描かれ、「グアテマラを守るためには戦争をも辞さない意志」を表す。モザンビークの国旗に描かれたライフル銃(AK-47)は、「独立への苦闘」を表している。他にもアフガニスタンやガンビア、フィンランドなど剣や銃を意匠の一部とする国は多い。 次に武器が権力の象徴となる例である。古代では権力の裏付けとなる基礎価値が、暴力あるいは神秘性に求められ、また、テクノロジーの結晶であり希少価値・財産的価値の高い武器が所持品となるからでもある。これら権力には王権と神権がありそれぞれに分離する場合があり、前者では西洋の武器が、後者では聖職者のもつ職杖が特に知られている。日本の天叢雲剣(草薙の剣)は三種の神器の中では天皇の持つ武力の象徴とされている。 武器が社会的地位の象徴となることも多い。武器を扱うに足る責任と能力を得た「成人」の証として武器が贈られる習慣は世界中で見ることができる。明治時代では武器の没収に関連して反乱が起きたこともあった。古代中国では指揮官を任ずるにあたり軍権の象徴として黄金のまさかりをあたえる習慣があった。 武器が民族の象徴として扱われることがある。フランク人が用いたフランキスカ、サクソン人のスクラマサクスなどのように、民族の名を冠した武器がある。民族が用いたから武器にその名が付いたのか、逆に武器から民族名が付いたのかは意見が分かれているが、武器が民族の象徴となっていることに変わりはない。歴史的経緯から特定の武器に愛着や誇りを持つ民族も多い。 武器の威力や金属の輝きは武器に神秘性を与え呪術的な要素となった。死を与えるものが武器であり、いけにえや供物をさばくのには聖別された儀式用の短剣や斧が用いられる。刃をもった武器は扱い方を誤ると自らを傷つけるため禍々しい性格を備えているが、凶事をもって凶事を制する考え方や、「断つ」という性質から、魔や悪影響を断つ魔よけとして守り刀のようにも用いられる。他にも魔よけや縁起物としての武器は破魔矢、梓弓などと数多い。 斧は武器の中でも特に呪術的要素が多く、雷斧信仰は世界中で見ることができる。雷と斧の関連については、落雷の後で雨によって土壌が洗い流され石器斧が見つかることがあり、これを天から降った雷神の持ち物と考えていたとする説(天狗の鉞)や、雷が木を断つことから、同種に木を断つ斧も雷と関連づけたとする説などがある。雷は激しい雨を伴うことが多いため、農耕民族にとり豊穣をもたらす存在であった。そして斧もまた豊穣を示す祭器として儀式に用いられた。一方、供犠用の祭器としても斧はポピュラーである。例えば「義」という漢字は羊を斧で解体する様子を示し、これに牛を加え「犠」となると家畜の生け贄を指し示す漢字となる。また、罪人の首を切り死を与えるのも斧の役目である。
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