蟹
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)196「蛇と蟹」 蟹と蛇が一緒に暮らしていたが、蛇はいつも意地悪であった。怒った蟹は、蛇が眠っているのを見すまし、喉をはさんで殺した。
『沙石集』(古典文学大系本)拾遺61 大・中・小・3匹の蟹が、蛇と闘ってはさみ殺した。もっとも功績のあった小蟹が、3つに切断した蛇の、頭の部分を得て食った。
『太平広記』巻464所引『広異記』 大海の島に宝の山があり、商人たちが宝を船いっぱいに積んで出帆する。山の神である大蛇が追うが、蛇の敵の大蟹が海中から現れて蛇の首をはさみ殺し、商人たちは無事だった。
『パンチャタントラ』第5巻第15話 バラモンが旅立ちにあたり、母のすすめで蟹を旅の道連れとして樟脳の袋の中に入れておく。彼が樹の下で眠った時黒蛇が近づいたが、蛇は樟脳の芳香を好み、それを食おうとして袋の中の蟹に殺される。
蟹沼の伝説 沼近くの村に長者がいた。娘が夜泣きをするので、屋敷の庭に遊ぶ子蟹を、おもちゃとして与えた。以来、娘の夜泣きは止まり、すくすく成長する。子蟹も、娘から食べ物をもらって大きくなり、一族を増やす。嵐の夜、大蛇がやって来て娘を襲うが、蟹の一族が大蛇を殺して、娘を救った(秋田県由利郡由利町)。
『日本霊異記』中-8 蛇に呑まれようとする蛙を救うため、女が蛇の妻になることを承知する。約束の夜、家を閉じ祈願をしてこもる女のもとへ蛇がやって来るが、1匹の大きな蟹が、蛇をずたずたに切り殺して女を救う〔*中-12の類話では、8匹の蟹が蛇を殺す〕。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第5章 ヘラクレスが9頭のヒュドラ(水蛇)と闘った時、大蟹が蛇に味方してヘラクレスの足を噛んだ。ヘラクレスは大蟹を殺した後に、ヒュドラを退治した。
『閲微草堂筆記』「姑妄聴之」巻15「蟹の前世」 この世で悪事を働いた人間は、蟹に生まれ変わる(*→〔命乞い〕2)。他の生物と異なり、蟹は生きたまま釜に投げ入れられ、熱湯で茹でられてから、食膳に供せられる。茹で上がるまでに長い時間がかかり、その苦しみは堪えがたい。これは悪事の報いである。
*『無門関』(慧開)35「倩女離魂」は、悟れぬ人間が突如として死を迎える時のありさまについて、「熱湯に落ちた蟹が手足をバタバタさせるようなものだ」と説く。
★6a.平家蟹。
『耳なし芳一のはなし』(小泉八雲『怪談』) 壇の浦の海戦で、平家一門はまったく滅びてしまった。それ以来7百年もの間、この海や浜辺は、平家の怨霊に悩まされてきた。平家蟹という奇妙な蟹がおり、甲羅が人間の顔になっていて、平家の武士たちの魂だ、といわれている。
★6b.島村蟹。
『狗張子』(釈了意)巻1-5「島村蟹のこと」 細川高国の家臣島村左馬助は、わずかな過ちゆえに殺された。彼の亡魂は蟹となり、摂州尼が崎に多く湧き出た。これを島村蟹という。他の蟹より小さく、表面に皺(しわ)がたくさんある。
★6c.毛蟹。
『毛蟹の由来』(中国の昔話) 猿に追われて、蟹が穴へ逃げ込む。猿は穴の中に尻尾を突っ込んで、めちゃくちゃに振り回す。蟹は大きな鋏(はさみ)で、猿の尻尾をはさむ。猿は痛さにびっくりして尻尾を抜き取るが、たくさんの猿の毛が、蟹の鋏にくっついて残った。毛は年ごとにふさふさしてきて、代を重ねるうちに毛蟹となった(浙江省)。
『蟹工船』(小林多喜二) 蟹工船のストライキが、帝国海軍によって制圧された。漁夫たちは、誰が敵であるか、そして敵たちがどのようにつながりあっているか、身をもって知らされた。漁期の終わり頃、漁夫たちは蟹缶詰の「献上品」を作った。「おれたちの本当の血と肉を搾り上げて作るものだ。さぞ、うめえこったろ」「石ころでも入れておけ! かまうもんか!」。皆、そんな気持ちで作った。
★8.蟹を養う爺と、蟹を喰う婆。
『聴耳草紙』(佐々木喜善)75番「ココウ次郎」 爺が、池に棲む蟹たちに毎日握り飯を与え、「ココウ次郎」と呼んでかわいがった。ある日、爺の留守に、婆が「ココウ次郎」と呼んで蟹たちを集め、喰ってしまい、甲羅を垣根の向こうへ棄てた。帰って来た爺は、蟹が1匹もいないので不思議に思う。何日かたって、烏が樹の枝にとまり、「甲羅(かあら)は垣根。身は婆(ばんば)」と鳴く。爺が垣根まで行くと、蟹の甲羅がたくさん散らばっていた。
*虱を飼う人と、虱を食う人→〔虱〕4の『虱』(芥川龍之介)。
『シャム双生児の秘密』(クイーン) 探偵エラリイと彼の父クイーン警視が、外科医ザヴィヤー博士邸の客となる。夜、クイーン警視は、2階の暗い廊下の奥に、巨大な蟹のようなものを見て驚愕する。扉のカチリという音がして、蟹はどこかの部屋へ姿を消した。それは、16歳のフランシスとジュリアンのシャム双生児だった→〔シャム双生児〕1c。
*複合体(動物+器物、複数の動物)を、1体の化け物と見誤る→〔見間違い〕2。
★10.かに座。
『星の神話・伝説集成』(野尻抱影)「かに座」 中国の28宿では、かに座を鬼宿(きしゅく)と呼んだ。鬼(き)は、たましいのことで、かに座の中心にあるプレーセペ星団が青白くぼうっと光っているのを、魂と見たのである。インドでは、釈迦が生まれた日に、月がこの星宿に位置していたというので、めでたい星宿としている。プレーセペ星団を、釈迦の胸にある卍に似ていると形容している。
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