虐待に対して
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 04:29 UTC 版)
虐待への対応では、動機なきクライエントに介入し、限られた情報をもとに迅速かつ的確にリスクアセスメントを行ったり、適切な援助関係を構築したりするなど、高度な専門性が要求される。虐待への対応に精通するには、専門職としての基本的な見識・技術に加え、豊富な経験が不可欠であり、最低5 年から10 年程度の経験が必要であるとされている。よって、児童福祉司に専門職任用をすすめることが今後の課題である、という指摘がある。 近年は虐待通報数が急増しているが、虐待対応だけが職員の業務ではない中で、専門性が必要な虐待対応を行う職員数の不足も懸念されている。児童福祉司は虐待通告への初期対応に振り回され、虐待以外の相談への対応はおろか、虐待相談においてさえ、個々の事例に丁寧に対応しかねているのが実情である、という指摘もある。このような背景から、2004年(平成16年)度児童福祉法改正により地方公共団体(市区町村)も要保護児童対策地域協議会(児童福祉法25条の2)を通じて虐待を受けた要保護児童への支援を行う機関に加えられた。児童相談所は、市区町村の業務の支援も行うものとされる(児童福祉法12条2項)。 福岡市では「泣き声通告」後の確認をNPOに委託しており、「市から委託された見守り訪問で来た」と訪れることにより、その後の支援につなげていっている。また市の児童家庭支援センターと補完しあうことにより、土日の出勤の必要性をなくし、職員のバーンアウトを防いでいる。また同市では2017年度現在弁護士が常勤職員で課長を務めている。児童相談所が関係して0歳と2歳のネグレクトを受けて汚物まみれになっていた児童を保護して救出した事例もあれば、高知県南国市で起こった事件では小学5年生の男子が母の内縁の夫により殺害されている。なお、その弟は一時保護を経て児童養護施設に入所していため無事だった。 2020年1月に千葉県市原市で起きた生後10か月の次女を衰弱死させた母親の保護責任者遺棄事件において、千葉県では野田市の小4女児虐待死事件での行政が情報を出し過ぎたとの見解から、新たに虐待死事件が発生した場合には県は個人情報保護の観点から児童相談所の関わりを含め、一切情報を公表しない方針を決めていたことが判明し、報道各社より抗議された。市原市では死亡女児の兄や姉が通っていた幼稚園・保育園から「妹の姿が見えない」と通報されたがその事実を否定し、後に一転して認め市長が児相に通告しなかったなどの対応を謝罪のうえ、第三者委員会を設置すると報告している。同市では2014年生後8か月の男児が死亡し父親が傷害致死の罪で有罪判決を受けた虐待事件があった。児相が骨折した男児を一時保護しながら、虐待と断定できず「母方の祖父母宅での同居」を一時保護解除の条件に親元に帰したが男児は約1か月後に頭部外傷により死亡した。2020年6月の市議会教育民生常任委員会では市に対し過去の目視確認の反省が生かされなかったことが批判されている 。子ども虐待・性犯罪をなくす会のThink kisdでは2019年2月に、千葉県内で起きた虐待事件の千葉県の児童相談所の対応について警察と事案全件共有などの改善を促す要望を提案していた。 一方で、児童相談所がトラブルに巻き込まれる例も見られ、千葉県柏市では2020年に、児童相談所に火炎瓶が投げ付けられたり、銃弾が送付されるなどする事件が相次いで発生した。当時子供の一時保護を巡り児童相談所とトラブルになっていた男性が、知り合いを使ってこれらの犯行を行わせていたと見られている。 京都市では、京都市児童相談所勤務の男性職員(49)が2015年児童養護施設に入所する少女の母親の性的虐待の相談が放置されているとして市の公益通報外部窓口に通報したが、その前に少女に関する記録を閲覧及び印刷して自宅に持ち帰ったりした行為のため、停職3日の懲戒処分を受けた。この処分取り消しを求めて男性が提訴し一審では男性が勝訴し、京都市が控訴したが2020年6月大阪高裁で市の控訴が棄却された。市の人事部長は市の主張が認められなかったことに対して遺憾の意を唱え上告の方針を示している。滋賀県長浜市内のキャンプ場にある宿泊施設で、2014年8月に児童養護施設に入所していた少女(17)にみだらな行為をしたとして、京都府警少年課と下鴨署は2015年9月児童福祉法違反の疑いで、京都市左京区の社会福祉法人の施設長(54)が逮捕されている 。本件に対する京都市の主張としては児童相談所の対応に遅れや隠ぺいと言われる事実はなく、本件に関する調査は,プライバシーの保護の徹底を図るためのものであり、調査や処分は公益通報とは関係がなく公益通報者保護法上も問題がないとの見解を示している。 兵庫県明石市では、2018年8月に、市内在住の両親が、当時生後2ヵ月の男児について、児童相談所から虐待を疑われて一時保護される事案があった。児童相談所は、この男児を乳児院に長期入所させるよう神戸家庭裁判所明石支部に申し立てたが、2019年8月に同支部は「虐待とは言えない」として申し立てを退け、さらに同年11月に大阪高等裁判所も児童相談所の抗告を棄却した。これを受けて男児は両親の元に戻されたが、両親は約1年3ヵ月間に亘り男児と離れて暮らすことを強いられる形となった。同市の泉房穂市長は2020年9月に両親に会って謝罪し、第三者委員会を設置し問題点を検証するとしている。兵庫県明石市は2021年4月から、個々の事案ごとに一時保護の妥当性をチェックする「子どものための第三者委員会」を創設し、全国初の仕組みとして保護の直後に弁護士らの委員が全ての子どもと面会、2週間後には児相の判断が覆る可能性もある仕組みを開始する。虐待の疑いで児相に一時保護された乳児が、1年以上両親と面会できなかったが裁判で虐待が認められなかったことを背景として保護の妥当性のチェック制度を策定した。 大阪府では2018年冬に、府内在住の女性が、当時生後1ヵ月の長女を誤って床に落とし、長女は骨折や出血が確認されたため、児童相談所に一時保護されたが、その後児童相談所は、長女が虐待を受けていた疑いがあるとの鑑定書が出たことを受け、乳児院に入所させる必要があるとして保護の延長を大阪家庭裁判所に申し立てた。2019年3月に同家裁は「事故の可能性がある」と判断した上で、鑑定書を再検討するよう求めた。しかし児童相談所はこれに従わず、乳児院への入所手続を両親にも無断で進め、その後長女が自宅に戻ったのは約7ヵ月後で、その間両親と長女は離れて暮らすことを強いられる形となった。女性は大阪地方裁判所に計500万円の損害賠償を求める訴訟を起こし、同地裁は2022年3月24日に「虐待の有無を十分に検討せず保護を継続した」として、一時保護を続けた児童相談所の対応を違法と認定し、府に100万円の賠償を命じる判決を言い渡した。
※この「虐待に対して」の解説は、「児童相談所」の解説の一部です。
「虐待に対して」を含む「児童相談所」の記事については、「児童相談所」の概要を参照ください。
- 虐待に対してのページへのリンク