第2世代の開発
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 08:33 UTC 版)
姉妹機のA330は、A340から約1年遅れて1992年11月に初飛行に成功し、1993年10月に型式証明を取得して1994年1月に初就航していた。長距離は4発機、短中距離は双発機という棲み分けを提示したエアバスだが、航空会社はより航続距離が長い双発機を求めるようになっていた。1995年6月には、ボーイングによって開発された新型の双発ワイドボディ機777が路線就航を開始した。777は双発ながら優れた航続性能を持ち、A340-200に匹敵する14,000キロメートルという航続力を持つ発展型の登場も予定されていた。1995年11月にはエアバスも双発のA330の胴体を短縮して軽量化し、その分燃料搭載量を増やすことで航続性能の向上を図るA330-200の開発を決定した。また、ETOPS制度の拡充により双発機の運航可能範囲が拡大し、双発機がA340の市場を侵食しつつあった。このような状況で、エアバスは777に対抗でき、747初期型の後継需要も狙える機体として、A340の一層の大型化・長距離化を検討し、1996年4月に本格的な研究作業を開始した。詳細設計を続けたエアバスは、超長距離型のA340-500ならびに長胴型のA340-600を開発することを決断し、1997年6月15日にパリ航空ショーにおいて正式発表した。第2世代となる2モデルの機体案は以下の通りであった。 A340-500: A340-300と同等の収容力で、A340-200以上の航続距離を持たせる。 A340-600: A340-300と同等の航続力を維持しつつ、客席数を3割程度増加させる。 この新型機計画に対し、まず、ヴァージン・アトランティック航空がA340-600、エア・カナダがA340-500/-600両機種を発注する意向を示し、続いてエジプト航空とルフトハンザ航空もA340-600の発注を決めた。これら4社がローンチカスタマーとなり、エアバスは、1997年12月8日に正式にA340-500/-600を開発することを決定した。2モデル同時の開発決定であったが、開発作業はA340-600を先行させ、A340-500は半年遅れで作業を行うこととされた。 A340-500/-600(以下、第2世代と呼ぶ)では、胴体の延長、主翼と尾翼の大型化、エンジンの変更、降着装置の強化などが行われた。A340第2世代の胴体は、A340-200/-300(以下、第1世代)と同じ断面が使用された。胴体長は、A340-300と比べてA340-500では3.2メートル、A340-600では10.6メートル延長された。A340-600の全長は75.36メートルで、世界で最も全長の大きい旅客機となった。 主翼は全くの新設計ではなく、第1世代の主翼に対して追加構造体を挟み込むことで翼弦方向を拡大する方法が取られた。また、翼端部分の延長とウィングレットの見直しも行われた。これらの主翼の変更によって翼面積が約1.2倍に拡大、翼幅が3.15メートルに延び、後退角が31.1度に増えたほか、アスペクト比と翼厚比が減少した。胴体の延長にともない垂直尾翼と水平尾翼も大型化された。 主翼の大型化にともない主翼内の燃料タンク容量が拡大したほか、超長距離型のA340-500では胴体内にもタンクが増設された。機体全体での燃料容量はA340-300比でA340-500が52パーセント、A340-600が38パーセント増大した。最大離陸重量も引き上げられ、A340-500は標準航続距離が16,057キロメートル(8,670海里)に達し、世界最長の航続距離性能を持つ航空機となった。 エンジンは、推力の大きいロールス・ロイス(以下、R-R)社のトレント500(英語版)シリーズに置き換えられた。A340-500/-600はエアバスの旅客機として、初めてR-R社のエンジンのみを装備する機種となった。主翼の変更やエンジン推力の増加によって飛行性能が向上し、巡航速度はマッハ0.83に引き上げられたほか、上昇性能も向上した。 重量増大に対応するため、中央脚が標準装備になり4輪式に変更された。同時に機体の軽量化のため、構造部材の一部に新しいアルミニウム合金が導入されたほか、複合材料の採用範囲が一段と拡大され、後部圧力隔壁や胴体の縦通材にもCFRPが採用された。コックピットは第1世代と全く同じレイアウトだが、ディスプレイがブラウン管から液晶ディスプレイに変更され、これはA340-200/-300にもフィードバックされた。胴体の延長に合わせ、操縦系統のソフトウェアに若干の修正が加えられた。 客室の設計は基本的にA340-200/-300と同じだが、オーバーヘッド・ビン(座席上の荷物棚)が改良され、容積を拡大しつつ圧迫感の低減が図られた。胴体の延長に伴い貨物室も大きくなり、標準仕様でのLD-3コンテナの収容数はA340-500が30個、A340-600が42個となった。また、そこまでの貨物収容力を必要としない航空会社向けに、床下に配置できる旅客用の化粧室区画や乗務員の休憩用区画といったモジュールも開発された。 A340第2世代の製造と試験はA340-600が先行し、2001年4月23日にA340-600の1号機が初飛行した。A340-600の1号機と2号機は開発試験と型式証明取得のための試験に使用され、3号機は完全な旅客用設備を備えて、客室関係の試験や寒冷地試験、路線実証試験などに充てられた。A340-600の試験が始まると、ペイロードや航続距離性能が計画値に達しないという問題が明るみに出た。問題の主な原因は、機体重量が設計時の想定を上回っていたためであり、特にBAEシステムズ社が設計・製造を担当した主翼に起因するとされた。この問題は、開発途中から指摘されていたものの、主翼の空力性能の向上によって相殺されると期待され、製造・試験が開始されていた。結局、主翼の構造などを見直すことで重量の軽減が行われ、一時的に開発機の製造が当初計画よりも1か月遅れることになったが、問題の解決とともにスケジュールも見直され、エアバスでは影響は最小限で抑えられたとしている。また、A340-600の初期の飛行試験では、乱気流の中を飛行すると胴体前方の乗り心地が悪くなる問題が指摘されていたが、後に、振動を抑制するようコンピュータが自動的にエルロンや方向舵を操作するように改良が行われた。A340-600は2002年5月21日にJAAの型式証明を取得、同年7月26日にヴァージン・アトランティック航空に対して最初の納入が行われた。 A340-500の1号機は、A340-600の証明が交付される前の2002年2月11日に初飛行した。A340-500の型式証明のための試験には、当初は2機を用いる予定であったが、先行していたA340-600の試験が順調に進んだことと、A340-500/-600の共通性が認められたことから、実際に試験に使用されたのは1号機のみだった。A340-500の試験は同型式に固有の項目を中心に行われ、A340-600の証明取得から約半年後の2002年12月3日にJAAから型式証明が交付された。A340-500の初引き渡しは2003年の始めにエア・カナダに対して行う予定であったが、エア・カナダの経営状態の悪化により延期され、結果的に最初の納入は、2003年10月23日にエミレーツ航空に対して行われた。
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