笛
『妹背山婦女庭訓』4段目「御殿」 爪黒鹿の血と疑着(嫉妬)相の女の血を混ぜ、笛にそそいで吹くと、逆臣蘇我入鹿は正気を失い倒れる→〔血〕1b。
『江談抄』第3-50 浄蔵聖人が、深夜に笛を吹いて朱雀門を通ると、鬼が感嘆して名笛「葉二つ」を浄蔵に与えた。
『古今著聞集』巻6「管絃歌舞」第7・通巻268話 京極太政大臣宗輔が内裏から車で帰る時、良い月夜だったので、笛を取り出して「陵王の乱序」を吹く。近衛万里小路まで来ると、小さな人が陵王の装束をして、車の前で舞うのが見えた。それは、この地の社に祀られている神が、仮に姿を現したのだった。
ハメルンの笛吹き男の伝説 1284年、ハメルンの町に鼠が大発生した。笛吹き男がやって来て、いくらかの報酬を得る約束で、鼠を町から追い払う。しかし町は、男に報酬を支払わなかった。翌年、男は再び現れ、彼が笛を吹いて歩くと、町中の子供たちが皆、そのあとについて行った。男は子供たちを山の洞窟に導き入れ、子供たちは2度と帰らなかった。
『梵天国』(御伽草子) 玉若侍従が13歳の春、父・高藤大臣が死去した。玉若は亡父の供養のために笛を吹き、その音は天界にまで到った。梵天国王が笛の音を聞き、玉若の親孝行の心に感動して、姫君を玉若の妻として与えた。
★2a.神や霊を呼び寄せる笛。
『英霊の声』(三島由紀夫) 木村先生は、厳父天快翁が神界から授かったという石笛(いわぶえ)を吹いて、神霊を呼ばれた。霊媒をつとめるのは、23歳の盲目の青年・川崎重男君だった。ある夜の帰神(かむがかり)の会で、大勢の荒魂(あらみたま)が川崎君の身体に降り、それは一晩中続いた→〔神がかり〕2。
『源氏物語』「横笛」 夕霧は、親友柏木の遺品の笛を、一条御息所(=柏木の妻の母)から贈られる。深夜、夕霧が笛を吹くと、夢に柏木の霊が現れる。「笛の音にひかれてやって来たのだな」と、夕霧は思う。柏木の霊は、「この笛は君ではなく、私の子(=薫)に伝えたい」と告げる。
*笛の音とともに現れる霊→〔霊〕1aの『今昔物語集』巻27-25。
★2b.笛の音をほめる声。
『遠野物語』(柳田国男)9 菊池弥之助は笛の名人だった。ある薄月夜、大勢の仲間とともに馬を追い、笛を吹きすさみつつ大谷地(おほやち)の上を通った。すると谷底から、何者かが大きな声で「面白いぞー」と呼びかけた。馬追いの一同は皆真っ青になり、走って逃げた。
*歌声に応じて、「あな面白」という声がする→〔歌〕1cの『今昔物語集』巻27-45。
『笛塚』(岡本綺堂) 持ち主に祟る名笛があり、何人もの人が次々に非業の死を遂げた。天保9年(1838)、最後の持ち主である武士が職務の失策から切腹を命ぜられ、この世の名残に笛を吹く。突然、笛が2つに裂け、中を見ると「九百九十年終 浜主」の文字が刻まれていた。この笛は平安初期に尾張連(むらじ)浜主が作ったもので、990年の命数が、今尽きたのだった。
*枕の寿命(=数)を前もって知る→〔枕〕8の『奇談異聞辞典』(柴田宵曲)「物に数あり」。
★4.名笛と贋笛。
『十訓抄』第7-25 笛吹き成方が、名笛「大丸」をすばらしい音色で吹いていた。修理太夫俊綱がこの笛を欲しがり、成方を拷問にかけてでも取り上げようとする。成方は「こんな目にあうのも、この笛ゆえだ」と言って、俊綱の面前で笛を打ち摧いたので、俊綱もあきらめた。しかしそれは別の笛であり、成方は以後も「大丸」を吹き続けた。
『神道集』巻4-18「諏訪大明神の五月会の事」 ある夜、在原業平が百本ほどの笛を隠し持って、鬼王官那羅(かんなら)に会い、「青葉の笛」を借りて吹く。明け方近くに鬼王が「笛を返してほしい」と言うので、業平は「青葉の笛」とは違う別の笛を渡す。鬼王が「違う」と言うと、業平はまた別の笛を渡し、これを繰り返すうちに鶏が鳴く。鬼王は仰天し、笛を忘れて逃げ去る。
★5.口笛。
『M』(ラング) 謎の殺人鬼が、小学生の少女たちを次々に連れ去って殺した。ある日、盲目の風船売りが雑踏の中で、聞き覚えのある口笛のメロディーを聞く。それは『ペール・ギュント』の1節で、以前、その口笛を吹きつつ少女に風船を買い与えた人物がいた。そして少女は惨殺体で発見されたのだ。今、口笛を吹いている男も、少女を連れている。風船売りは仲間の青年に「あれが殺人鬼だ」と教え、後を追わせる→〔目印〕3b。
★6.骨で作った笛。
『唄をうたう骨』(グリム)KHM28 羊飼いが、橋の下の砂の中に小さな骨を見つけ、それで角笛の歌口を作って吹く。すると骨が「私は兄に殺されて橋の下に埋められた」と唄い出す。橋の下から髑髏が発見され、下手人の兄は袋詰めにして川に沈められる。
笛と同じ種類の言葉
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