硬質ポリウレタンフォーム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 08:23 UTC 版)
「発泡プラスチック」の記事における「硬質ポリウレタンフォーム」の解説
硬質用ポリオールを用いたPURを独立気泡で発泡成形すると、硬質ポリウレタンフォーム(硬質PUF)が得られる。PUFの定義は旧JIS K-6900では「圧縮強さが極めて大きく、変形させると応力を外してもほとんど戻らない」と曖昧な定義に留まっているが、ISO(TC61/WG10 [France-28] 205)では「50%圧縮後開放し、厚みの減少率が10%以上」と定められている。独立気泡の硬いフォーム構造をもったものは、最も高い断熱性を持っている。軟質ポリウレタンフォーム同様に研究開発が進む中、1958年にはHoudry社が開発した触媒を用いてワンショット法が実用化され、市場が大きく開けた。 原材料 硬質用ポリオールは、ポリエーテル系ではエチレンオキシドやプロピレンオキシドを付加重合し官能基数3-8・当量70-200とした多価アルコールや多価アミンなどを使用する。これにより、架橋密度とハードセグメント比率を高めた硬質のウレタンが得られる。硬化開始剤にはペンタエリスリトール、ソルビトール、スクロース、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、芳香族ジアミンなどから選択される。ポリエステル系ポリオールは、廃ポリエチレンテレフタレートを開始剤に用いる芳香族ポリオールがあり、難燃化が容易で安価な点が特徴である。 イソシアネートの選択は、現場スプレー発泡では成形時の粘性が高く蒸気圧が低いポリメリックMDI(クルードMDI)が使用され、モールディング発泡やブロック発泡では流動性を重視しTDIプレポリマーが使われる。また、ポリメリックMDIを触媒で三量化反応させたイソシアヌレート環を使用したPUFは特に「ポリイソシアヌレートフォーム」(PIRF) と呼ばれ、耐熱性や難燃性が高い。 触媒は第3級アミンに、スプレー発泡では反応を早めるために有機銀触媒が加えられる。発泡剤は過去、断熱性能を高めるフロン-11やジクロロフルオロメタン(フロン-12)が広く使用されていたが、1995年の使用禁止令以降は代替フロン(フロン-22、HCFC-141b(1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン)など)に転換され、さらに2000年代にはHCFC245faとHCFC365mfcの混合フロンやシクロペンタンなどへ変更された。水による発泡は併用する形で用いられていたが、実用化に向けた研究途上にある。 その他の添加物では、気泡の微細化や均一化また安定させるためにジメチルポリシロキサン系シリコーンオイルを整泡剤として使用したり、難燃性を付与するためハロゲン化燐酸エステル類や三酸化アンチモンまたは水酸化アルミニウムを加える場合もある。 製法・性能・用途 硬質PURフォームは注型発泡成形法の様々な手法が用いられる。その際、全原料を一度に混合発泡させるワンショット法と、イソシアネートを除いた原料だけをすべて混合させた液体(R液)とイソシアネート(T液)を別々に準備し、それらを合わせて混合発泡させるプレミックス法があり、原料選択や設備などが異なる。また、工場内で製造するケースと現場にて発泡させるケースでも区分される。 工場内で行うブロック法やモールディング法は軟質PURフォームの製造法に準じるが、クラッシング工程は無い。モールド法では比較的緻密なスキン層が形成されるため、金属部品などのインサート成形が可能となり、耐水性も向上する。家具・インテリアの芯材など多様に利用される。高密度のフォームは木肌に近い質感があり、さらにガラス長繊維で強化されたフォームは材木に匹敵する機械強度を持つため、耐腐食目的の構造材料として、船舶やタンク類または軽量で断熱性を持つ構造材として輸送・住宅・スポーツ用品などにも採用される。 連続ラミネート発泡は2枚の表面材の間に原料を注入して発泡させると同時に自己接着させ、サンドイッチ状の製品を一気に得られる。サイディングボードや断熱パネルなど建材分野での大量生産に向いている。注入発泡は箱状の空隙内で発泡させる点で原理的には同様だが、箱の強度がフォームの発泡圧力に耐えられるものまたはプレス・型枠などの治具で補助しなければならない。工場内で行うスプレー発泡は抑え治具が不要で曲面などへのフォーム定着に優れるが、層の厚み制御や表面の仕上げが難しく、原液飛散ロスや作業環境の維持にコストがかかる所など問題点が多い。そのため、バスタブなど限定的な採用に留まる。新幹線車両の床下などは気密性と断熱性を高めるためPIRFが注入またはスプレー発泡にて使用されている。 現場発泡は硬質PURフォームの利点を最も発揮できる方法であり、同じく現場発泡が可能なPFやUFなどと比較しても相手材を選ばない接着力や強度に勝り、ほぼ独占的に採用されている。作業性にも優れ、外気温が変動する季節要因への対応が易しく、また装置が簡素である。建設現場などで見られるスプレー発泡は、短い工期で広い面積の断熱層を簡易に形成できる手段として、ビルや大型冷蔵・冷凍倉庫または石油タンクなどの建設に採用される。ただし、気象条件や吹きつける対象の表面状態への対応、および均一で表面が整った層を形成するには熟練作業者の技術に負うところが大きい。 現場での注入発泡にはコンベンショナル法(ノンフロス法)とフロス法がある。原料を発泡前の液状で注入するコンベンショナル法は小規模な作業や地盤改良用グラウド注入に向くが、発泡圧が大きく、注入回数を多くしなければならず工期が長引く。フロス法は現場にて注入前に一次発泡剤を加える手間がかかるが、発泡圧が小さく泡の伸びも良いことから、船舶や化学プラントなどの大規模な断熱施工に向く。
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