石高と実体経済
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 02:25 UTC 版)
石高は近代的な生産統計ではなく、課税の基準を主たる目的としていたが、林業や水産業を十分カバーはしておらず、その一方で第二次産業に属する製塩や農産物加工等によって生まれた価値を一部含むため、単純に農業生産高に換算することはできない。また中間投入を除いていないため、二重計算の危険がある。これらに関しては明治以降はある程度データが存在し、例えば明治7年(1874年)の『明治七年 府県物産表』などを用いることでGDPの推定が可能となる。 地租改正直前における日本全国の石高は3237万石であったが、『明治七年 府県物産表』によると明治7年の米の生産高は2591万石、その物産額は1億4279万円であった。また農林水産業・鉱工業の全物産額3億7230万円(土木建築業や商業・サービス業などが含まれておらず、総生産高ではない)を平均米価で換算すると6756万石に相当する。なおこの物産表には北海道・沖縄県と独立国家状態であった鹿児島県(現宮崎県を含む)の統計が含まれていないが、大蔵省編『開拓使事業報告 第三編』によると北海道の明治7年(1874年)の物産額は339万8088円(陸産27万6736円、海産312万1353円)とあり、平均米価で換算すると物産高約60万石に相当する。また『旧鹿児島藩産物出入比較表』によると奄美・琉球の黒砂糖の生産高は明治2年(1869年)に2292万3千斤、代金85万5千両とあり、明治7年の砂糖と米の平均物価で黒砂糖の生産高を換算すると物産高約90万石に相当する。 明治七年府県物産表による物産額と割合物産物産額 (円)物産高 (換算石高)割合個々の物産の生産額(生産高)・備考農業 227,286,701 41,246,154 61.05% 米 142,799,024 25,914,013 38.36% (除外の鹿児島県の明治12年米生産高50万4210石) 麦 25,073,475 4,550,132 6.73% 大麦・裸麦1990万2387円(812万4891石)小麦517万1088円(173万3440石) 大豆 7,404,545 1,343,717 1.99% 大豆(生産高181万9138石) その他雑穀類 8,702,838 1,579,321 2.34% 粟234万2882円(98万4594石)稗96万5143円(93万5262石)蕎麦115万8907円(45万8814石)小豆150万2777円(33万7252石) 芋類・菜種類 11,658,046 2,115,608 3.13% 甘藷275万5685円(1億3500万貫)(除外の鹿児島県の明治12年甘藷生産高5989万貫)大根272万1907円 果実種類 2,201,056 399,430 0.59% 特殊農産物 27,915,167 5,065,819 7.50% 綿類743万4509円(1185万貫)菜種603万6757円(92万7829石)藍491万7261円煙草255万0262円(3783万4777斤) その他 1,532,556 278,116 0.41% 林業 14,565,405 2,643,212 3.91% 木材類236万2085円薪類604万1696円炭類227万2728円皮葉類309万2482円 水産業 7,276,345 1,320,452 1.95% 魚介類698万4375円(除外の北海道の明治7年水産物産額312万1353円) 畜産業 7,478,000 1,357,047 2.01% 牛類277万8446円馬類268万8721円 工業 111,891,559 20,305,176 30.05% 繊維工業 30,993,657 5,624,478 8.32% 綿織物1085万6271円(2013万8657反)絹織物458万1057円染物類303万2564円生糸類616万4752円(37万7千貫) 食品工業 46,944,869 8,519,175 12.61% 酒類1860万5495円(343万1364石)醤油633万8489円(94万6千石)味噌613万3487円(5110万貫)製茶395万1163円(1760万斤)塩239万3802円(385万1千石)砂糖239万3802円(1087万3423斤)(除外の奄美・沖縄の明治2年黒糖生産高2292万3千斤) 畳・障子製造業 1,913,137 347,181 0.51% 油・蝋製造業 7,017,856 1,273,544 1.88% 窯業等 8,521,690 1,546,447 2.29% 陶器類209万2030円 出版・印刷業 5,737,986 1,041,283 1.54% 紙類516万6881円 機械・製薬・その他 10,762,364 1,953,067 2.89% 諸器械類306万0854円肥料類305万7391円 鉱業 3,808,964 691,220 1.02% 総計 372,306,974 67,563,261 100.00% 実体経済については、中村哲により明治初期の『全国農産表』をベースとした農業生産高に関する実収石高の変遷の試算がなされていた。また最近になって高島正憲らにより、『明治七年府県物産表』をベースとした推定GDPの変遷の再試算がなされている。以下の表にその詳細を示すが(1874年の数値は北海道・沖縄県を含み、江戸時代以前の数値は北海道・沖縄県を除く。また「石」は江戸時代のものを基準とする)、それによると幕末には石高換算のGDPは1億石を超えていたと推定され、石高は実体経済の3割前後しか反映していなかったことになる。このように時代が下るにつれ石高と実体経済の乖離がますます進行した。 古代~明治初期の日本の実質GDP・産業構造の変遷の推定西暦全国人口(千人)耕地面積(千町歩)農業生産量(千石)実質粗付加価値額(石高ベース)1人あたりGDP第一次部門(千石)第二次部門(千石)第三次部門(千石)計(実質GDP)(千石)(石/人)(1990年国際ドル/人)730 6,100 640 6,329 7,502 481 711 8,695 1.43 388 950 5,000 1,028 7,990 9,472 575 883 10,930 2.19 596 1150 5,900 1,109 9,035 10,711 677 998 12,386 2.10 572 1280 5,950 1,276 8,278 9,837 668 1,094 11,599 1.95 531 1450 10,050 1,621 13,938 16,616 1,382 2,221 20,219 2.01 548 1600 17,000 2,497 25,879 30,678 3,652 7,306 41,635 2.45 667 1721 31,290 3,249 41,173 48,808 8,434 20,361 77,603 2.48 676 1804 30,691 3,892 49,604 58,803 10,091 24,402 93,296 3.04 828 1846 32,212 4,265 56,571 67,062 11,698 28,140 106,900 3.32 904 1874 34,840 4,594 64,861 77,103 15,888 36,551 129,541 3.72 1,013
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