独占の形態
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有沢広巳『カルテル・トラスト・コンツェルン』(1931年)には、JPモルガンをはじめ、ロックフェラー家、ソフィナ、イーヴァル・クルーガーなどの著名な独占体が分析されている。社会主義思想を呈する部分は削除の上再版されている。以下に別個説明するカルテル・トラスト・コンツェルンは露骨すぎて、戦後の独占資本は異なる方法をとるようになった。 そこで事実上の独占を発見する二つの方法が1960年代末に考え出された。一つは閨閥に着目する研究である。もう一つは投資信託に着目する研究である。それはライト・パットマン(Wright Patman)議員が1966・1967・1968各年に提出した報告書であり、日本語に翻訳されている。アンドリュー・メロンとも戦った彼の問題意識が、歴史観に基いた精査を可能にした。 カルテル 市場に複数ある同業会社同士が供給量などで協定を結び、価格を維持したりする形態。資本関係ではないので、政治背景によりしばしば国境を越える。ポイボス・カルテルなどの例がある。日本では戦前に電力連盟、オイルショック時代に不況カルテル多数。緩いカルテルは抜け駆けによってシェア拡大を図る好機となる(チリの硝石カルテルなど)。抜け駆けは閨閥およびその他人的関係を構築して防ぐ。 トラスト 市場に複数ある同業会社を合併・買収することによって市場を一社で支配すること。例にUSスチール、日本発送電、IG・ファルベンインドゥストリーなど。 コンツェルン 複数産業の会社などを資本の傘下において一社化を図る方法。持株会社や銀行が核となり、産業を垂直的に独占する。イタリアでは戦後も堂々と存続した。 投資信託 以下、1968年パットマン報告書におけるサマリーからの抜粋である。 モルガン・ギャランティ・トラストは、カリフォルニア州全体の36銀行の信託資産合計を上回る資産(168億ドル)をかかえている。全国の各都市圏においても銀行信託資産は各地域の一行もしくは数行に極端に集中している。全体的にみて銀行信託資産の集中は、商業銀行預金でみた銀行業の集中よりもはるかにすすんでいる。第一に、13000をこえる商業銀行に比べ信託資産をもつ銀行はずっと少数で約3100にすぎない。第二に、合衆国のメガバンクについて全商業銀行の預金総額に占める割合と信託資産総額に占める割合を比較すると、預金よりも信託資産の方が一層独占的である。たとえば預金規模最上位10行は全商業銀行預金総額の23.8%を占めるにすぎないが、信託資産規模最上位10行は全信託資産総額の36.8%を占める。 自然独占 初期投資の規模が大きく自然独占が最も効率的な産業においては、独占や寡占が認められる場合もある。電気・ガスや一部鉄道会社(特にJR北海道)などインフラ業界において多い。アメリカでは世界恐慌をきっかけとした規制当局の調査により投信ピラミッドを構成していたことが分かった。日本史では、関東大震災などを契機に流れ込んだ外債、特に社債の歴史に照らすと、日本のインフラ業界は政治的に自然独占が演出されたことが分かる。独禁法の改正で不況カルテルなどが容認されたときも逆コースの途中であった。国際的には海運アライアンスが自然独占を主張する典型であるが、補助金が焼け太りになっている感は否めない。 保険 保険会社は投信を大量に保有し、現代的な独占構造に加担している。二重に他人資本を利用するため、この構造自体は今のところ全くの合法である。ところで、独占禁止法(カルテル法)の存在する国というのが実は少ない。半世紀前の資料からの紹介となるが、独占禁止法の全くない国と地域を列挙すると、イラク・イラン・インドネシア・韓国・カンボジア・クウェート・サウジアラビア・タイ・台湾・香港・マレーシア・モロッコ・アイスランド・ハンガリー・ポルトガル・エルサルバドルがある。ヨーロッパにも独占禁止法が存在しない国を挙げることができる。イタリアとルクセンブルクは欧州経済共同体の規制に頼っている。オランダは独占禁止法が存在するが、欧州経済共同体の規制より緩い。オーストリア・西ドイツも存在するが、伝統的な投資先である東ドイツ・チェコスロバキア・ハンガリー・ブルガリアはそもそも社会主義なので存在しない。ここからが本題となるが、独占禁止法自体は存在しても、保険分野に適用できるそれがないという国がいくつもある。筆頭はオーストリア。そしてインド・キプロス・シリア・セイロン・パキスタン・ビルマ・フィリピン・ヨルダン・レバノン・ニュージーランド・チリ・アイルランド・ギリシア・ノルウェー・ウルグアイ・ペルー・ブラジル・キューバ・パナマ・ホンジュラス・アルゼンチン・ベネズエラ。オーストラリアも属すると疑われる。メキシコの独禁法は解釈で保険料カルテルに適用がないと考えられている。まとめに代えてあとづけするが、保険大国のフランスには独禁法がなく、保険は自国の監督法規で規制されている。
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