父と息子
『苦の世界』(宇野浩二)その2 鶴丸に金がないので、彼の愛人である芸者「あさ顔」は、他の男に身うけされる。名古屋駅の改札口に「あさ顔」を迎えに来た男を鶴丸が遠目に見ると、何とそれは彼の父親だった。
『源氏物語』「桐壺」「若紫」「紅葉賀」 桐壺帝は、藤壺女御(=先帝の四の宮)が16歳の頃、彼女を後宮に入れる。それから数年後に桐壺帝の息子光源氏が、藤壺女御(*光源氏にとっては継母にあたる)と関係を持ち、光源氏19歳・藤壺女御24歳の年の2月10余日、秘密の子(=後の冷泉帝)が誕生する〔*→〔百足〕4の『夢の浮橋』(谷崎潤一郎)は、そのタイトルも内容も『源氏物語』にもとづいている〕。
『ドン・カルロ』(ヴェルディ) スペイン王子ドン・カルロは、婚約者フランス王女エリザベッタを一目見ようとして出かけ、フォンテンブローの森で道に迷ったエリザベッタと偶然出会い、言葉をかわす。ところがエリザベッタの結婚相手は、突然、王子ではなくその父王フィリッポに変更されてしまう〔*後、父王フィリッポと王子ドン・カルロは、異端者の宗教裁判を巡って対立する〕。
『初恋』(ツルゲーネフ) 16歳の「わたし(ヴラジーミル・ペトローヴィッチ)」は、21歳の公爵令嬢ジナイーダに恋をするが、彼女には他に愛する人がいるようだった。やがて「わたし」は、自分の父がジナイーダの愛人であることを知った〔*しかし、ほどなく父は42歳で急死し、ジナイーダも別の男と結婚した後、出産のため死んだ〕。
*左大将とその息子が、同じ女(対の上)と関係を持つ→〔母と娘〕1の『有明けの別れ』巻1。
*父の処女妻を、息子が奪う→〔処女妻〕2の『夏の夜は三たび微笑む』(ベルイマン)。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第1章 幽閉されたダイダロスは空を飛ぶ翼を作り、息子イカロスとともに脱出する。しかしイカロスは父の注意にもかかわらず、高く飛びすぎたために、太陽熱で翼の膠が溶けて海に墜死する。
『変身物語』(オヴィディウス)巻2 太陽神の息子パエトンは、父に懇願して、1日だけ父の代わりに黄金作りの馬車に乗って空を駆ける。しかし軌道を踏み外し、天も地も炎に焼かれる。ユピテル(ゼウス)が雷電を投げ下ろし、パエトンは死んでエリダノス川に墜落する〔*『本当の話』(ルキアノス)が「まったくの作り話である」とことわって語るところによれば、その後パエトンは太陽に住み、住民たちの王となった〕。
*パエトンの馬車が地球に近づきすぎ、大地が汗を流した→〔海〕1の『パンタグリュエル物語』(ラブレー)第二之書第2章。
『父ありき』(小津安二郎) 堀川は早くに妻を亡くした。1人息子は、中学から大学まで、ずっと寄宿舎や下宿の暮らしだった。大学卒業後は秋田の工業学校の教師として赴任し、東京で働く父とは、さらに遠く離れてしまう。「父と一緒に暮らしたいから、教師を辞めて東京で就職しよう」と息子は考える。しかし父は「教師を続けるべきだ」と諭す。父は息子の縁談を決めた後に、脳溢血で死ぬ。息子は、「父が倒れる前、僕は上京して、たった1週間だけど一緒に暮らした。あの時がいちばん楽しかった」と、新妻に語る。
『巨人の星』(梶原一騎/川崎のぼる) 太平洋戦争下。星一徹は栄光の巨人軍に入団し、右投げ左打ちの3塁手として活躍を期待されるが、徴兵されて肩をこわし、復員後も公式戦に出ることなく引退した。一徹は、自らの叶わなかった夢を息子・飛雄馬に託そうと、まだ小学生の飛雄馬の上半身に大リーグボール養成ギプスをつけて鍛える。飛雄馬は高校中退後、左腕投手として巨人軍に入団し、川上哲治監督の現役時代の背番号16を与えられる。
『生れてはみたけれど』(小津安二郎) ある会社の課長が、郊外の専務の家の近所へ引っ越して来る。課長の2人の息子は餓鬼大将になって、専務の子供を家来扱いする。ところが父の課長は、専務にお世辞を言って機嫌をとり、専務の子供にさえペコペコする。そのありさまを見た課長の息子たちは、父親の情けなさに抗議する。母親が「お前たち大きくなって、お父ちゃんより偉くなればいいじゃないか」となだめる。
『アーサーの死』(マロリー)第21巻第1章~第4章 アーサー王と異父姉マーゴースとの間に生まれたモードレッドは、父アーサーがフランスへ遠征中に、勝手にイギリスの王となり、また父王の妃グィネヴィアと強引に結婚しようとする(*グィネヴィアはこれを拒否してロンドン塔に立てこもる)。反乱の知らせを受けて帰国したアーサーの軍と、モードレッドの軍とが闘い、アーサーはモードレッドと相討ちをして、2人とも死ぬ。
『サムエル記』下・第13~18章 ダビデ王の子アブサロムは、妹タマルが異母兄アムノンに辱められたことに憤り、アムノンを殺す。アブサロムは、やがて王と称して父ダビデと敵対する。エフライムの森の決戦で、アブサロムは敗れ死ぬ。
『巨人の星』(梶原一騎/川崎のぼる) 星飛雄馬は巨人軍の投手となって、大リーグボール1号をあみ出す。すると父一徹は中日ドラゴンズの打撃コーチに就任し、米人選手オズマを指導して、大リーグボールを打ち破る。飛雄馬は大リーグボール2号、3号を開発するが、極端な酷使によって左腕筋が断裂し、完全試合を目前に、飛雄馬はマウンド上に倒れ臥す。完全試合の成否を審判団が協議する中、父一徹は飛雄馬に言う。「お前はわしに勝ち、この父を乗りこえた。わしら親子の勝負は終わった」。
『オイディプス王』(ソポクレス) オイディプスはテーバイのライオス王の子だったが、生まれてまもなく山に捨てられ、コリントス王に育てられた。オイディプスは成長後、旅に出て、三叉路で、ライオス王が数名の供人を連れ車に乗って来るのと出会う。道を譲る譲らぬの争いとなり、オイディプスは相手を実の父と知らず、杖でなぐり殺す。
『王書』(フェルドウスィー)第2部第4章「悲劇のソフラーブ」 イランの英雄ロスタムは、ある時、対立するトゥーラーン国の属国に足を踏み入れ、そこの王女との間に男児ソフラーブをもうけた。ソフラーブは成長後、イランに攻め入る。ロスタムとソフラーブは、互いを父子と知らずに一騎打ちをする。ロスタムは高齢だったが、神に祈って若い時代の力を取り戻す。ソフラーブに致命傷を負わせた後に、ロスタムは自分が息子と闘っていたことを知る。
『道草』(夏目漱石) 健三は3歳から8歳まで、島田夫婦のもとで養育された。彼らは健三をかわいがって恩を着せ、将来の健三からの恩返しを期待していた。ところがやがて島田夫婦は離婚することになり、健三は実家に復籍した。健三が学業を修め洋行から帰ってまもなく、老いた島田が健三の家をしばしば訪れ、金を無心するようになった。不愉快な数ヵ月の後、健三は手切れ金百円を渡して、ようやく島田との関係を絶つことができた。
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