既存の字との衝突
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 15:27 UTC 版)
主に上記のように簡略化されているが、既存の別の字と重なってしまったものもある。 臺と台 本来、「台」(タイ、ダイ、イ)は星の名、はらごもり(胎に通じる)、よろこぶ、やしなう、うしなう、そして一人称の「われ」を意味する字であり、慣例的に「臺」の略字として用いられてきたが、新字体において「臺」は「台」の字形で収録された為に現在では「台」という字の本来の意味で用いられることはなくなった。 藝と芸 「藝」は新字体において「芸」になったが、もともと「芸」(ウン)という漢字があったため、意味も音も異なる二つの字の形が一致してしまった。多くの場合、一致してしまう既存の漢字はほとんど使われない死字であり支障はない。しかし芸の場合、奈良時代末期に石上宅嗣が設けた公開図書館「芸亭(うんてい)」がある。日本史や図書館学の教科書などでは芸亭の芸の「くさかんむり」「艹」を4画の「くさかんむり」「艹 (+ +)」にして区別をすることが多い。ただし、本来、「芸」(ゲイ)と「芸」(ウン)の字体は全く同じである。なお、芸(ウン)は「書物の防虫に使用される薬草」を意味し、転じて中国では「文学、教養」を想起させる文字として人名などに使われる。簡体字では上述した音符の交換により、北京語音で「藝」と同音の「乙」を使って「艺」と略す。 豫と予、餘と余 「豫定」・「豫告」の「豫(あらかじめ)」は「予」と略され、「餘剰」・「餘分」の「餘(あまり)」は「余」と略された。「予」・「余」はどちらも「わたし」という一人称 *yuを表す文字である。 蟲と虫 本来、「虫」(キ)は爬虫類を、「蟲」(チュウ)は昆虫などの小さな虫を表す別の字であった。「蟲」を「虫」と略したため、虫の字は本来の意味と蟲の字の意味の両方を持っていることになる。 絲と糸 「糸」(ベキ)は細い糸を表し「絲」(シ)が糸全般を表す別の字であったが、日本では「糸」が糸全般を表すように使用されていた。中国語圏では、『重編國語辭典』修訂本の 糸 項のように「糸」を「絲」の異体字とする例があるものの、このような簡略化は一般的ではなく、「絲」の簡体字は「丝」である。中華料理の青椒肉絲は日本でも「絲」のままで書かれることが多い。 豐と豊 「豐」は「ゆたか」という意味であり、音は「ホウ」。「丰」が音符となっている形声文字である(中国では「丰」が「豐」の簡体字になっている)。「豊」は「れいぎ」という意味で音は「レイ」。「礼」の旧字体「禮」の旁になっている。「豐」が「豊」に変更されたため両者が衝突することになり、音が「レイ」かでそうでないかで区別する(後述する「體」も「タイ」の音は「豊」にちなむ転音である)。が、「豊」は単独の漢字で使用されることがほとんどないので問題はほとんど起こっていない。なお「艶」(音は「エン」)の旧字体「艷」の偏は「豐」であるが、「艶」は純粋な会意文字なので、「エン」の音は「豐」にちなんでいない。 缺と欠 「缺乏」の「缺(ケツ)」は「欠」となったが、「欠」は「ケン」と読み、「あくび」の意味がある。なお「欠」の字にももともと「かける」の字義がある。「欠缺(ケンケツ)」という法律用語は2字目の「缺」を新字体にしてしまうと「欠欠」となってしまう。当用漢字では「ケン」の音読みは採用されなかったため、厳密に当用漢字に従うと交ぜ書きで「けん欠」となってしまう。このため法律用語では現在でも例外的に旧字体を使用して「欠缺」と書かれる。本文に新字体を採用している『広辞苑』、『大辞林』などの国語辞典でも、この語に限っては表記欄に「欠缺」の表記を採用している。2004年(平成16年)に可決、2005年(平成17年)に施行の民法現代語化を目的とした「民法の一部改正」によって「意思の欠缺」は「意思の不存在」と言い換えられたため条文から「欠缺」は消えた。ただ、新聞などのマスメディアにおいては戦後早くから「欠缺」の表記を使わず、「不存在」「存在しない」という表現に言い換えていた。 罐と缶 「缶」(フ)は「素焼きの甕(かめ)」を表す字で、「罐」(カン)が旁に「歡」(新字体は「歓」)の偏と同じ音符を持つ形声文字で、英語・canの音訳で「金属製の缶」を表す字であった。常用漢字に「缶」が追加された時には、すでに「缶」は本来の意味を失って「罐」の略字として用いられていたため、「缶」が採用されて「罐」が旧字体となった。ほかの旧字体に比べて比較的遅くまで「罐」が正式だったため、「ドラム缶工業会」が1987年まで「ドラム罐工業会」の表記を採用していたほか、社名に「罐」のつく企業は東洋製罐、北海製罐、日本製罐など多数存在し、その多くが製缶業者である。 體と体 「體」は骨偏に属し、音は「タイ」、「肉体、からだ」を意味している。一方「体」は人偏を部首とし、音は「ホン」、「あらい、そまつな」という意味がある。つまりもともとは「體」と「体」は全くの別字であった。だが、「体」が「體」の略字として古くから混用されていたため新字体に採用され、中国でも簡体字に採用されている。「体」を本来の音である「ホン」と読む熟語には「体夫」がある。これは「ホンプ」と読み、棺を担ぐ人足を意味している。 旧と臼と舊 現在、「旧」は「舊」(意味は「ふるい」)の新字体として用いられている。しかしかつて「旧」は「臼」(意味は「うすという道具」)の異体字であった。つまり「臼」の異体字が別字の「舊」の新字体として用いられている。これは「舊」の音符に「臼」が用いられていることからきている(音はともに「キュウ」)。「旧」は「臼」の異体字であったが、時代が下るにつれ「舊」の略字として混用されるようになっていった。「稻」を「稲」、「兒」を「児」と書くように、「臼」の部分を「旧」に置き換えた漢字も多くみられるようになった。つまり、「旧」は、音は同じだが意味のまったく異なる二つの漢字の略字に用いられるようになっていった。結果、新字体採用に当たって「旧」を「舊」の新字体とすると同時に、字のなかの「臼」の部分を「旧」に置き換えた漢字もいくつか新字体に採用された(例字として「稲」・「児」)。なお中国では「旧」を「舊」の簡体字としているが、「旧」は「臼」の簡体字にはなっておらず、「臼」を略した簡体字は存在しない。大抵は「稻」のようにそのまま簡略化せずに用いられるが、「兒」を「儿」と略すように、日本の新字体と異なる簡体字になって用いられている漢字もある。 亙と亘 「亙」は「コウ」「わたる」、「亘」は「セン」「のべる」の音義がある。しかし楷書では昔から「亙」を書きやすい「亘」に書いてきたため、両者は現在同一字種とされている。この字種は当用漢字・常用漢字ではないが、「亙」は1951年に人名用漢字に選ばれた。当用漢字時代は、名古屋法務局長からの照会に対する法務府民事局長の回答に基づき「亘」も子供の名付けに使えるという運用がなされた。1981年常用漢字表告示の際に「亘」と改められた。この時「亙」は許容字体となり、2004年に人名用漢字となった。これらのことから「亙」を旧字、「亘」を新字と見なすことがある。
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