携帯型キャンピングストーブ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 14:45 UTC 版)
「ポータブルストーブ」の記事における「携帯型キャンピングストーブ」の解説
19世紀の終わりに登場したプリムス・ストーブは、極地探検家やアルピニストなどにも愛用される液体燃料式ポータブルストーブの代名詞ともなったが、その後20世紀の初め頃からはプリムス・ストーブの構造をベースに燃料にガソリンを用いる物が登場するようになった。 こうしたガソリン式ポータブルストーブの中でも最も有名な物は、第二次世界大戦中の1942年にアメリカのキャンプ用品製造会社のコールマンが、アメリカ軍の要請を受けて開発したG.I. ポケットストーブであろう。GIポケットストーブは「摂氏マイナス51度からプラス52度の環境で作動し、なおかつ1クォートのミルク缶に収まるもの」という極めて厳しい要求性能を満たして開発された物であり、従軍記者のアーニー・パイルをして「戦争におけるもののうち、武器以外での主要発明品はジープとGIストーブだ」と言わしめる程の完成度を持っていた。1942年に登場したモデル520(M-1942)は後にモデル530(M-1945)、モデル536(M-1950)と改良を加えられていった。戦後、コールマンはモデル530を一般販売し、除隊して民間に戻った元兵士などを中心に幅広い支持を集めた。現時点での最終モデルであるモデル536は朝鮮戦争やベトナム戦争でもアメリカ兵の携行品として活躍し、高性能な固形燃料の普及とともに一線の装備品から退いた現在も軍放出品ショップなどでしばしば見られるものとなっている。コールマンは戦後はガソリン式ランタンをベースにしたホワイトガソリン式ストーブを多数開発。中でもかつて販売していた燃料調整バルブを2系統持つツーレバー(ダブルレバー)構造のものは、ガソリン式ストーブでありながら非常に細かな火力調整が可能で評価が高かった。 コールマン以前には第一次世界大戦末期の1918年にオーストリアのヨーゼフ・ローゼンタール金物製作所(MJR)が当時のオーストリア=ハンガリー帝国軍の要請を受けて開発したホエーブスストーブが存在し、欧州では永くこちらが著名であった。 コールマンやホエーブス製ガソリンストーブは戦車や自動車、オートバイの燃料として使われるガソリンをそのまま利用できたが、戦後ガソリンのオクタン価を高めるために様々な添加剤が加えられるようになると、ストーブメーカーはガソリンストーブの構造に適した組成を持つホワイトガソリンを広く販売するようになった。 ガソリン式ポータブルストーブの多くは、プリムス・ストーブと同様に燃料タンクの上にバーナーヘッドが取り付けられた構造が採用されており、基本原理その物はプリムス・ストーブとほぼ同じである。しかし燃料に揮発性が高く着火性も良いガソリンを用いることにより、原型の灯油式プリムス・ストーブよりもバーナーヘッドや気化器を小型化でき、ガソリンを少量プレヒート皿に取りアルコールを用いることなくプレヒート作業を行なえる。このためガソリン式ポータブルストーブは灯油式ポータブルストーブと比較して総じて小型軽量であり、キャンプの個人装備やハイキングでの携帯ストーブとして広く普及した。 燃料に揮発性の高いガソリンを使用するためにプリムス・ストーブとは異なり、燃料タンクとバーナーヘッドの間に燃料の流量を制御するバルブを一つ備えるレイアウト(ワンレバー、シングルレバー)の物が多く、このバルブを操作して消火も行なうことになる。タンク内の圧力を抜いても消火するが、圧力開放の際に気化したガソリンに引火する危険性が非常に高く、通常は行なわれない。バルブを全閉した状態であれば燃料タンク内にガソリンが残っていてもそのまま携行できる場合が多い。しかし初期のガソリン式ストーブの多くは構造上細かな火力調整が困難であることはプリムス・ストーブと共通している。 加圧式液体燃料ストーブの元祖であるプリムスは、1955年にプリムス・ストーブをベースに燃料をガソリンとし、ハイキング向けバックパッキング・ストーブとしての再設計を行なったスヴェア123を市場に送り出した。スヴェア123は極限まで構造を簡素化するためプリムス・ストーブに装備されていた加圧ポンプすらも省略する自己加圧式(自然加圧式)と称する大胆な設計を採っており、プレヒート作業はアルコールやガソリンをタンクに直接振りかけて点火するというものであった。このような構成を敢えて採ることで構造が更に簡素化でき、非常に頑丈なポータブルストーブを製造することが可能ともなった。1970年代にプリムスから液体燃料ストーブ事業を受け継いだオプティマスは、スヴェア123の構造をベースにストーブと一体化した金属ケースに折り畳んで内蔵可能な構造としたオプティマス8Rやオプティマス111(現オプティマスハイカー+)を開発し、スヴェア123共々広く人気を集めた。 スヴェア123のような自己加圧式ストーブは小型軽量な反面、極めて寒冷な地域ではタンクが冷えやすく、タンクの加圧が十分に行なわれない弱点が存在した。逆にコールマン系加圧式ストーブは寒冷地での信頼性に優れる反面、使用者のミスで過度なポンピングが行われた場合にはタンクに熱が加わった際に破裂する危険性が存在した。このようなタンク・バーナー一体型ストーブの欠点を抜本的に解決するため、1970年代の初頭にアメリカのen:Mountain Safety Research(MSR)が、登山専用ストーブと銘打つ全く新しいデザインのガソリン式ポータブルストーブを開発した。このストーブはバーナーヘッドと燃料タンクが分離され、折り曲げる事が可能な柔軟性を持った金属製チューブで連結された構造を採っており、バーナーと燃料タンクはそれぞれ分離して持ち運ぶ事が可能である。使用中は適宜加圧ポンプでの追加ポンピングにより、寒冷地での信頼性とタンク加熱に伴う破裂の危険性の回避を両立した。MSR製タンク分離型ストーブは1973年に最初のモデルであるモデル9(後にXGKストーブと改称される)が登場し、今日では市場に販売されるガソリン式ストーブの殆どがこのデザインを踏襲したものとなっている。 今日販売されている液体燃料式ポータブルストーブには、バーナーヘッドのジェットを交換する事で、ホワイトガソリンのみならず、自動車用ガソリンや灯油、軽油やアルコールなどの複数の液体燃料に対応できる物も珍しくはなくなっている。
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