プリムス・ストーブ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/22 04:05 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動プリムス・ストーブ(Primus stove)は、スウェーデン、ストックホルムの工場技術者フラン・リンドクヴィストが1892年に開発したケロシン燃料を使用する加圧式ポータブルストーブである。
概要
このストーブは携帯型のブロートーチ(blowtorch)の設計を基にしており、リンドクヴィストの特許はブロートーチでは下向きになっているバーナー部がこのストーブでは上向きに曲げられている点であった[1]。同年にリンドクヴィストはヨハン・ヴィクトル・スヴェンソン(Johan Victor Svensson)と共にこの新しいストーブを生産するためにJ.V.スヴェンソン ケロシン・ストーブ工場(J.V. Svenson’s Kerosene Stove Factory)を設立し、プリムスの名称でストーブを販売した[2]。最初のモデルである1型ストーブには直ぐに数多くの様々な型や大きさの類似の構造のストーブが追随した[3]ため、1889年にストックホルムで設立された工具と機械会社のB.A.ヨルト社(後のバーコ社)がプリムス・ストーブの独占販売権を獲得した[4]。
効率的なプリムス・ストーブは間もなく日常の使用で信頼性が高く頑丈であるという評判を生み、ロアール・アムンセンの南極点の探検[5]やリチャード・バードの北極点到達[6]といった極地探検への携行ストーブとして選ばれ、とりわけ悪環境下でその性能を発揮した。またマロリーのエベレスト登頂[7]や数十年経た後のテンジンとヒラリーの携行品の中にも含まれていた[8]。その他の数多くの会社もプリムスと同様の構造のポータブルストーブを製造しているが、メーカーがどこのものであれこの形式のストーブはしばしば総称して「プリムス」・ストーブと呼ばれることがある[9]。日本では岩谷産業との合弁会社イワタニ・プリムスの製品のみが「プリムス」を称する資格がある。
構成
プリムス1型ストーブは真鍮製で、土台となる燃料タンクとその上に付く「送油管」(rising tube)とバーナー部で構成されている。鍋を載せる鋼製トップリングは3本の脚によりバーナーの上で支えられている。他社製のプリムス式ストーブは大きいか小さいかという違いはあるが、基本的に同様の基本構造である。1型ストーブの重量は約 2.5 lb (1.1 kg)、大きさは高さ約 8.5 in (22 cm)、全体の直径はちょうど 7 in (18 cm)弱である。タンク部は高さ 3.5 in (8.9 cm)、2パイント強のケロシンが入り、タンク満載状態で約4時間燃焼する[10]。
構造
ストーブに着火するためにバーナー部は直下にある環状の「アルコール皿」(Spirit Cup)で少量のアルコールを燃焼させて予熱する。予熱後に燃料タンク内部に組み込まれている小型の手動ポンプで加圧することで内部のケロシンはタンクから送油管(Rising Tube、A)と上昇管(Ascending Tube、B)を通り予熱されたバーナーヘッド(Burner Head、C)に押し上げられ、ここで燃料は熱せられ蒸気化する。ケロシンの蒸気はその後下降管(Descending Tube、D)を通り蒸気ノズル(Vapor Nozzle、E)へ至る。気化したケロシン・ガスはバーナーの中心から噴流となり吐出し、ここで空気と混ざり合い煤の出ない青い炎となり燃焼する。更にポンプで燃料タンク内を加圧すると炎を大きくすることができ、小さな「エアスクリュー」(通常は給油口に付いている)を回すとタンク内の圧力が抜け炎を小さくすることができる[11]。
プリムスが登場する以前のケロシン・ストーブはオイルランプと同様の構造で造られており、灯心を用いてタンクからバーナーまで燃料を吸い上げていたことから不完全燃焼により盛大に煤が発生した。着火する前にケロシンを加圧し気化するまで熱するというプリムス・ストーブの構造により煤を出さない強力なより効率的なストーブとなった[12]。灯心を使わず煤も出さないためプリムス・ストーブは最初の「無煤」で「無灯心」のストーブとして宣伝された[13]。
脚注
- ^ Swedish Patent No. 3944 (Nov. 19, 1892)
- ^ “Primus”. Primus website. Primus AB. 2009年5月8日閲覧。
- ^ Primus Catalog No. 2 (Sept. 1, 1897)
- ^ A. Room, “Dictionary of Trade Name Origins,” p.142 (NTC Business Books 2d Ed. 1991)
- ^ R. Amundsen, “The South Pole: An Account of the Norwegian Antarctic Expedition in the “Fram,”1910-1912,” Vol. 1, p.63 (Kessinger Publishing 2004)
- ^ L. Rose, “Explorer: the life of Richard E. Byrd,” p.88 (University of Missouri Press 2008)
- ^ R. Messner, “The Second Death of George Mallory: The Enigma and Spirit of Mount Everest,” p.58” (Macmillan 2002)
- ^ E. Hillary, “View from the Summit,” p.2 (Simon & Schuster 2000)
- ^ H. Manning, “Backpacking, One Step at a Time,” p.274 (Vintage Books 1980)
- ^ Primus Catalog No. 17100E, p.2 (1971)
- ^ Primus “Instructions for use” Hang Tag (undated, circa 1935)
- ^ C. Hale, “Domestic Science, Part II” pp.81-82 (Cambridge University Press 1916)
- ^ Primus Catalog No. 2, p.3 (Sept. 1, 1897)
関連項目
外部リンク
プリムス・ストーブ
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「ポータブルストーブ」の記事における「プリムス・ストーブ」の解説
詳細は「プリムス・ストーブ」を参照 プリムスとは世界初の加圧式液体燃料ストーブであり、1892年にスウェーデンのフラン・リンドクヴィストによって発明された。その原理はブロートーチをベースにしたケロシン(灯油)を燃料とするものであり、リンドクヴィストはJ.V.スヴェンソンと共にen:Primus ABを設立してプリムス・ストーブとして大々的に売り出した。プリムス・ストーブは瞬く間に世界のポータブルストーブ市場を席巻する大ヒット商品となり、後の殆どの加圧式液体燃料ストーブの母体ともなった。 それまでの灯油ストーブは殆どは繊維製の芯を用いて、毛細管現象で燃料を火種に供給する構造を採っていたが、真鍮製の燃料タンクを持ち、加圧ポンプでバーナーヘッドに燃料を送り込み、自己の熱で灯油を気化させながら強力な炎を形成するプリムス・ストーブの登場は、灯油を用いるポータブルストーブの勢力図を一変させてしまう程のものであった。 プリムス・ストーブのバーナーヘッドは灯油が炎の中をループして自動的に気化が促進される構造となっており、着火する際にはこのバーナーヘッドを予熱する必要がある。この予熱作業はプレヒートと呼ばれ、主にアルコールやメタアルデヒドなどを用いて行われた。プレヒート作業を経て本着火が終了すると、バーナーの熱は次第に燃料タンクにも伝わっていき、タンクの熱でタンク内の圧力は常に高い状態に保たれてバーナーヘッドへの燃料供給が継続される。しかし、本着火前の燃料タンクには圧力が掛かっていない為、プレヒート作業前と本着火の際には燃料タンクに取り付けられた加圧ポンプを操作してタンク内に圧力を掛ける必要がある。 なお、ごく一般的なプリムス・ストーブには燃料供給を制御するバルブは存在せず、燃料タンクの空気弁を開いてタンク内圧力を抜くことで消火する。加圧ポンプで初期ポンピングを行うと自然にバーナーヘッドから燃料が噴き出すため、着火工程には慣れが必要である。またバルブが存在しない故に燃料タンク内に灯油を残したまま携行することは難しく、基本的には燃料を使い切るかバーナーヘッドを外して専用のキャップを嵌めて密封する必要がある。このキャップが存在しない程古い機種の場合にはバーナーヘッドを外して燃料を抜かなければならない。初期の物は火力調整はほぼ不可能で、常に全開火力で燃え続ける製品が一般的であったが、後年に登場したプリムスストーブ系の構造をもつ灯油ポータブルストーブの中には燃料供給制御バルブを持つ製品や、よりきめ細かな圧力制御が行える空気弁を備え細かな火力調整を行なえるようになった製品も存在する。 プリムス・ストーブはその構造の簡素さと完成度の高さから世界中で無数の類似品やコピー製品が製造された。日本においてはマナスルや、武井バーナーのパープルストーブなどが現在でも残るプリムス・ストーブ系ポータブルストーブとして著名である。なお、本来「プリムス」を称することが出来るのは提携社であるイワタニ・プリムスが輸入したものだけである。また韓国では昇和工業製の超大型灯油ストーブが屋台などでよく用いられており、一部は日本にも輸入されている。
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