型式学の方法と問題点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/23 15:44 UTC 版)
「型式学的研究法」の記事における「型式学の方法と問題点」の解説
人間が「モノをつくる」という営みは、自身の帰属する社会からの要求にもとづいているため、人工物はその社会において容認された一定の共通性を有しており、それは、ある一定の方向性をもって変化するというのが、古典的な型式学的研究法の前提となる。つまり、同時代の同集団に属する人間がつくったモノは、多少の変異をともないながらも、それぞれ互いに似た形態をしていると考えるのであり、よって適当な基準を選びながら、遺物や遺構の分類を積み重ねていくと、最終的には、同時代の同集団でつくられた、形を同じくモノの一群を他から区別することができる。この一群のモノから抽象されるところの特徴が「型式」である。あるいは、「型式」は、そうした特徴によって分類ないし統合されるときの単位であるといってもよい。 型式学的研究法は、まず第一に、資料を丹念に観察し、その特徴を読み取ることからはじまる。その特徴は、分類要素としても用いることが可能である。複数の資料を観察し、共通する特徴、たがいに異質な特徴を見つけ出し、いくつかの分類要素を組み合わせることで分類をつくっていく。要素の組み合わせは、研究者が重要だと考える要素を軸にしておこなうが、このとき何を重要とするのかについては、何を目的にした分類なのかで異なってくる。要素の組み合わせによりできた分類・統合の単位が「型式」であり、どのような規範によって道具が製作されたのかを説明するための分類では、生産の規範を反映したものが「型式」となり、資料同士の同質性や共通性が確認されれば、同じ規範で製作されたモノと考えられる。ただし、「他人の空似」ということもあるので注意が必要である。また、製作の規範が形態よりも機能にかかわる箇所に適用される場合があるので、これにも留意しなければならない。 第二に、設定した型式相互の関係性を検討し、同系統と考えられる型式について、年代の先後関係をなすように並べていかなくてはならない。先後関係は、特徴の出現と消滅、簡略化などを根拠にして構成していく。先後関係に沿って並べられた型式群が上述した「組列」である。「型式の組列」すなわち型式相互の関係性を叙述することで、モノの形態等の変遷を説明することができる。 最後には、多様な堆積土のそれぞれについて、その諸性質(土色・粒度・粘度など)を見分け、それによって認識できる地層や共伴して出土した他の資料を用いて、設定した「型式の組列」の正しさを検証する必要がある。地層は特殊な状況をのぞいて「地層累重の法則」が適用でき、出土層位から先後関係が判定できる(層位学的研究法)。組列がすでに検証され、先後関係や所属時期のわかる他の資料からも相対年代が検討に供される。 このようにして一地域の相対編年が確立されれば、次に隣接地域の考古資料との時間的関係が問題になる。そこでは、ここまでの型式学的研究で原則として扱わなかった一括遺物のなかに混入した他地域からの搬入品をむしろ積極的に取り上げる必要がある。異なった地域の編年をたがいに結びつける方法に交差年代決定法がある。 カメラや自動車などの変遷においても、新しい型式は、古い型式を基礎として生み出されることがほとんどであり、その前提に立てば形態の比較によって型式の先後関係を判定することが可能である。ただし、型式学的研究法では、たとえば壺と斧などのような異種間の年代関係を把握するのは困難であり、モンテリウス自身も提唱した「一括遺物」の検討や層位学的研究法による検証が不可欠である。 また、型式学的研究法によって、時間の経過やその広がりが明白になったとしても、その変化の要因を直接明らかにしたわけではない。型式変化を、その背景において追究する多目的な研究視点とその整備が求められる。 さらに、遺伝・変異・選択という普遍的ダーウィニズムをあらゆる現象の説明に適用することに対する批判も根強く存在している。考古学者からは無論、考古学者以外からも、文化や社会の進化は、ランダムな変異を主張するダーウィン的な発想よりも目的追求型の進化論を説いたジャン=バティスト・ラマルクの考え方に親和性を有するという見解や、人工物における「選択」の基準はあくまで人間にあるのだから、生物におけるような安定的な「クラス」を持たず、そこでは必ずしも「系統」は定まらないと主張し、人工物進化と生物進化を同列に考えることは不可能であるとする見解がある 。 現在、型式学的研究法に対する厳しい批判があるいっぽう、型式を極限にまで細分して研究を推進する傾向も強い。型式学的研究法に対する批判には、当初それが仮説の提示作業として案出されたことに対する無理解や誤解にもとづくものも少なくないが、モンテリウスは同時代の幅を20年ないし30年というスパンで考え、一地域を今日のヨーロッパの国を基礎として把握していた。この段階の研究法のままでは、文化や生業、社会や精神生活など複雑多岐にわたって設定されている現在の考古学の研究目標を達成するうえで不十分な点が現れるのも無理はない。型式学は遺物それ自体から当時の文化的・社会的特質を解明しうる研究法として依然基本的で重要なものである。しかし、新たな研究目標に十分対応できるような型式学的研究法をつねに鍛えていかなくてはならないこともまた確かなのである。 なお、型式学的研究法が論ぜられるとき、型式のほかに「形式」、「様式」、「相」、「インダストリー」、「コンプレックス」など類似の諸概念が用いられることがあるが、これらは多少なりとも異なった意義を有し、また、相互に関連しあっている。そのいっぽうでは、これら諸概念の用法においては多少の混乱もみられる。したがって、今後はその方法論的な整理と体系化が必要である。
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