国鉄での防振ゴムの応用
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「鉄道車両の台車史」の記事における「国鉄での防振ゴムの応用」の解説
第二次世界大戦後の日本で防振ゴムを台車に採用した最初期の事例の1つに、第二次世界大戦後最初の新造食堂車となったマシ35・カシ36形(1950年製)に装着されたTR46がある。 このTR46は、当時の量産客車用台車であるTR40の派生機種で、従来は軸ばね、枕ばね共に複数使用の3軸ボギーとし、ばね定数の低い柔らかいばねを使用することで良好な乗り心地を実現していた食堂車へ戦後初めて2軸ボギー台車を採用するに当たり、ウィングばね式の軸箱支持機構の採用により高評価を得ていたTR40を基本としつつ、乗り心地の改善を目指して下揺れ枕と枕ばねの間に防振ゴムシートを挿入したものであった。 この設計変更は好成績を収め、以後食堂車や寝台車、展望車といった優等車の2軸・3軸ボギー台車各種について下揺れ枕と枕ばねの間に防振ゴムを挿入する改造工事が順次施工されるほどの成功となった。 こうして枕ばねへの防振ゴムの採用が一定の成果をあげる中、国鉄は戦後初の完全新規開発による制式気動車として、キハ44000形を1952年に試作する。 このキハ44000形はディーゼルエンジンで発電機を回し、その電力で電動機を駆動して走行する、いわゆる電気式気動車であるが、その駆動系に直角カルダンを採用したことで一つの問題が生じた。 直角カルダンでは主電動機の電機子軸が線路と平行に配され、主電動機の長さが車輪のバックゲージに制限されないため狭軌でも採用が容易という利点がある。もっとも、車軸間の線路方向に電動機とカルダン継手を装架するため、台車の軸距を従来の機械式気動車用よりも長く設計する必要があり、さらに、発電システムと電車用制御器を併せて搭載する床下機器の設置スペースを確保する必要もあったことから、台車の軸距についてはキハ42000形用のTR29の2,000mmと、この時期の電車用台車の標準であった2,450mmの間をとって2,300mmとされた。 一方、搭載可能なエンジンの出力が低いキハ44000形の場合、軸距の増加による重量増を相殺する必要から、台車そのものの軽量化が特に厳しく要求され、しかも主電動機の電機子軸に接続される駆動軸が位置的に台車の上揺れ枕の心皿左右を貫通することになったため、物理的に上揺れ枕と下揺れ枕の間にコイルばねや重ね板ばねを設置することが不可能となってしまった。 これらの問題に対処すべく国鉄が採ったのが、軸ばねを下天秤ウィングばね式として可能な限りばね定数の低い柔らかいコイルばねとオイルダンパを組み合わせて使用、さらに揺動特性に大きく影響する揺れ枕の吊りリンク長を600mmに延伸した上で、TR46で成功した防振ゴムブロックのみを上下の揺れ枕間に挿入する、特異な設計であった。 DT18・DT18Aと命名された、この特異な設計に基づくキハ44000形用台車は、軽量化とコストダウンを特に厳しく要求され、またキハ44000形が最高速度90km/hと高速性能に対する要求を一段落としていたことから成立した、いわば低レベルの妥協の産物であった。 事実、完成した実車では基礎ブレーキ装置を両抱式踏面ブレーキとしたために制動時に軸ばねがロックされて防振ゴム以外にばね作用を行う機構が無くなり、凄まじい上下動に見舞われるなど、この台車は劣悪な乗り心地で不評を買った。 だが、この設計は軽量化と製作・保守コスト低減の点では従来の台車にはないメリットがある、と評価された。 そのため、液体式変速機を搭載したキハ44500形でも軸距を2,000mmへさらに短縮し、端梁を省略した上でこの設計を踏襲した台車がDT19・TR49として採用され、以後電車用のDT21系(1957年設計)を基本に、揺れ枕部などを一部手直ししたDT22・TR51系(1958年設計)で置き換えられるまで、これらの台車が国鉄気動車用制式台車として大量生産された。 もっとも、DT19・TR49の設計は最終的に失敗と判断されており、前述の空気ばね試用やオイルダンパの改良といった様々な軸ばね特性の改善による乗り心地向上の試みもことごとく失敗に終わった。 そのため、DT19・TR49を装着した車両は後年優先的に淘汰され、一部はキハ80系初期車の台車交換で発生したDT22・TR51系へ台車が交換されるなどの経過を辿っている。 こうして、日本の国鉄が厳しい制約に迫られて枕ばねを簡素化した台車を設計していた時期に、民間では、これとは逆に軸ばねを簡素化した台車の研究開発が、台車メーカー各社とユーザーである大手私鉄各社によって積極的に進められていた。
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