吸血鬼
★1.男の吸血鬼。
『吸血鬼ドラキュラ』(ストーカー) 吸血鬼ドラキュラ伯爵は、昼間は棺のごとき木箱の中に寝て、夜だけ活動する。彼は人々を襲って血を吸い、嬰児をさらうこともある。吹雪の日、雇われたジプシーたちが、ドラキュラを入れた木箱を荷馬車で運ぶ。雪が止み、夕日が沈む直前に、ジョナサン・ハーカーたちが待ち伏せし、木箱を開けて、刀や匕首でドラキュラを刺す。ドラキュラの身体は、たちまち粉々の塵と化す。
『吸血鬼ノスフェラトゥ』(ムルナウ) ノスフェラトゥ(=不死者)である吸血鬼が、ペストとともにブレーメンの町へやって来る。多くの市民がペストに罹患して、死の床に臥す。1人の女性が、自分の血を惜しみなく吸血鬼に与えて町を救おう、と決意する。夜、吸血鬼は彼女の血を吸い、夢中になって吸い続けているうちに、鶏が夜明けを告げる。朝日の光を浴び、吸血鬼は灰となって散り失せる。市民たちはペストから回復する。
『髑髏検校』(横溝正史) 文化年間(1804~18)、不知火検校と名乗る怪人(=髑髏検校)が、松虫・鈴虫という2人の美女を引き連れて、江戸の町に現れる。彼らは吸血鬼であり、夜ごと市中に出て人々の生き血を吸う。しかし昼間は活動できず、3つの柩の中に横たわっている。鳥居蘭渓や秋月数馬たちが、吸血鬼の眠る古寺へ踏み込み、3つの柩に花葫(はなにんにく)を詰めて火をつけ、彼らを焼き滅ぼす。不知火検校は、天草四郎の妄執の化身であり、徳川の天下をくつがえそうとたくらんでいたのだった。
★2.女の吸血鬼。
『吸血鬼カーミラ』(レ・ファニュ) カルンスタイン伯爵夫人「マーカラ」は150年前に葬られたが、彼女は吸血鬼であり、棺の中の死体は腐敗せず、7インチも溜まった血の中に浸っている。「マーカラ」は、「ミラーカ」という名の美女や、「カーミラ」という名の美女となって地上に現れ、人の血を吸う。官命を受けた調査会が「マーカラ」の墓を開き、胸に杭を打ち込む。首と胴体を切り離して焼き払い、灰は川へ流し捨てた。
『クラリモンド』(ゴーチェ) 聖職者である「わたし」が、夢とも現(うつつ)とも知れぬ状態で同棲する美女クラリモンドは、吸血鬼だった。「わたし」がナイフで果物をむいて指を傷つけた時、クラリモンドは嬉しそうに「わたし」の指の血を吸った。眠る「わたし」の腕をピンで刺して、滲(し)み出る血を吸うこともあった。僧院長セラピオン師が「わたし」を連れて墓地へ行き、クラリモンドの棺を開いて聖水をかける。彼女の身体は土と灰に化した。
*「女吸血鬼だ」と誤解された人→〔見間違い〕4aの『サセックスの吸血鬼』(ドイル)。
『アイ・アム・レジェンド』(マシスン) 謎の細菌に感染して、大勢の人々が吸血鬼になった。吸血鬼に血を吸われた人もまた吸血鬼と化し、今や地球上の人類すべてが吸血鬼である。ただ1人、ロバート・ネヴィルだけは免疫があったため、人間であり続けた。ネヴィルは吸血鬼たちと戦い、多くの吸血鬼を殺した後に、力尽きて死ぬ。吸血鬼の側から見れば、ネヴィルこそ特殊な・異様な存在であり、脅威であった。彼の恐ろしさ・忌まわしさは、伝説として吸血鬼社会に語り継がれるだろう。
★3b.吸血鬼たちが、ただ一人残った人間をそのまま生かしておく。
『抑制心』(星新一『ちぐはぐな部品』) 世界中の全員が、すべて吸血鬼になってしまった。人間は、「あなた」1人だけだ。「あなた」の逃げ場はどこにもない。しかし「あなた」の安全は保証されている。皆、「あなた」の血を吸いたいが、それは、1つだけ残ったお菓子を食べてしまうようなもの。だから皆遠慮して、誰も「あなた」に手をつけないのだ。
*「私」以外すべて狐→〔狐〕11の『かめれおん日記』(中島敦)。
★3c.人類が一人残らず吸血鬼になってしまえば、問題はない。
『流血鬼』(藤子・F・不二雄) 世界中の人間が吸血鬼にされてしまい、日本の少年1人だけが、人間として残っていた。吸血鬼特有の赤い目・青白い肌になったガールフレンドが、少年に説く。「私たちに血を吸われた人間は、新人類として生まれ変わるのよ。新人類は、あらゆる点で旧人類よりすぐれているわ」。少年はガールフレンドに血を吸われて新人類の一員となり、新しい世界の素晴らしさを喜ぶ。
★3d.逆に、人類が吸血鬼を殺しつくし、男女二人の吸血鬼だけが生き残る。
『血』(ブラウン) 人類による徹底的な吸血鬼狩りが行なわれ、かろうじて生き残った男女2人の吸血鬼が、自分たちの安全と生き血を求めて、タイムマシンで遠い未来へ行く。未来社会には見知らぬ生き物がいて、このように自己紹介した。「現在では、生きとし生けるものすべてが植物だ。ぼくは、蕪が進化したものである(「蕪から血を採る」には、「不可能なこと」の意味がある)〔*星新一は『短篇をどう書くか』で、『血』(ブラウン)は、「タイムマシン」「吸血鬼」「植物人間」という3つの知識を組み合わせて創った作品だ、と解説する〕。
『酒呑童子』(御伽草子) 大江山の酒呑童子は都の美女たちをさらい、身体の内から血をしぼり取って、これを「酒」と称して飲んだ。また、肉を削ぎ、肴(さかな)と称して食った。源頼光たち6人の武将が山伏に変装して訪れた時にも、しぼりたての血を盃に満たし、切りたての腕と股(もも)を板に載せて勧めた。頼光たちは酒呑童子を油断させるために、血を飲み肉を食べた。
蚊(高木敏雄『日本伝説集』第22) 大江山の酒顛(=酒呑)童子の頭が、竹薮へ投げ棄てられた。酒顛童子の亡念により、頭の肉は腐って蚊となった。蚊が人を刺すのは、酒顛童子が祟るのである(出雲国松江)。
『絵本百物語』第38「恙虫」 斉明天皇の御代(655~661)、石見の国・八上の山奥に「つつが」という虫がいた。夜、「つつが」は人家に侵入し、眠る人の生き血を吸って殺した。天皇の命令で博士某が「つつが」を封じ込め、人々は「つつが」に殺される心配から解放された。以来、無事であることを、「つつがなし」というようになった。
『のぶすま』(松谷みよ子『日本の伝説』) 卯月の頃、2人の侍が大茶臼の頂上に登った。誰かの忘れ物らしい渋紙があったので、2人はそこへ腰をおろして一休みし、やがて寝入ってしまった。すると渋紙がめくれ上がり、2人を包み込んで、強く締めつけてきた。1人の侍がようやく脇差しを抜いて渋紙を突き刺すと、渋紙はギャッと叫んで2人を振るい落とし、北の方へ飛び去った。これは、こうもりが千年たって化けた「のぶすま」という物で、人を包んで血を吸うのである(広島県)。
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