作品成立・構成
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「密会 (安部公房)」の記事における「作品成立・構成」の解説
安部公房は『密会』の執筆のきっかけとなったものは、中学校の教師が自分の教え子と関係も持ち、自殺したという新聞記事だとし、それを見た時に、その教師の内面に入ってみたらどうかという考えが浮かび、中学生の女の子が「中心のイメージ」となり、構想が徐々に出来ていったとしている。また救急車のサイレンの音も着想の一つとされる。 安部公房は『密会』の函文では以下のように付記している。 地獄への旅行案内を書いてみた。べつに特別な装備は必要としない。ただ入口だけは、まぎらわしいので、よく指示に従ってほしい。いったん中に入ってしまえば、あとは君が通いなれた道順にそっくりのはずである。地上では愛と殺意という二本の枝に別れていたものが、地獄では一つの球根に融けあっているとしても、驚くことはないだろう。いま以上に迷ったりする気遣いはないのだから。 — 安部公房「著者の言葉」 作品構成としては、盗聴器をしかけられ全て監視されていた主人公が、そのテープを聞きながら、自身の行動記録を三人称の「男」を用いて、ノートに記述していったものを軸にしたストーリー展開となり、最後の「付記」では、一人称に戻る。かねてより常に独自の表現を求める安部は、既成の比喩や言い回しを使うことなく、その情景が皮膚感覚として読者に伝わるような独特な表現の世界を描くことを目指しているが、『密会』における空間構造は、8年ぶりに自作を読み返した安部自身が、あまりの不気味さに書いた本人ですらたじろいでしまったという。 安部は作品の一つの骨格となっている「病人と医者」という「管理するものと管理されるもの」の関係性について以下のように語っている。 自分自身の中に、やはり患者としての自分、医者としての自分というものがあって、医者と患者というものは、両方ともある意味では自立した人間ではなくなっているわけだ。われわれが今おかれている現代という構造、これは非常に病院の構造に似た面があって、人間がその中で疎外されていっている側面に、事件として、出来事として次々ぶち当たるわけだ。その結果、ますます深い迷路の中に迷い込んで行くという、その部分は探偵小説らしくない、いわゆる解決というものは出てこないけれども、解決がないことによって、われわれの、逆に現実認識の実態というものに深く照明を当てるという構造になっていると思うけれども、これは説明が難しい。 — 安部公房「自作を語る――『密会』」
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作品成立・構成
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『美しい村』は、堀辰雄が、精神的な危機状態の時に滞在した「美しい村」(軽井沢)での、その精神状態からの脱皮の過程を描いているが、堀はそのモチーフを音楽のように、「対象なり、感情なりを、すこしも明示しないで、表現」したいと考え、バッハの遁走曲(主題と対主題の応答と転調のうちに曲が展開する)を聴いたことが、小説の形式を思いついたきっかけとなった。「美しい村」の章の副題に「或は 小遁走曲」とあるのは、そのことを暗示させている。 堀は小説の構想を練りながら、毎日散歩を重ねて行くうちに、チェコスロバキア公使館の別荘から漏れ聞こえてくるバッハのト短調の遁走曲のピアノから音楽的な構成を思いついた。堀が歩いていた散歩道は、ほぼ4つであったが、前田愛は、「いったん時間の流れのなかに溶けこまされた」4つの散歩道が、「それぞれの旋律を奏でながら、やがて一つの主題へと絞り上げられて」いき、「目に見える風景の一齣一齣を、音符に組みかえ、各小節を構成して行く音楽的描法」を堀が考えたと説明している。 またそれは、主人公の「私」が4本の散歩道を繰り返し辿っていくうちに、小説の構成全体が固まっていくという「入れ子構造」を持ち、主題の発展を追求する小説家のその有様そのものを描いた、一種の「アンチ・ロマン」(反・小説)となっている。 堀は『美しい村』を書くにあたって葛巻義敏への手紙で次のように述べている。 いつか君に話した題材はすつかり諦めてしまつたやうに書いたけれど、実は、まだあれはすこし未練がある。ただ、それを直接に描きたくないのだ。その点で、僕は音楽家が非常に羨ましくなつてゐる。音楽はそのモチイフになつた対象なり、感情なりを、すこしも明示しないで、表現できるんだからね。だから、今度の作品をそんな音楽に近いものにして、僕のそんな隠し立を間接にでも表現ができたら、とてもいいと思ふんだ。 — 堀辰雄「葛巻義敏への書簡」(「『美しい村』のノオト」)
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